言葉
「分かんなーいー!!!」
手招きされて俺もそっと校舎に入り、誰もいない教室に入ると、瑞希が嘆いていた。
「おいおい、どうしたんだよ」
さっきの楽しそうな瑞希はどこ行ったんだよ。
「だってぇ、それっぽい人が見つからないんだもん」
クラスメイトをいくら疑ったって、俺と遥紀なんだから、まぁそりゃそうだろうな。
「矢口さんが怪しいって言ってたじゃんか」
「いいや、違うと思うよ」
さっきクラスの中で堂々と発言していたのに、瑞希は最初から疑っていなかったかのようにケロッと否定した。
「だって裏切り者だったら、このままいけば勝てたのにわざわざ騒ぎにして、私を疑ったりしないでしょ」
「確かに」
「あれは、堂々と言えば裏切り者の人は安心してちょっとはボロをこぼしてくれないかなぁーって思ったんだけど、ちっとも分かんない。ほんとにいる?」
気楽そうにしているが、BBQが開始されて時間も経っているので、投票時間も残り10分ほどと、時間が無くなっている。
これからクラス全員を再び疑う時間もないし、疑っても犯人は出てこない。そうなると、あれだけ言った瑞希が本当に恥をかいてしまう。
流石に、宿題よりも瑞希が恥をかかないことが大事だし、教えてやらないとなぁ。
「実は、裏切り者心当たりがあるよ」
「え!ほんと!さっすが司!教えて教えて!」
「遥紀」
自分で自分のことを裏切り者だと言うと思ったか。俺の目的は瑞希が裏切り者を特定すればいいだけなので、何も俺がバレる必要はないのだ。
「そうなの?」
「あいつ、きっと先生とも仲いいから頼まれたんだよ。一緒の部屋にいたときもキーワードの分かってなさそうだったし」
「・・・・・・」
すまんな、遥紀。宿題は手伝ってやるから。
「・・・噓でしょ」
「え?」
「そうやって分からない私をからかってんでしょ。分かってるんだからね!」
「おいおいおい、どうしてそうなるんだよ。俺は親切心で教えてやってるのに」
「だって、1日目に司の部屋に行って2人を疑ったときには黒瀬君、もうキーワード分かってたし。全然怪しいところなかったのに、黒瀬君が裏切り者って1番ない!」
それが、あるんだよ。
「それに、司が言ったんじゃん、黒瀬君は裏切り者じゃないって。分かってたんならそん時に言えたじゃん!」
それは、その通りなのだが俺も裏切り者だったから言えなかったわけで。
・・・仕方ない、こうなればもう自白するしかないか。
「・・・それは、俺も裏切り者だからだよ」
「はい、嘘だねー!裏切り者なら自白するはずがないし、そこまでして私に恥をかかせたいか!」
やばい、瑞希が裏切り者が見つからない焦りからか血迷い始めた。
「ほんとに俺なんだって」
「だって司もキーワード知ってたじゃん。その手には乗らないからね!」
このままじゃ本当に見つからないぞ。血迷っている瑞希を落ち着かせるためにとりあえず、話題を変えなくては。
「それにしても、瑞希があんなにしっかりクラスメイトに言うなんて初めてじゃないか?」
聞いたこともない瑞希の怒りは周りのクラスメイトも驚いていたな。
「私のことならまだ耐えられるんだけど、室井さんの悪口聞いたらカッとなっちゃって、ついキャラとか忘れて言っちゃったの・・・そんな人がみんなから好かれようとするなんて無理だよね?」
瑞希は急にしおらしくなって、不安そうな表情を浮かべていた。
「いや、自分じゃなくて人のために怒れるってすごいことだと思うぞ。実際俺の周りにいたやつも嫌うどころかめちゃ尊敬してたぞ」
自分には何言われても怒らないのに、他人が傷つけられると怒る。それは傍から見れば怒らないで我慢するよりもかっこよく映っていた。
「でも、矢口さんはただ疑ってただけなのに・・・」
こいつ、まだそんな考え方をしてたのか。優しすぎるだろ。
「いや、あれは疑っているとしたら限度越えだ。明らかに瑞希への何かしらの因縁があってそれを機会に乗じて晴らしてただけだ」
「でも、矢口さんには嫌われた・・・」
「もうそうやって悲観するのはやめろ。もしかしたら、今回の一件で矢口さんはお前のことを嫌ったかもしれない」
「そうだよね・・・」
「でもな!瑞希が言わなかったら、室井さんはどう思った?振り返ってみれば、室井さんが傷つくより、自分が好かれることの方が大事だって言いたいのか?」
「それは違う!」
瑞希ははっきりとした目で俺に言った。
「じゃあ、胸張って正しいことをしたと思っていいんじゃないか。好かれようと思う気持ちは否定しないが、悪意を持って来る奴にはそんなことを思わなくていい。そんなことよりも自分を好いてくれている人、お前が大事にしたい人を守ってやれ」
「・・・うん。確かにそうだね」
「それに、お前を批判して来る奴がもしいたとしても、それが聞こえなくなるくらい俺が褒めてやるから」
よし、瑞希も落ち着いたことだし、時間もない。話題を戻して俺が裏切り者だって信じてもらうか。
「話は戻って裏切り者なんだが・・・」
「司、『好き』だよ」
「・・・・・・え?」
聞き間違いか?俺のことが好きだって言った気がしたんだが。
「・・・それは告白ってことか?」
瑞希は顔を真っ赤にして、俺の前から駆けて行って、校庭のほうに戻っていった。
「え・・・」
俺は驚きと動揺のあまりその場から動けなかった。
91話も読んでいただきありがとうございます。
瑞希からの突然の告白、いったいどうなるのか?
これからも応援よろしくお願いします。




