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「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生
第一部「復讐と奪還編」

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第57話:深淵の悪夢と、命の口付け

1. 泥の海と原罪

蓮の意識は、冷たく粘つく泥の海に沈んでいた。


そこは、彼の精神世界だった。


(重い……。苦しい……)


右腕が、鉛のように重い。そこから伸びる黒い鎖が、蓮の全身を縛り上げ、深淵へと引きずり込んでいく。


『お前はゴミだ。Eランクの欠陥品だ』


『神の力を盗んだ罪人め。その身の程知らずな欲が、お前を滅ぼす』


声が聞こえる。教皇の声、剣崎の声、そしてかつて自分を嘲笑った全ての人々の声。


さらに、喰らった天使の「純白の光」が、体内から蓮を焼き尽くそうとしていた。異物は排除する。それがシステムの絶対命令だと言わんばかりに。


(熱い……痛い……。もう、楽になりたい……)


蓮の心が折れかけた時、泥の底から、彼を呼ぶ声が聞こえた気がした。


ユリアの声ではない。もっと近く、温かい、生者の声。


『蓮様……逝かないで……』


2. 献身の儀式

現実世界。地下アジトの薄暗い一室。


蓮はベッドに横たわり、高熱にうなされていた。全身から脂汗が吹き出し、右腕は赤黒く脈動して、触れるもの全てを腐らせようと暴走している。


「魔力が……暴走して、魂を削っています……!」


フィーネが、蓮の上に覆い被さりながら叫んだ。彼女の顔もまた、魔力枯渇寸前で蒼白だった。


「どうすればいいの!? 蓮様が死んじゃう!」


リサが泣きながら、蓮の冷たい左手を両手で温める。


セラフィナが、決意の表情でフィーネに告げた。


「フィーネ。通常の回復魔法では追いつきません。直接、生命力を分け与えるしかありません」


「……はい。覚悟はできています」


フィーネは、自らの服の胸元を寛げた。そして、蓮の唇に、自分の唇を重ねた。


それは口付けではない。生命の譲渡だ。


フィーネの口から、濃密な『安寧の魔力』が、蓮の体内へと流し込まれていく。唾液と共に命を分け与える、背徳的で神聖な儀式。


「んっ……ぁ……」


フィーネの喉が鳴る。蓮の暴走する魔力が、逆にフィーネの精気を貪欲に吸い上げ始めたのだ。


「フィーネ! 大丈夫か!?」


「か、構いません……! 蓮様が望むなら……私の全てを……!」


フィーネは離れようとせず、さらに深く、舌を絡ませて魔力のパスを繋げた。


3. 共有する熱

「私にも……手伝わせてください」


リサが、ベッドに上がり込んだ。


彼女は、蓮の暴走する右腕――触れるだけで肉を腐らせる呪いの義手を、自身の肌で包み込んだ。


「リサ! その腕に触れたら!」


「平気。私は獣人だもの。回復力なら人間よりある。それに……蓮様の痛みなら、私も欲しい」


リサは、右腕から放たれる呪詛で自身の肌が焼ける音を無視し、その禍々しい腕を胸に抱いた。彼女の体温と鼓動が、義手の暴走を物理的に抑え込む。


セラフィナもまた、蓮の足元に座り、自身の『一意の概念』を蓮の精神に同調させていた。


「蓮様。貴方は一人ではありません。私たちが鎖になります。貴方を現世に繋ぎ止める、愛の鎖に」


三人の女性が、自らの命を削り、体温を重ね、蓮という崩壊寸前の器を必死に繋ぎ止めていた。


その光景は、側から見れば乱れているように見えるかもしれない。だが、そこにあるのは、死すら恐れない純粋で重い献身だけだった。


4. 覚醒と受容

精神世界の泥の中で、蓮は温かい光を感じた。


唇から流れ込む甘い蜜のような魔力。右腕を包む獣の温もり。精神を支える剣のような意志。


(……そうだ。僕には、まだ手放せないものがある)


蓮は、自分を縛る黒い鎖を、泥の中で掴み返した。


『Eランク? ゴミ? ……上等だ』


蓮は、体内を焼く天使の光を、自身の「強欲」で飲み込んだ。


(僕はゴミだ。だからこそ、神だろうが天使だろうが、使えるものは全部拾って、自分の力にするんだ!)


「……ぁ、あああッ!!」


蓮が、現実世界で目を見開いた。


「蓮様!?」


フィーネが唇を離す。


蓮は、荒い息を吐きながら上半身を起こした。全身から湯気が立ち上っている。


暴走していた右腕の脈動が収まり、静かな漆黒の輝きへと変わっていた。天使の力を完全に消化し、義手の動力として定着させたのだ。


「……はぁ、はぁ。……みんな」


蓮は、ボロボロになった三人の姿を見た。


精気を吸われてふらつくフィーネ。右腕を抱いた胸に火傷を負ったリサ。精神疲労で憔悴したセラフィナ。


「すまない……。また、助けられたな」


蓮の声は掠れていたが、その瞳には以前よりも強く、深い闇の光が宿っていた。


「いいえ……。お帰りなさいませ、蓮様」


フィーネが、涙ぐみながら蓮の胸に顔を埋める。


蓮は、自由になった左手でフィーネを抱き寄せ、そして右手の義手で、火傷を負ったリサの頬を――今度は傷つけないように、慎重に撫でた。


「行こう。今度こそ、世界の裏側へ」

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