105 走馬灯
俺が零に会ったのは、今から六千年前。神へ至った旧人類と、繁栄し始めていた新人類、ホモ・サピエンスの勢力が逆転し、神が完全に地上を去ったころだった。
「あん? 誰だお前?」
百年ぶりぐらいに家に帰ったら、まるで自分の家のようにくつろいでいる零がいた。零は俺を見て「君こそ誰だよ?」と聞き返し、二、三言葉を交わした後にバトルになった。
「まったく……君、血の気の多過ぎ」
その頃の俺はまだ弱かった。そこいらの下っ端の神をぶっ殺していい気になっていた俺を、零はコテンパンに伸して嘲笑ってくれた。
「はあ? 君、大江の息子なの?」
お袋の名前が大江っていうの、あの時初めて知ったんだよな。自分の親なのによ。あいつは俺の母親に会いに来たんだけど、お袋は三百年ぐらい前に死んでいた。「なんだよ、あいつ死ぬのかよ」と悪態をついていたが、翌日には何やら祭壇みたいなものを作って冥福を祈ってくれた。
「……は? 小人族の末裔?」
そういや父親が小人族と知った時は、あんぐりと口開けてたな。あの顔は面白かった。まあ立ち直ったらすぐに「どうやって子供作ったんだ?」と下卑た好奇心で目を輝かせてたけどな。俺が知るかってんだ。
「君、暇だろ? 僕と一緒に来いよ」
俺の人生を無意味と断じ腹抱えて笑った後、零は俺を旅に誘った。どうせやることもないし、俺は零についていくことにした。
なんであいつ、俺を誘ったんだろうな。
まあいいか、面白かったし。神や鬼から人を守れと言われていた俺が、悪霊の片棒担いでると知ったらお袋はなんと言うだろうな。
あー、いや、お袋のことだ、腹抱えて笑うだろうな。俺以上に豪快な性格だったし。
「……て、やべえやべえ、これが走馬灯、てやつか?」
うむ、気を失っていたのは五、六秒、てところか。
俺は頭を振って意識をはっきりさせると、気合を入れて立ち上がった。
うがっ、体中が痛え。ちくしょう、プスプス、ザクザク、突いたり切ったり好き勝手してくれるぜ。鈴丸の野郎は大砲みたいなエネルギー波打ち込んでくるし。直撃はさすがにきつかったぜ。
「丈夫なものだ」
立ち上がった俺を見て、鈴丸が呆れたように笑う。
「鍛えてるからな」
あーちくしょう、ちっと遠いな。取り巻きの神が邪魔で仕方ねえ。タイマンなら勝てると思うが、あちらさんが乗ってくれねえ。くそ、めんどくせえな。
「しかし惜しいな。どうだ、私の眷属とならんか。お前は鬼の血を引いているのだろう。私にとっては同胞だ、悪いようにはせんぞ」
「うむ、断る」
おっと、考えなしで断っちまったぜ。零なら考えるふりして時間稼いだかもな。あいつ、そういうセコイ手だけは得意だったからな。
「強情なやつ。そこまで悪霊に惚れ込んだか」
「六千年の腐れ縁なんでな」
見てくれだけなら世界でトップクラスのカワイ子ちゃんだし。おっと、「カワイ子ちゃんなんて最近言わないぞ」て零に言われたっけ。
「さあて、休憩したし、バトル再開といこうか!」
おい零、早く戻ってこいよ。さすがにこれキツイぞ。俺はお前と違って、一度やられたら終わりなんだからな。
早く戻ってこないと。
俺がお前のところに行くことになるぞ。




