第二十九話 宇宙人の集結
リーダーの憑依が解けたと確信した我々は、今の体を直ぐに捨ててリーダーを追った。精神体で有る我々をこれだけ追い詰めたのだ。道明寺翠嵐という女は予想以上の脅威だ。既に憑依から解けた同胞を含め、先遣隊である我々は再び集まらねばならない。そして、新たな対策を立てねばならない。
既に当初の作戦は頓挫した。これについては、リーダーを交えて練り直さなければならない。しかし、報告は……。
「そのままでは報告出来ないだろうなぁ……」
何せ、ただの地球人に成す術なくやられたのだから。そんな報告をしたら、我々は任務失敗で処分される。他に地球へ来たい連中は沢山居るのだから。
「そんな事よりリーダーを探そう」
「そうだな、高野。いや、もう高野じゃ無かったか、同胞よ」
確かにそうだ。リーダーを探す方が先だ。報告内容に関しては、リーダーと一緒に考えれば良い。それと同時に、次の憑依先を探さなければならない。いや、違うな。憑依したままでいたかったんだろうな。
我々は精神生命体だ。地球人と違い肉体的な死が無いから、永久の時を過ごす。それが当たり前だから何も感じる事は無かった。でも、一度肉体の感覚を覚えればわかる。それが如何に退屈で空虚な物であるかを。
我々と同じ様な精神生命体は、宇宙に幾らでも存在する。彼等が共通して思っている事が有る。
それは、肉体を持つ文明は低レベルという事だ。
それについては異論の余地は無いのだろう。特に地球の文明は未発達で、精神的にも未熟だ。だから、我々の様な高度な知的生命体に成り得ないのだろう。
だけど、稚拙な文明にも良い所は有る。
例えば食だ。我々は肉体に付随する欲求というものは存在しない。むしろ、そこから逸脱したのが我々だ。しかし、一度味わってしまうと病みつきになる。特に日本という国は、食にこだわりをもっているらしい。だから、楽しみも多い。
それ以外にも色々有るが、特筆すべきなのは地球の自然という物だろうな。雨が降り、風が吹く。そんな当たり前の事が、心地よく感じる。
我々は肉体を持たない故に、どんな環境にも適応する。地球人では決して生きていけない環境でもな。同じ太陽を周る星の中にも有るだろう? 濃硫酸の雨が降ったり、ダイヤモンドが降り注ぐ星が。
我々はそんな場所にも適応する。それこそ、太陽でさえもな。
しかし、地球は違うんだ。風がやさしい。雨が心地いい。肉体で感じるそれらがどれだけ希少で貴重な物なのか、恐らく人類には分かっていない。
だから、身勝手に振る舞い地球を破壊しているんだ。馬鹿な真似をしていると思う。これだから、低俗な文明の『人間』は星にとって害悪だと思われているんだ。
他の星から来た中には、地球という貴重な星を守ろうとしている連中も存在している。我々と同じ様に憑依して、彼等を導こうとしている。崇高な行為だと思う。尊敬すらする。
でも、我々はそんな連中とは違う。単なる興味だ。
それは、本隊にいる同胞が行った研究発表に基づいている。簡潔に言うと、我々の起源を探る研究だ。かつて我々も肉体を持っており、進化の過程でそれを捨てて精神生命体になったという考え方だ。
今では、我々の中で定説になっている。
だからこそ、我々は知りたいと願ったんだ。肉体を持つ文明がどんな物なのか、それはどんな生活を送り、どんな環境で過ごしていたのかを。
多くは、我々と基本的には同じ考え方なのだろう。だからこそ、地球と言う星に興味を持った。人間に接触した後の行動は、我々と他の連中では分かれた様だけど。
勿論、我々と同じ様にただ傍観するだけであったり、旧時代の文明を楽しむだけの連中もいる。それに対し、積極的に人間へ干渉している連中もいる。その最たる存在が、アメリカと日本、それにヨーロッパを支配してる連中だろうな。
奴らが何を考えて人類に干渉しているのかまでは、正直に言って興味がない。我々の邪魔をしなければそれでいい。そんな連中を注視しなければならない理由は、奴らが無為に『人間と言う存在を進化させる』可能性が有るからだろう。
我々は、それを望まない。進化の過程を見届けるのも、我々の楽しみなのだから。
流石に地球を破壊するのは看過出来ない。人間に干渉するのは、それを回避させるだけで充分なんだ。それ以上は必要が無いんだ。
後は楽しんだら良い。別に地球人には迷惑をかけないのだから。人類を観察しながら、かつて我々も体験していたであろう文明を楽しむ。それが一番良い関わり方だと思う。
「ただな。そんな事も言ってはいられないだろうな」
「そうだな。地球人類の多くは奴らに支配されている。それは、良くない状況だ」
「それも含めて、本隊へ報告だな。最悪の場合は、援軍を送ってもらわなければ」
「リーダーも言っていたが、援軍は必要か?」
「俺には判断できない。だから、リーダーの意見が必要だ」
「それと、先に体を捨てた同胞の事も探さないと」
「リーダーの思念伝達があれば、楽に探せる」
「あぁ、そうだったな」
そして、我々はリーダーを探した。数週間を要した。リーダーの憑依が解けて直ぐに体を手放したというのに、随分と時間がかかったのは予定外だった。でも、リーダーと無事に合流できたのは僥倖だった。
そして、リーダーはやはり我々の指導者でも有った。先に体を手放した同胞を見つけていたのだから。
「よく俺をさがしてくれた。助かったぞ、同胞よ」
「リーダーこそ。よくご無事で――」
そうやって再会した我々五名は、事態の報告内容と次の憑依先について話し合った。報告に関しては直ぐに決着がついた。それは、リーダーの一言であった。
「道明寺翠嵐という個については伏せる。今の状況では脅威か否かを判断しかねるからだ」
「我々に脅威を齎す可能性の有る人間が存在する事は報告するんですよね?」
「あぁ、それは当然だ。それと、本隊への援軍は未だ先だ」
「それも見越した判断の時間という事ですか?」
「そうだな。様子見といった所だな」
「アメリカやヨーロッパに向かった同胞とも連絡を取りたい所ですけど」
「それが出来たら、もう少し状況が分かり易くなるだろうな」
「リスクが有ると?」
「余計なちょっかいをかけて、戦闘状態に入る事は避けたい」
「本隊はなんと?」
「判断しかねているようだ。本隊にも地球を支配しようとしてる連中の規模が分かっていない様だ」
本隊がその様な状況なら現状では様子見も仕方ないのだろう。何せ、相手の戦力が全くの未知数な状態で戦争を始めるのは愚か者のする事だ。そもそも、戦争は我々が望む展開ではないのだから。
対話で済むのなら、それに越した事はない。それでも、奴らが譲らないというなら、戦争も止む無しなのだろうが……。
「我々が注視しなければならないのは、日本の動向だ」
「そうですね。所で、次の憑依先ですが……」
「同胞、それについては私に考えが」
「何かいい案でもあるのか同胞」
「ええ。とある団体が有りまして――」
先に体を手放した同胞は、既に憑依先の候補を見つけていた。それは、慈善活動を行う団体であった。そこであれば、日本での活動資金が貯めやすい。そう判断した我々は、団体の幹部に憑依する事に決めた。
今度こそ、失敗しない様にしなければ。特に道明寺翠嵐には気をつけねば。細心の注意を払って、慎重に行動して――。他の連中、特に地球を支配しようと企んでる連中と、余計な衝突をせずに行動を監視する。
かなり難しいが、やり遂げねばなるまい。




