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「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生
第一部「復讐と奪還編」

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第53話:迷い子の決断と、崩れ去る忠誠

最後の門番


S級転生者たちの惨めな末路を背に、蓮は単身、王都の城壁を越えた。


暴徒と化した反乱軍の主力は、城門で国軍と激突している。その混乱に乗じ、蓮は最短ルートで王城の地下、諸悪の根源である『聖魔融合炉』へと続く大回廊を疾走していた。


「止まりなさい!」


大回廊の奥、巨大な扉の前で、震える声が響いた。


そこに立っていたのは、S級パーティ『スターダスト』の最後の一人、治癒術師のアイリだった。


彼女は杖を構え、結界を展開して道を塞いでいた。だが、その顔色は蒼白で、杖を持つ手は小刻みに震えている。


蓮は足を止めず、歩く速度に落として彼女に近づいた。


「退け。お前じゃ僕を止められない」


「だ、ダメ……。ここを通すわけにはいかない。私はS級冒険者として、依頼を受けているの!」


アイリは必死に叫ぶが、その瞳には戦意よりも恐怖と、深い迷いが色濃く浮かんでいた。


蓮は、彼女の目の前で立ち止まった。漆黒の義手をぶら下げたまま、冷徹な視線を彼女の瞳に突き刺す。


「依頼? 金のためか。それとも、あの腐った仲間への義理か?」


「っ……!」


「どっちでもいい。だが、殺気がない。お前、あの高台で民間人が虐殺されている時、震えていただろう」


蓮の言葉は、アイリの図星を突いた。


「中途半端な覚悟なら、こんな場所に居てはいけない。ここはこれから、地獄になる」


黄金の鎖と家族の笑顔


アイリの脳裏に、守りたかったものの記憶がフラッシュバックした。


彼女は異世界から転生した後、この世界の貧しい村の家族に拾われた。血は繋がっていないが、彼女を本当の娘のように愛してくれた両親と、病弱な義理の妹。


『アイリお姉ちゃん、これでお薬が買えるね』


妹の笑顔を守りたかった。だから、彼女は自分のチート能力を使ってS級冒険者になり、カイトたちの非道な振る舞いに目を瞑り、国からの汚れた金を受け取り続けてきた。


金さえあれば、家族を養える。妹の病気を治せる。そう自分に言い聞かせてきた。


だが、今日見た光景は、その言い訳を粉々に砕くものだった。


無抵抗な人々が盾にされ、魔法で焼かれ、笑いながら殺されていく。


(私が守ろうとしているこの国は……こんなにも醜いことをして、維持されているの?)


アイリは、自分の手を見た。


まだ直接人は殺していない。だが、あの虐殺者たちの仲間にいた時点で、この手も血に濡れているのではないか。


(こんな手で稼いだお金で……あの子を治して、私はあの子の頭を撫でられるの? 家族に顔向けできるの?)


決別


「……できない」


アイリの口から、掠れた声が漏れた。


もしここで蓮と戦い、万が一勝ったとしても、彼女は一生、あの虐殺の片棒を担いだ罪悪感を背負って生きることになる。


逆に負ければ、家族を残して死ぬことになる。


どちらに転んでも、彼女が求めた「家族との幸せ」は、この国に留まる限り手に入らない。


アイリは、冷静な頭でそれを悟った。


「退きなさい。……今すぐに」


蓮が低く告げる。


アイリは、ゆっくりと杖を下ろした。展開していた結界が、ガラスのように砕け散る。


「……ありがとう。私、間違ってた」


アイリは涙を拭い、顔を上げた。そこにはもう、迷いはなかった。


「依頼は破棄する。違約金なんて知ったことじゃない」


彼女は踵を返した。向かう先は、蓮とは逆方向。城の裏口だ。


「家族を連れて、逃げるわ。この国じゃない、どこか遠くへ。貧しくても、胸を張って生きられる場所へ」


アイリは走り出した。彼女の背中は、S級冒険者という虚飾の鎧を脱ぎ捨て、ただの一人の少女に戻っていた。


最後の扉


走り去るアイリの足音が消えるのを待ち、蓮は再び前を向いた。


「賢明な判断だ」


蓮は彼女を追わなかった。彼女は「ゴミ」ではなかった。まだ「良く」なれる余地のある人間だったからだ。


蓮の目の前には、聖魔融合炉へと続く、重厚な封印扉がそびえ立っていた。


この扉の向こうに、教会の最高権力者である教皇と、この世界の歪みの核心がある。


「さて、教皇。懺悔の時間だ」


蓮は、漆黒の義手『虚空の右腕』に魔力を充填した。


扉に触れることなく、空間ごと「閉ざされている」という概念を握り潰す。


ズズズ……と巨大な扉が悲鳴を上げ、内側へとひしゃげて崩れ落ちた。


中から溢れ出したのは、神聖さとは程遠い、ドス黒く濁った魔力の奔流と、腐臭だった。


蓮は、その地獄の深淵へと、たった一人で足を踏み入れた。

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