41 狂った歯車
僕は隣町の生まれだった。親がどういう人かは知らない。荒れ狂う神様に襲われて僕の生まれた町は滅ぼされた。隼人の父親が兵を率いて救援に来た時には、もう僕しか生き残っていなかった。
赤ん坊だった僕は、生まれたばかりの隼人とともに育てられることになった。
隼人の父親としては、お互いに切磋琢磨しながら成長し、将来は隼人の右腕にでもなってくれればという思いだったのだろう。だけど、僕は成長しても一向に男らしくならず、むしろ女と見紛うような容姿に育った。
逞しく大きく育っていく隼人が羨ましくて、僕は滅茶苦茶に体を鍛えた。でも、鍛えれば鍛えるほど、なぜか女らしく華奢になり、小柄で可憐な姿になった。
男として戦士として隼人の右腕になることを期待されていたのに、それが叶わない。
劣等感に苛まされ、僕はふさぎがちになった。
そんな僕を励ましてくれたのが、隼人と僕の幼馴染でもある桔梗だ。
「よし、ならいっそ着飾ってみようよ!」
あのおてんば娘は、面白半分で僕に女の服を着せて着飾らせた。
その結果はシャレにならなかった。
僕は、自分でも驚くような美少女に化けた。面白がって桔梗を手伝っていた侍女も息を呑んだぐらいで、このまま外に出れば間違いなく町中の人が振り向くだろうと思われた
「うわー、すっごーい……」
あのおてんば娘が絶句したのを見たのは、後にも先にもあの時だけだ。騒ぎを聞きつけた隼人もやってきて、美少女に化けた僕を見て呆然としていた。
それが十二歳の時。何かがおかしくなったのは、それがきっかけだ。それから三年、僕と隼人は友人として過ごしながら、少しずつ歯車を狂わせて行った。
戸惑い、驚き、悩み、そして十五の春、二人で遠乗りに出かけた時、初めて愛し合った。
強引な隼人の求めを、僕は拒みきれなかった。望んでいたのとはまるで違う関係になってしまい、僕は劣等感だけでなく罪悪感にも苛まされるようになった。
僕と隼人の関係は、そのうちみんなに知られるようになった。
激怒した領主に殴り飛ばされ、「その場で死ね!」とまで言われた。刃向かうことも、潔く死ぬこともできず、ただうずくまって泣くだけの僕は、呆れられて見捨てられた。
領主の館の片隅にあった僕の部屋は、町外れの、神殿の片隅へと移された。
そこで何の役割も与えられず、ただ施しを受けて毎日を過ごした。神官たちに蔑まれ、時には暴漢に襲われて命乞いをしてこびへつらい、僕は息を潜めて生き続けた。
僕は、どうして生きているのだろう。
何をするでもなく、ただうずくまって生きているだけの僕。飲まず食わずでこのまま朽ち果ててしまおうか、とも考えたが、神殿に死の汚れを持ち込む気かと叱責され、ただ生きるためだけに生きてきた。
そして、一年が過ぎ。
僕は、今すぐに死ななくては、という強烈な思いに突き動かされて、町を出て禁域の森を目指していた。




