100 vs 神 四
空高く舞い上がった僕を、たくましい腕がしっかりと受け止めてくれた。
「とうっ!」
それから、無駄に何回も空中で回転し、どしん、と音を立てて着地した。
「きまった!」
「きまった……じゃないっ!」
ちくしょう、縛られてなかったら思いきり頭叩いてやるのに!
「遅い! 何してたんだ! ふざけんな! しばくぞ!」
「お前なあ。俺をありったけの呪いで攻撃したのどこの誰だよ」
「うるさい、お前こそ本気で僕を攻撃しただろうが!」
「ハテ、ナンノコトヤラ?」
「ふっざけんな! お前だ、お前のせいだからな! お前が全部悪いんだからな!」
「あー、わかったわかった。よしよし、怖かったな。うんうん、可愛い悲鳴だったぞ」
あ……ぐ…………こ……こ、の、や、ろ、う……。
「お? 何だ真っ赤な顔して。可愛いじゃねえか、キュンキュンしちゃうぜ」
「やかましい!」
「うぎゃっ! いてっ、いててっ! 噛むな、噛むなっ!」
ザザッ、と神が武器を構え、僕とミトを包囲する。
「お? なんだ、やんのかぁ?」
「三代目一寸法師とやら」
一対十八。僕を入れても二対十八。数では圧倒的な神が、ひるむ様子はない。
「その悪霊をこちらに渡せ。さすれば見逃してやろう」
「ああん?」
ミトが首をかしげ、七王のリーダーにガンをつける。柄悪いなあ、しかも妙に様になってるし。
「バカかお前。これは、俺のだ」
そう言い切るや否や。
ミトは一瞬で左足を垂直に上げ、そのまま一気に地面に叩きつけた。
「うわっ!」
「ぬうぅっ!」
ドォンッ、と凄まじい衝撃波とともに、周囲一帯が祓われる。七王と九部、十八体の神がなすすべなく吹き飛ばされ、その隙にミトは「スタコラサッサ♪」なんてつぶやきながら走り出した。
ちなみに、ミトが走るスピードは「スタコラサッサ」なんてレベルじゃない。時速二百キロぐらい出てるんじゃないか、これ?
「お前……どこまでデタラメなの?」
「すげえだろ。惚れ直したか?」
……。
「お、何も言わないということは……ふっふっふ、そうか、ついに俺への恋心を自覚したか」
「な、なに勝手なこと言ってんだ!」
「照れるなよ、俺はお前ならいつでもオーケーだぜ」
「やかましい!」
ちくしょう、ミトのくせに。
あーむかつく、むかつく、すげえむかつく!
「ほいさ」
どう言い返してやろうか、と考えていたら、ミトが岩陰に隠れて僕を下ろした。
「とりあえず解くか」
「……頼む」
こんなぐるぐる巻きじゃ何もできない。まずは縄を解いてもらって、それからだ。
「まったく、こんな巻き方しやがって。せめて亀甲縛りとかなら滾るのに」
「死ね。変態は今すぐ死ね」
「お? 見捨てていいのか?」
ち……ちくしょう……。
「……解いてよ」
「かわいく言ってくれなきゃ嫌だ」
「ふざけてる場合じゃないだろうが!」
「うーん、残念。マジでそうみたいだな」
ミトが空を見て、僕も同じ方向を見る。はるか向こうに七王と九部の姿が見えた。追いつかれるのは時間の問題だ。
「なら早く解いてよ」
「いいけどよ、ちと真面目な頼みがあるんだが」
「なんだよ」
「キスしてくれ」
「……お、ま、え、は、ど、こ、ま、で、ふ、ざ、け、る、ん、だ!」
「いやいや、マジな話。楓機構のエネルギー、くれ」
ミトが「ほれ」と言って右腕を上げた。
ミトの脇腹を見て、僕は息を飲む。ざっくりと肉がえぐれ、内臓が見えていた。よくこんな状態であの四股を踏んでダッシュできたな。
「お前、それ……僕のエネルギーなんか飲んだら、死ぬぞ?」
「いやいや、逆だ。お前がくれたエネルギーでここまで治したんだ」
「は?」
「ちと足りなかった。だから、くれ」
え、なに? どういうこと?
楓機構のエネルギーは、鬼にとっては猛毒。半分鬼のミトにとってもそうじゃないのか?
「くっくっく、そーれい!」
「う……うわっ……あーれー!」
思い切り縄を引っ張られて、僕はくるくると回された。
「お約束、ゴチ!」
ちょっと待て、頼む、待て。
貞操の危機を感じるのは、僕の気のせいか!?




