表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生
第一部「復讐と奪還編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/90

第60話:砕かれた檻と、放たれた七つの災厄

システムの敗北


「ガラクタが。脆すぎるぞ」


蓮が握り潰した管理者の一体は、断末魔のノイズすら上げられずに爆散した。


残る二体の管理者が、即座に距離を取る。彼らの無機質な思考回路の中で、致命的なエラー警告が鳴り響いていた。


『対象の危険度、測定不能。排除不可能と判断』


彼らは悟った。このEランクの少年は、もはやシステムの制御下にある「バグ」ではない。システムそのものを捕食し、書き換える「新しい理」になりつつあると。


『作戦変更。コード:パンドラ。次世代管理者権限の緊急射出へ移行する』


二体の管理者が、戦闘態勢を解き、互いの身体を連結させた。


彼らの背中にある光輪が、異常な高熱を発して回転し始める。


「自爆か? 無駄だ」


蓮は冷ややかに言い放ち、漆黒の義手に魔力を溜めた。彼らの自爆特攻など、この『虚空の右腕』の前では爆竹程度にしかならない。


放たれた六つの光


だが、管理者たちの狙いは、蓮への攻撃ではなかった。


彼らは自らの構成概念である「世界を管理する権能」を分解し、六つの種子へと圧縮した。それを、蓮がこじ開けた「次元の裂け目」を通して、現実世界へバラ撒こうとしたのだ。


『我らが滅ぶとも、システムは維持される。新たな代行者を選定し、覚醒させよ』


シュン、シュン、シュン……!


管理者たちの身体から、六色の光弾が放たれた。それらは蓮を迂回し、恐ろしい速度で裂け目へと吸い込まれていく。


「逃がすかッ!」


蓮は反応した。右腕を振るい、光弾を撃ち落とそうとする。


漆黒の衝撃波が、光弾の軌道を薙ぎ払う。


しかし、その衝撃が予期せぬ化学反応を引き起こした。


蓮の放った「虚空の魔力」が、六つのうちの一つの光弾に直撃し、それを粉砕するどころか、融合してしまったのだ。


さらに、その衝撃で裂けた魔力の余波が凝縮し、本来存在しないはずの「七つ目の光」が生まれてしまった。


計七つの光は、蓮の追撃を振り切り、次元の裂け目の彼方――現実世界へと飛び去っていった。


気づかぬままの勝利


「チッ……」


蓮は舌打ちをして、右腕を下ろした。


目の前の管理者たちは、力を放出しきって抜け殻となり、灰のように崩れ去っていた。


「最後っ屁のつもりか。魔力を地上に逃がして何になる」


蓮は、それが「新たな敵を生み出す種」であることには気づかなかった。単なるエネルギーの放出か、あるいは管理者としてのデータを本部に転送した程度にしか思っていなかった。


「まあいい。お前たちが消えれば、それで十分だ」


蓮は、興味を失い、背を向けた。


彼が知らない現実世界では、今まさに七つの流星が降り注ぎ、七人の「選ばれし適合者」――あるいは「最悪の怪物」を誕生させようとしていた。


だが、今の蓮にとって重要なのは、世界の運命ではない。


目の前で待つ、たった一人の女性だけだった。


砕ける永遠


蓮は、ユリアが眠る巨大な水晶の柱の前に立った。


「終わったよ、ユリア」


蓮は、漆黒の義手を水晶に当てた。


かつては絶望的に硬く、冷たかった永遠の檻。だが今の蓮には、薄いガラス細工のように感じられた。


「……圧縮」


パリンッ……。


微かな音が響き、水晶全体に亀裂が走る。


次の瞬間、柱は粉々に砕け散り、光の粒子となって霧散した。


中から放り出されたユリアの身体が、重力に従って倒れ込む。


蓮は、それを左手と、右の義手で優しく受け止めた。


「……っ」


冷え切っていたユリアの身体に、蓮の体温が伝わる。


停止していた彼女の時間が、再び動き出す。


おかえり


ユリアの瞼が、微かに震えた。


長い、長い睫毛が持ち上がり、透き通るような紫色の瞳が、蓮の顔を映した。


そこには、片腕を失い、ボロボロになり、それでも優しく微笑む主君の姿があった。


「……神崎、殿?」


ユリアの声は、何年も使っていなかったように掠れていた。


「ああ。僕だ」


「ここは……。私は、貴方を逃がして……」


ユリアは、混乱する頭で周囲を見た。色のない世界。そして、駆け寄ってくるセラフィナ、リサ、フィーネの泣き顔。


状況を理解するよりも早く、彼女の目から涙が溢れ出した。


「夢では……ないのですね?」


「夢じゃない。君を、地獄の底から引きずり戻したんだ」


蓮は、ユリアを強く抱きしめた。


「遅くなってごめん。……おかえり、ユリア」


「……っ! 蓮様ぁぁぁ……ッ!!」


ユリアは、騎士としての気丈さをかなぐり捨て、蓮の胸で子供のように泣きじゃくった。


リサたちが抱きつき、五人は一つになった。


永遠に失われたはずの絆が、概念をもねじ曲げる執念によって、再び結ばれた瞬間だった。


帰還、そして


「帰ろう。僕たちの国へ」


蓮たちは、崩壊を始めた「悠久の狭間」を後にし、次元の裂け目へと飛び込んだ。


彼らはまだ知らない。


彼らが戻る世界には、七つの災厄がばら撒かれ、新たな混沌の時代が幕を開けようとしていることを。


そして、蓮自身が「神喰らい」として、世界のシステムから「最大脅威」に認定されたことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ