嵐の前の静けさ
「司ー早くいくよー」
遥紀の誕生日プレゼントを買い忘れた事件について誤魔化すのを手伝ってくれた(結局はバレたけど)お礼として2人の予定が合った週末の今日、映画を見に行くことになった。
「おい、やけに早いな。女子は出かける準備に時間がかかるんじゃないのかよ」
まだ朝の9時だってのに瑞希は元気そうに準備を完了させ、俺を急かしてくる。
「それは、ただ単に時間管理が出来てないんじゃない?」
「さらっと女子全員を敵に回すな」
それにしても、俺が起きたころにはもう瑞希は起きていて、朝飯も済ましていたな。
「瑞希は俺が起きたころにはもう起きてたけど、何時に起きたんだ?」
「え、うーんとね、確か司が起きる30分前くらいだよ?」
なんか俺が起きる2時間前くらいに物音で1回起きたような気がしたんだが、瑞希も寝てたなら夢だったのか。
俺も少し遅れて、玄関に行くと厚手のニットセーターにもこもこしたジャケットを着て、下はミニスカートとブーツの組み合わせで佇んでいる瑞希の姿があった。
「なんか服装いつもより気合入ってない?近くのスーパーに行くときとかマスクにTシャツじゃん」
「出掛けるんだからそんなわけにいかないでしょ!それにもしクラスメイトに会ったらどうするの!」
素朴な疑問だったのだが思ったより強い剣幕で返答される。
そんなこと言うのに、今日はマスクはしないのかい。まぁいいけど。
「それともこの格好じゃダメ?」
「ダメってわけじゃない。似合ってると思うぞ」
「っ!・・・ありがとう」
「・・・・・」
なんだか変な気まずい空気が流れる中、出発した。
そうして、俺達は映画館のある新宿に到着し、瑞希希望の純愛映画を見た。
映画の内容はそこまで捻ったものではなく、運命的に出会った彼と幼馴染の彼の間で揺れ動く女子の心境を描いた物語だった。
俺は普段、純愛系のこのジャンルを好んで見ないので、まずまず面白かったなという評価なのだが、瑞希はさっきから大満足だったのか顔を綻ばせている。
「めーっちゃ良かった!」
「ああ、そうだな」
用事も果たしたし、俺は帰路のつもりで足を運ばせた。
「ねぇ次はどこ行く?」
「え?帰るんじゃないのか?」
今日の予定は映画だけと聞いていたので、このまま帰るか、時刻はお昼時なので昼飯くらい食べてから帰るものだと思っていたのだが、瑞希はそうじゃないらしい。
「せっかく新宿まで来たんだからもう1か所くらい行きたかったんだけど、司は帰りたい?」
「いや、別にそんなことない。でもどこに?」
「うーんとね、あ!あそこ行きたい!」
新宿の9階という見晴らしのいい場所から行きたいところを探すと、どうやらお目当ての場所が見つかったそうだ。
「あれは、新宿御苑か」
「新宿は何度か来たことあったんだけど、新宿御苑には行ったことないなーって思って」
「そういえば、俺も行ったことないな」
「じゃあ、けってーい!」
映画館の近くにあった、ハンバーガーチェーンでお昼をテイクアウトして、俺達は新宿御苑に向かった。
「その恰好寒くないのか?」
上は暖かそうな恰好をしているが下はミニスカートである。いくらブーツで隠しているとはいえ寒くないのか気になった。
「もちろんめちゃ寒いよ?」
「じゃあなんでそんな恰好・・・」
「女子はおしゃれに生きる生き物なの!」
「そういうものなのか・・・」
「そういうものなんです。うちの高校の制服はスラックスあるけど、女子は冬でもほぼほぼスカートで登校してるんだよ」
「それは大変なことで」
「大変だと思うなら司の手で触って温めてくれてもいいんだよ?」
小悪魔的な表情を浮かべて瑞希は言った。
「バカ言うな!」
「あれ?想像して照れちゃった?」
「うるさい」
そんなことを言いながら、目的もなく新宿御苑内を歩いていると旧御凉亭と呼ばれるところまで来た。
建物は日本ではあまり見かけない形の建築様式にそこからの景色は水と自然の融合でなんとも和を感じられた。
お昼は結局、新宿御苑内にある無料休憩所で食べることにした。
なぜ、新宿御苑まで来たのに、室内でお昼を食べるかって?
俺だって初めは入ってからすぐのいかにもピクニックが出来そうな広い原っぱみたいな場所で食べるのかなぁーって思っていた時期はありました。
だが、景観どうこう言っている状態じゃないことに歩いていると気付いたのだ。
映画館の施設内で新宿御苑で昼飯を食べようと決めたのだから、気づかなかったが今の日付は12月で完全な冬である。
寒い冬の風が吹く中、呑気に外でお昼なんか食べられるはずがなかったのだ。
休憩所、まじナイス!
そうでなきゃ今頃、極寒の中お昼ご飯を食べていることになったのだから。
「今回の映画はめっちゃ面白かったけど、私は幼馴染が結ばれる展開も見たかったなー」
本編では2人の間で揺れ動いたヒロインは最終的には幼馴染ではなく、運命的な出会いをした方を選んだ。
ラブコメでありがちな幼馴染は負けパターンだ。
「なんでだ?」
「だって、幼馴染の彼からしたらずっと好きでその子に好きになってもらえるようにアプローチし続けてたのに、ぽっと出の男に好きな子取られちゃったわけじゃん。そんなの絶望だよ。私ならずっと一緒にいてくれた人を好きになると思う」
「そうかな?」
「司は違うの?」
もちろん、相手を取られた方は絶望すると思う。
「俺は恋愛に時間はさして関係ないと思う。もちろんゼロじゃないけど世の中には会ってその日に付き合って結婚まで行く人も大勢いる。人は自分が思っているより簡単に人を好きになるものなんだよ」
「・・・司もそうなの・・・?」
「まあ、ないとは言い切れないな」
俺がそう発言すると、瑞希は俺には聞こえない声量でブツブツと何かを言っていた。
「え、じゃあ司は付き合いの1番長い私じゃなくて、綺麗な先輩とか可愛い後輩ちゃんとかぽっと出のあの同級生を好きになるってこと!?まずいまずいまずい」
「さっきから何ぶつぶつ言ってるんだ?」
「いや、なにも、ないよ?」
瑞希は俺に悟らせないかのように顔をそむけた。
99話も読んでいただきありがとうございます。
いよいよ次話が100話になります。
この物語を書き始めたころには正直言って20話くらいで終わるのかなと思っていました。
皆様の応援のおかげでここまで来ることができました。
記念すべき100話では物語が大きく傾き始めます。
これからも応援よろしくお願いします。




