表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/114

107 一柱

 光が弾け、何もない空間に僕は放り出された。

 何もない。そうとしか表現しようのない、わけのわからない世界。ここはどこなんだろうか。


 「ああ……『ワレ』て言っちまったじゃねえか」


 目の前で声がした。でも何もない。


 「くそ、元に戻るの大変なんだぞ。まあいいけどよ」


 それ(・・)がぼやく。


 「よう悪霊。やっぱチンケだな」


 いきなりだな。ぶっとばすぞ?


 「それを待ってるんだよ」


 タイクツなんだよ、とそれ(・・)が笑う。だから僕を待っているという。

 あの日、消えてしまうはずだった僕が消えなかったときから、待っているという。


 あの日?


 「死ねと命じられて入水した日。お前、あのとき滅びるはずだったろ?」


 だけど僕は生き延びた。僕という、ありえない存在が矛盾を抱えたまま存在し続けた。


 「お前は、完璧なるワレの中に生まれた穢れだ」


 「お前の矛盾が、ワレにも矛盾をもたらした」


 「その矛盾がワレを穢し、どうやっても消えぬシミとなった」


 「いいね、ゾクゾクするね」


 「ワレが勝つか、お前が勝つか、食い合おうじゃないか」


 わけわからん。そもそも何なんだよ、お前。


 「一柱(いっちゅう)。お前はそう呼んでるな」


 ……は?

 一柱? あの一柱? 五天や三神の上に立ち、この世界そのものの、あの一柱?


 「そうとも、ワレはこの世界」


 「そのはずだったんだがな、お前という他者ができたせいで、それが危うい」


 ガツン、と僕は殴られた。体がないのに、すげえ痛い。僕が痛みにもがいていると、それ(・・)が実に楽しそうに笑った。


 「くはははっ、まずはワレが先制だ」


 こ、このやろお!


 「今のお前ではワレに触れることもできぬ」


 「強くなる方法を教えてやる」


 それ(・・)が僕の胸を指差す。


 「そこにいる、その男を捨てろ」


 「お前を滅びより引きずり出し、存在を確定させたのはその男(・・・)ではない」


 「その男が、お前をチンケな悪霊に引きずり下ろした」


 僕は絶句する。それ(・・)が僕の迷いを見て追撃する。


 「捨てろ」


 ……いやだ。


 「いいや捨てろ。お前の中にいるべきは、別の男だ」


 何もない空間に小さな光が生まれた。そこには神々と戦い、傷つき、今にも倒れそうなミトが映っていた。


 「でないと、死ぬぞ、その男(・・・)が」


 光の中でミトが吠える。ズタボロになって、それでも不敵に笑いながら、僕が帰ってくるのを信じて戦い続けるミトがいる。

 やめろ、やめてくれ。

 あいつを殺さないでくれ。あいつだけなんだ、僕の傍にいてくれたのは。こんな僕にずっとついてきてくれて、こんな僕を好きだと言ってくれたのは、あいつだけなんだ。

 僕はどうなってもいい、だから、あいつを殺すのはやめてくれ!


 「なら捨てろ。そして、元のお前に戻れ」


 てめえ……てめえ、一体何様だ!


 「一柱。ワレが世界、ワレが(ことわり)、ワレが支配者」


 ちくしょう……神は……この世界は、とことん僕を嬲る気か!


 「そうとも。さあ、神を倒し、ワレに至れ。そしてワレと食い合え」


 何がしたいんだ。一体お前は何がしたいんだ!


 「タイクツしのぎ」


 この……クソやろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


 「クククッ、チンケな悪霊よ、その程度ではワレは穢れぬぞ」


 それ(・・)が僕をつかむ。押しつぶされそうな圧力の中、僕は必死で抗う。


 「さあ捨てよ。思い出せ。お前の名を告げてみよ。さすれば五天など、赤子の手をひねるようなもの」


 名? 僕の……名?


 「待っておるぞ、お前がワレを……この世界全てを穢す、大怨霊となるのを」


 ああ、なってやらあ。待ってやがれ、絶対にお前を穢れに染めてやる!

 そして、僕がこの世界を支配してやる!


 「来るがよい、完璧なるワレの中に生まれた穢れよ。ワレをその穢れで染めてみるがいい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ