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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第3章 楓機構
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45 森の戦い・神

 地面が揺れるのに気づいて、僕は顔を上げた。


 「地震……?」


 長く、大きな揺れだった。扉や窓は閉め切られているから、今が一日のいつ頃なのかはさっぱりわからない。ただ、すぐに神官が外に飛び出して騒ぎ出したから、どうやら昼間らしいと知れた。

 しばらく耳を澄ましていたけれど、ここへ来る様子はなく、僕はまた顔を膝に埋めた。


 何だか、変な夢を見た。


 妙に現実的で、夢というには迫力があった。見たこともない鬼の姿をあんなにも鮮明に見られるなんて驚いた。それともあの鬼の姿は、僕の想像の産物だろうか。


 まあ、どうでもいいか。


 僕は目を閉じ、また夢の世界へと沈み込んだ。こうしてまどろむ以外にやることがない。一日に一度、水と食料が扉下の小窓から差し入れられるが、声がかけられることはない。いつまで閉じ込められるのだろうか、という不安はとうになくなり、ただひたすら僕はここで膝を抱えてまどろむだけの「もの」になった。


 そうして、何日も何日も過ぎた。


 その間にも、あの変な夢を見た。僕は倒されても倒されても鬼に挑み続けた。鬼が僕に倒されることはなかったけど、僕のしつこさに心底うんざりしたようで、鬼は禁域の森を出るとそのままどこかへ行ってしまった。

 僕は、禁域の外へ鬼を追おうとして、できなかった。

 なぜなら、僕の前に、鬼とは別のものが立ち塞がったからだ。


 神、と呼ばれる存在。


 鬼とは違う、人よりはるかに強い存在。禁域の森に迷い込んだあの鬼とは比較にならない力を持つ神が、三体も僕の前に立ち塞がった。


 ──神が()を見て笑う。


 「ほう、これが楓か」


 僕は首をかしげる。鬼も僕のことを「楓」と呼んでいた。僕の名前が知られているのはなぜだろう。僕は、武勇や知略で近隣に知られた存在というわけではない。鬼や神にとって人なんて取るに足らない存在だというのに、その人の中でもさらにどうでもいい僕を、鬼や神はどうして知っているのだろうか。


 「とりあえず、潰しておくか」

 「そうだな」


 中心にいた神の言葉に、両隣の神がうなずいた。


 危険を感じた()は、禁域の森へと逃げ込んだ。

 三体の神は()を追って禁域の森に入ってきた。

 ()は、鬼と戦ったように、三体の神と戦った。だけど、()はまるで歯が立たなかった。数が増えたから、というだけではない。一体一体の力が、あの鬼とは別物だった。段違い、桁違い、いや、まさにこれが格の違い、かもしれない。

 ()は必死で神に挑んだ。だけどまるでかなわない。鼠が猫に挑むのがあの鬼との戦いなら、蟻が猫に挑んでいるのが神との戦いだった。


 「我らを、あの若造の鬼と同じと思うなよ、楓」


 三体の神は()を嘲笑い、ほしいままに蹂躙した──


 ぶつり、という感じで夢が途切れ、僕は深い眠りに落ちた。

 その日を最後に、僕は禁域の森での夢を見なくなった。


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