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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第3章 楓機構
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44 森の戦い・鬼

 ()は深い森の中にいた。

 ()の視線の先には異形の者がいる。隼人よりもさらに大きな体で、頭には二本の角、口を開けると鋭い歯が見えた。

 鬼。

 人の天敵。かつて人は鬼によって滅亡寸前まで追い詰められた。小人族の助けを借りて何とか撃退したものの、千年以上たった今でも、鬼は人の天敵だった。

 その鬼に、()が襲いかかる。

 鬼は()の一撃を軽々と受け止め、すさまじい威力で僕を殴り飛ばした。

 ()は、頭を砕かれた。


 「いまいましい」


 ()は、舌打ちする鬼の後ろ姿(・・・)を見ていた。鬼が静かに振り返り、()を睨みつける。


 「楓、か」


 鬼は僕の名をつぶやいた。そして「うんざりした」と言わんばかりの表情を浮かべると、両手を合わせて祈りを始めた。


 「聞きしに勝る、うっとおしさだな」


 瞬きののち、()は右側から鬼を見ていた。また瞬きをすると、今度は左側から鬼を見ていた。()の視点は瞬きのたびに変わっていき、一周して正面へ戻ると、鬼の手に光が生まれているのが見えた。


 あれは、まずい。


 そう考えた瞬間、()は四方八方から鬼に襲いかかった。鬼は舌打ちしつつ、()を次々と蹴り飛ばし、それでもなお襲いかかる()を肘と頭突きで叩き落とした。


 「まとめて吹き飛ばしてやるから、大人しくしてろ!」


 鬼の咆哮に、()はその祈りを掻き消さんと攻撃を続けた。鬼はいまいましそうにはしているが、()の攻撃ではびくともせず、ついに祈りを完成させた。


 「消えろ、人形!」


 鬼が両手を広げた。鬼の手から光がほとばしり、()を次々と打ち倒していく。打ち倒されるたびに()の視点は切り替わる。()は反撃を試みるが、鬼が放つ光に阻まれて鬼に近づくことすらできなかった。

 ()の視点は動かなくなった。

 鬼の左斜め上、木の上から落ちていき、鬼のすぐ横に落ちた。まだ動く右手を伸ばし、鬼の足をつかんだが、鬼は忌々しそうに()の手を振り払い、次いで()の頭を踏みつぶした。


 「くそ、なんて面倒くせえやつだ」


 頭が潰されたせいで、鬼の姿は見えなかった。でも、音は聞こえた。鬼は()の眼の前にしゃがんだようで、がしり、と()の頭をつかんで持ち上げた。


 「……こんな森、好奇心に駆られて入るんじゃなかったぜ」


 持ち上げた()を、鬼が眺め、ひっくり返し、崩れたところから指を突っ込んで調べる。痛くもなければ苦しくもない、ただただ、触られて、見られている、という感覚だけがあった。

 カコン、カコン、と鼓動が始まった。


 「あん?」


 鬼が鼓動に気づいた。「何の音だ?」とつぶやき、つかんでいる()を丹念に調べ始める。


 ()の視線が、切り替わった。


 壊れた()の頭をつかみ上げ、訝しげな顔で調べている鬼の背中が見えた。

 カコン、カコン、と鼓動が続く。

 ()の奥から何かが溢れ出し、壊れた部分を補っていく。しばらく経つと()はまた瞬きのたびにいくつもの視点を切り替えられるようになり、やがてゆらりと立ち上がった。


 「な……!?」


 壊れたままの()を見ていた鬼が、背中を見ている()に気づいた。

 忌々しそうな表情が、嫌悪と、ほんのわずかな恐怖に染まる。


 「そういうことかよ」


 鬼が壊れた()を地面に叩きつけ、完膚なきまでに破壊した。


 「くそったれが……こうなったら全力だ、神との協約なんぞ、知ったことか!」


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