106 光との対話
──気がつくと、光の中にいた。
青白くてどこか冷たい光だった。どこかで見たことある光だな、と思い、しばらく考えて蛍光灯の光に似ているんだと思った。
滅びたと思ったけど、なんとか復活したのか?
そう考えて耳をすませてみたけれど、僕の中に音はない。楓機構の音も、心臓の音も、何も聞こえない。体に力を入れようとして、その体自体がないことに気づくのにしばらくかかり、ああやっぱり滅びたのか、と思った。
さて、滅びたのなら、僕はどこへ来たのだろう。
ここがあの世というやつだろうか? 命のない僕が来られるとは思ってもいなかった。いや、最期の最期で鈴丸に命を与えられたし、そのせいでここへ来たのかもしれない。
ふわふわと僕は漂った。
どこまでも光が続く。どこを見ても同じ光景、ただ光に満ちている。美しくて、整然として、静謐として、全てがきちんと決まって動いている、そんな印象を受けた。何一つ変わりなく光が続いているだけなのにそう感じるなんて、おかしなものだ。
どこまでもどこまでも、ただ永遠に光が続く。
この光はどこまで続くのだろうか。終わりはないのだろうか。もし終わりがあれば、それが僕が行く場所なのだろうか。
──ねえよ、終わりなんて。
僕の疑問に答えるように声が聞こえた……ような気がした。誰だ、と思って周囲を見たけれど、ただ光が満ちているだけ。
──興醒めだ、悪霊。
突き放したような声が聞こえる。一体誰だ? 声だけ聞かせてないで出てきやがれ。
──見てるだろうが。
声が笑う。見てる? どこにいる? 僕の周りには光しかない。光の中に隠れでもしているのか?
──その光だよ。
また声が笑う。光が声の主? 何が何だかわからない。誰だよお前。
──それは今問題じゃない。
腹立つな。何なんだよ、僕に用か?
──あっさり負けやがって。
──どうしてくれる。
何が?
──タイクツになっただろ。
──お前が来ると思ってワクワクしてたのに。
退屈? ワクワク? 何言ってんのお前。
──楓機構か?
──それ止められただけで折れやがって。
──興醒めだ。
──ああ興醒めだ。
──つまらんやつだ。
うるせえよ。僕だって負けたくなかったよ! だけど……仕方ないだろ、あいつは桁違いなんだよ。手も足も出なかったんだよ!
──お前が悪い。
──楓機構にとらわれたからだ。
──捨てろよ、あんなもの。
あれなしで、僕が神に勝てるわけないだろ!
──勝てる。
──楽勝だ。
はあ? どうやって!?
──思い出せよ。
──お前、何者だよ。
僕が……何者か、だって?
──ありえないもの
──生きていないもの
──死んでいないもの
──紡げないもの
──人でないもの
──神でないもの
──鬼でないもの
──まだヒントがいるか?
……お前、僕に何をさせたいんだよ。
──タイクツなんだよ。
──ワレは、完璧な存在ゆえにな。
我。
そいつがそう言った途端、僕の周りの光が弾けた。




