第51話:嗤う虐殺者と、審判の時
1. ダイキの「状態異常」実験
高台の魔法使い、ダイキは、単なる狙撃に飽きていた。
彼は、眼下の「人間の盾」の集団に向けて、殺傷力のある攻撃魔法ではなく、あえて地味な色の霧を放った。
「新スキルのテストだ。『カース・ポイズン(呪毒)』。さーて、一般人のHPだと何秒で溶けるかな?」
霧に包まれた一角で、老婆や子供たちが喉をかきむしり、苦悶の表情で倒れ込んだ。皮膚が紫色に変色し、泡を吹いて痙攣する。
ダイキは懐からストップウォッチを取り出し、ニヤニヤしながらタイムを計っていた。
「おっ、爺さんは10秒でドロップか。子供は体力ないから5秒で死ぬな。うわ、あの母親、死んだ子供抱えて泣いてるよ。精神耐性も低いなー」
彼は、目の前で苦しみ抜いて死んでいく人々を、ただの「データ収集の検体」としてしか見ていなかった。
「あーあ、エフェクトが地味だな。次は『範囲石化』で、全員彫像にしてから砕いてみるか。コレクションにいいかもな」
2. ショウの「耐久度」検証
天幕の外では、前衛職のショウが、護衛についていた近衛騎士たちを呼びつけていた。
「おい、お前ら。俺の新しいガントレットの試し打ちに付き合えよ」
「は、はい……訓練ですね?」
騎士が剣を構えようとした瞬間、ショウの拳が騎士の鎧ごと腹部を貫いた。
ドゴォッ! という音と共に、騎士が血を吐いてくの字に折れ曲がる。
「あ? なんだよ、もう壊れたのかよ。この国の騎士、防御力紙すぎだろ」
ショウは、拳にこびりついた血と肉片を、倒れた騎士のマントで拭き取った。
「訓練なんて生ぬるいこと言ってんじゃねーよ。俺が知りたいのは、『人間がどれくらいの衝撃でミンチになるか』っていう物理演算の結果なんだよ」
彼は、恐怖で震える別の騎士の首を掴み上げた。
「次は頭蓋骨で試すか。クリティカル判定の練習台になれよ、ザコ」
騎士の悲鳴が上がる前に、ショウの手の中で兜ごと頭部が握り潰された。彼はそれをゴミのように投げ捨て、つまらなそうに欠伸をした。
3. レンジの「コレクション」
斥候職のレンジは、戦場に出るふりをして、避難民の荷物を漁っていた。
彼が使うのはスキル『強奪』。相手の同意なく、所持品を強制的に奪い取るチート能力だ。
「お、この指輪、鑑定したらレア度高いじゃん。もーらい」
レンジは、泣き叫ぶ少女の指から、形見であろう指輪をスキルで奪い取った。指輪は指ごと切断されることなく、一瞬でレンジの手の中に移動する。
「返して! それは亡くなったお母様の……!」
「うるせーな。アイテムはお前みたいなモブが持つより、俺みたいなプレイヤーが持ってた方が有効活用できんだよ」
レンジの腰袋には、そうやって奪った宝石、金貨、そして美しい女性の髪の毛や、切り取られた身体の一部までもが「レアアイテム」として詰め込まれていた。
「へへっ、この世界の住人はチョロいな。殺さなくても、こうやって絶望する顔を見るだけでゾクゾクするぜ」
彼は少女の絶望した顔を、まるで珍しいモンスター図鑑でも眺めるように楽しみながら、さらに彼女の衣服へと手を伸ばした。
4. 勇者の号令
そして、天幕に戻ったリーダーのカイトが、全員に号令をかけた。
「さて、お前ら。遊びはそこそこにして、メインイベントだ」
カイトは、極大魔法の詠唱準備に入りながら、残虐な笑みを浮かべた。
「反乱軍も、人間の盾も、まとめて消し飛ばす。クエストクリアのファンファーレを聞こうぜ」
ショウ、レンジ、ダイキもそれぞれの「遊び」を中断し、カイトの元へ集まった。
「了解。最後は派手な花火で締めないとな」
「経験値総取りだぜ!」
彼らは一列に並び、眼下に広がる数千の命に向けて、破滅の光を放とうとしていた。
アイリだけが、耳を塞いで蹲っていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
カイトが詠唱を完了し、空が赤く焼けただれる。
「死ねよ、モブども! 『ヘル・フレア』!!」
巨大な火球が、太陽のごとく戦場を覆い尽くす。
S級転生者たちは確信していた。この圧倒的な暴力の前では、この世界の住人はただひれ伏し、焼かれるだけの存在だと。




