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「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生
第二部「大罪と新国家編」

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第76話:重力のような眠気と、止まった時間

奇妙な静寂


嫉妬のレヴィアを撃退してから数日。アヴァロンは、これまでで最も静かな朝を迎えていた。


「……静かすぎるな」


蓮は、司令室で目を覚ました。


いつもなら、早朝から建設工事の音や、兵士たちの訓練の掛け声、市場の活気が聞こえてくるはずだ。


だが今日は、何も聞こえない。


「パラガス?」


蓮が執務机の方を見る。


そこには、書きかけの書類に顔を埋め、泥のように眠っているパラガスの姿があった。


「珍しいな。徹夜でもしたか」


蓮はパラガスを起こそうと肩を揺すった。


「おい、起きろ。朝だぞ」


「……むにゃ……あと……百年……寝かせて……」


パラガスは起きない。それどころか、彼の身体から灰色の靄のようなものが立ち上り、空気に溶け込んでいくのが見えた。


異変を感じた蓮は、司令室を飛び出した。


眠れる都市


街の光景は、異常だった。


広場では、兵士たちが立ったまま槍を枕にして眠りこけている。


食堂では、客も料理人も、皿に顔を突っ込んで寝息を立てている。


工場のラインは停止し、機械の稼働音すら消えていた。


「リサ! ユリア! フィーネ!」


蓮は仲間の部屋へ走った。


部屋の中では、三人が折り重なるようにしてベッドで深い眠りに落ちていた。


「……ふわぁ。蓮様ぁ……。もう、戦わなくていいじゃないですかぁ……」


リサが半開きの目で、夢ごごちに呟く。


「そうですよぉ……。私たち、頑張りすぎました……。もう、お休みしましょう……永遠に……」


ユリアまでもが、剣を床に放り出し、だらしなく蓮に抱きついてきた。彼女の誇り高い騎士の顔は、完全に弛緩しきっていた。


「これは……精神攻撃か? いや、もっと重い」


蓮自身も感じていた。まぶたが鉛のように重い。思考が霧の中に沈んでいくようだ。


『もういいだろう? 世界なんてどうでもいい。寝てしまえば、痛みも苦しみもない』


甘い囁きが、脳内に直接響いてくる。


動かない敵


「……ふざけるな」


蓮は、自身の太腿に漆黒の義手の爪を突き立てた。


激痛で意識を覚醒させる。


「出てこい! 姿を見せろ!」


蓮が咆哮すると、街の上空、時計塔の針の上に、一人の少年が座っているのが見えた。


いや、座っているのではない。空中に浮かぶ巨大なクッションの上で、パジャマ姿の少年が横になっていた。


第五の大罪『怠惰』の適合者、ドルミン。


「あーあ……。大きな声、出さないでよぉ……。せっかくみんな、気持ちよく寝てたのに……」


ドルミンの声は、聞くだけで力が抜けるような、気怠い響きを持っていた。


「降りてこい。僕の国を寝室にするな」


「えぇ……? 降りるの、面倒くさい……。君が上がってきなよ……。いや、上がってくるのも面倒だから、そこで寝ててよ……」


ドルミンがあくびをすると、灰色のアウラが波紋のように広がる。


強制休止スリープ・モード』。


その波動に触れた鳥が、空中で羽ばたくのを「面倒くさがって」やめ、地面に落下した。


物理法則すらも「働くのをやめる」領域。それが『怠惰』の権能だった。


届かない拳


「なら、僕が行く」


蓮は地面を蹴り、時計塔へ跳躍しようとした。


だが。


「……っ!?」


足が、地面から離れなかった。


接着されたわけではない。足の筋肉が、収縮することを「拒否」したのだ。


「体が……動かない……?」


「戦うなんて、疲れるだけでしょぉ? 走るのも、殴るのも、呼吸するのも……全部無駄だよぉ」


ドルミンが枕を抱きしめる。


「僕の周りではね、運動エネルギー係数がゼロになるの。何も起きない。何も変わらない。ただ、緩やかに腐っていくだけ」


蓮の右腕以外、全身の自由が利かなくなっていく。心臓の鼓動さえも、ゆっくりと停止に向かっていた。


殺意や攻撃といった「能動的なアクション」が、全て無効化される世界。


最強の攻撃力を持つ蓮にとって、これほど相性の悪い相手はいなかった。


「アヴァロンのみんなも、もうすぐ心臓が動くのをやめるよ。安らかな死だねぇ……」


覚醒の劇薬


「……安らか、だと?」


蓮は、動かない口を無理やり動かして笑った。


「勝手に決めるな。僕たちは、泥の中で足掻いて、喚いて、生きてきたんだ」


蓮は、唯一動く『虚空の右腕』を持ち上げた。


この腕だけは、生物のことわりの外にある。怠惰の呪いを受け付けない、貪欲な捕食者の腕だ。


「良く、なれ」


蓮は、自分自身の心臓に向けて、義手を構えた。


「おい、起きろ僕の心臓。サボってる暇はないぞ」


ドスッ!!


蓮は、迷わず自分の胸を義手で貫いた。


「かはっ……!?」


致命傷。しかし、蓮はそこで能力を発動した。


対象は、自分自身の肉体活動。


定義するのは『安息』の完全否定。『過剰駆動オーバードライブ』。


「カフェインの致死量百倍だ。……目が覚めただろ?」


蓮の心臓が、義手から流し込まれた暴走魔力によって、爆発的な勢いで鼓動を再開した。


ドクンッ! ドクンッ!!


血管が破裂しそうなほどの高血圧。全身から血の霧が吹き出す。


痛みと興奮物質アドレナリンが、怠惰の呪いを物理的に押し流した。


怠惰へのモーニングコール


「な……なに、それぇ……?」


ドルミンが、眠そうな目を見開く。


「痛そう……。野蛮だなぁ……」


「ああ、野蛮で結構」


蓮は、血走った目で地面を蹴った。今度は飛べた。


一瞬で時計塔の頂上へ。


「お前の『面倒くさい』を、僕の『せっかち』が追い越したぞ」


蓮の漆黒の拳が、ドルミンの顔面に迫る。


「うわ、来ないでよ……防御するのも面倒だけど……『拒絶』」


ドルミンの前に、見えない壁が出現する。


だが、過剰駆動状態の蓮は止まらない。


「壁ごときが、仕事した気になってるんじゃねえッ!!」


バリィィィン!!


蓮の拳が、怠惰の障壁を「無理やり」こじ開けた。


「えっ……?」


「起きる時間だ、クソガキ」


ドゴォォォォン!!


蓮の拳が、ドルミンの顔面を捉え、時計塔ごと吹き飛ばした。


「痛いぃぃぃっ!?」


ドルミンが悲鳴を上げて落下していく。


痛みを感じたことで、彼の『怠惰』の世界にヒビが入る。


「さあ、二度寝は許さない。徹底的に叩き起こしてやる」


蓮は、血を流しながらも獰猛に笑い、落下するドルミンへの追撃に移った。

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