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111 蹂躙

 俺と鈴丸がやや離れたところで見守る中、神は、零に蹂躙された。

 神の攻撃は、零に一切届かない。どんな攻撃も、全てがかき消される。


 「終わりか?」


 やらせるだけやらせて、神が息切れしたところで零が笑う。ニヤニヤ笑いながら神の攻撃をかわし、時々蹴りを入れて神を地べたに倒して嘲笑いつつ見下した。

 完全に、遊んでいた。


 「どうした、反撃しろよ。七王と九部ともあろうものが、チンケな悪霊に嬲られてていいのか?」


 極悪非道をそのまま笑顔にしたら、今の零の顔だ。可愛い顔してるからか、そういう顔するとマジ怖い。

 ま、十万年分だしな。まさに積年の恨みなんだろうな。


 「わ、我らの攻撃を無効化しただけではないか! お前の貧弱な力で、我らが倒せるものか!」

 「……馬鹿者が」


 強がる神の言葉に、鈴丸がそうつぶやいた。

 全く同感だ。

 九部の一体か? あいつ、今の零がどんだけヤバイかわかってねえな。


 「じゃ、試してみよう」


 零の顔から笑顔が消えた。強がった神に無遠慮に近づいていき、繰り出された攻撃をあっさりと無効化すると、無表情のままゆっくりと手を伸ばして神に触れた。


 ビッ、と短い音が聞こえたような気がしたら、神が消えていた。


 「……何をした?」


 また鈴丸がつぶやいた。かの天才様にも零が何をしたのか理解できないらしい。ま、俺もわからんけど。


 「かけ算の逆、割り算だよ」


 鈴丸の声が聞こえたのか、零が鈴丸を見上げて笑う。

 なんていうか、気持ちのいいくらい澄み切った、実に楽しそうな顔だ。これが「ザマァ」て奴か?


 「神の存在を、僕の存在で割っただけだ」

 「お前で……ゼロで、割った?」


 鈴丸が首をかしげる。

 はーん、かけ算の次は割り算ね。まあ、なんていうか、シンプルな攻撃だな。


 ん?


 いやいや、待てよ零。それ、アカンやつだろ?


 「わかってるじゃないか、ミト。ゼロの除算は数学上のタブー。結果は未定義。もしくは無意味さ」


 ズズッ、と零から何かが溢れてくる。呪いか? だが俺が知ってる呪いとは桁が違う。もっと訳がわからないもので、触ったが最後どうなるかわからない、そういう類のものだ。


 「つまり、神の存在を僕で割れば、その存在は未定義になる」


 とどのつまりは、消えるということか。

 コエーよ、お前。


 「七王、九部」


 零が両腕を広げ、冷酷に宣言する。


 「消えろ」


 ビッ、と音がして。

 残っていた五体の神が、消えた。


 ──あっけない幕切れに、俺は深々とため息をつく。

 必死こいて、命がけで神と戦い、最後の一撃で鈴丸を倒そうとしていた俺がバカバカしくなるぐらい。

 本当に、あっけない。


 「悪いね、鈴丸」


 零が鈴丸に笑顔を向ける。


 「お前の凝りに凝った計画を、あっさり潰してしまったよ。反省した方がいいかな?」

 「……なに、構わぬよ」


 鈴丸から戦う意思が消えていく。戦っても勝てないと見切りをつけたらしい。その諦めのよさ、さすがは五天と褒めるべきか。

 いや……これはもう、どうにもならんと諦めただけか。

 ま、俺も似たような気分だけどな。打出の小槌、もう片付けるか。


 「それで? 私をどうする気かね?」

 「滅ぼしてもいいんだけどね」


 零が鈴丸に手を伸ばす。鈴丸は涼しい顔をしているが、全身がやや強張った。


 「遊び相手がいなくなるのもつまらない。僕とミトを、地球へ戻せ。今回はそれで見逃してやる」

 「……いいだろう」


 鈴丸が俺たちに向かって手をかざすと、俺と零の体が淡い光に包まれた。


 「それから、あいつに……一柱に伝えておけ」


 体がふわりと浮き、地面に大きな穴が開いた。おいおい、ここへ入るのか? 太陽のど真ん中とか、そういうとんでもないところに飛ばされたりしないだろうな?


 「必ずお前を穢してやる。首を洗って待ってろ、とな」

 「……伝えておこう」


 ──ケケケ、待ってるよ。


 どこからともなく、そんな声が聞こえた。誰だ、と宙を見上げたが、そこには何もない。


 だけど、なんとなく。


 今の零でも敵わない、そんなクソヤバイやつがいる、そんな気がした。


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