21.神の采配 ルーファス視点
ルーファス視点です。
入浴後、知らない部屋で寝付けないのではないかとユキの様子を見に行くと、心地よさそうに眠り込んでいた。
無意識か、白兎を腕に抱くようにして眠り込む姿が愛らしく、自然に笑みが浮かぶ。
女性らしい内装のこの部屋は、本来は妻となる女性のための部屋だとわかっていたが、ユキに使って欲しかった。
婚約者と同じ扱いだとユキに教えず、この部屋を使わせるのは卑怯だっただろうか。
だが、ユキ以外の女に、この部屋を使わせる気はないのだから仕方がない。
起こさないようにそっと自分の部屋に戻り、居間のキャビネットから酒の瓶を取り出した。
ユキが作った氷がアイテムバッグに入っていたので、氷をグラスに入れて、年代物の酒を注ぐ。
特に弱いわけではないが、ユキと出逢ってからは飲まないようにしていたから、酒を飲むのも久しぶりだ。
「やっぱり、来たか」
軽いノックの音とほぼ同時に扉が開き、ローランドが入ってくる。
大人しく寝るはずがないと思っていたが、予想通りだ。
「明日まで待てないのか。奥方を放置して、拗ねられても知らないぞ?」
からかいつつも、素直に帰るわけがないとわかっているので、グラスをもう一つ用意して氷を入れる。
酒を注いでやると、向かいのソファにローランドが腰掛けた。
「久しぶりだから、セシリアは許してくれる。この時間なら、ユキは寝てるだろうと思ったから、男同士の話をしにきた」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべながら、ローランドが視線を向けてくる。
俺のことをからかいたくて仕方がないらしい。
「兄上の手紙に書いてあったけれど、ユキは本当は17歳なんだって? 元の姿を取り戻したら、結婚するのか?」
からかいたいだけかと思っていたら、意外なことに真顔で聞いてきた。
ローランドは昔からそうだが、どうしてそんなに俺を結婚させたいんだ。
家族のよさを散々語られているが、今まで心が動いた事はなかった。
ユキに過去の話をしたことで、俺にも家族がいたのだと、実感させられたところだ。
獣神のことは、今でも完全には許せていないし、父だという実感も薄い。
だが、決して不幸なだけの子供ではなかったと、ユキが教えてくれた。
子供の頃を思い出すとき、これからは前ほど胸が痛むこともないだろう。
「それなんだがな……。ローランド、俺がこれから話すことを、誰にも言わずにいられるか? 親にも兄弟にも王にも、そして奥方にも話さずにいられるのなら話す」
いずれ、公爵家の力を頼ることになるとしたら、その時はローランドの親や兄にはユキの秘密を話すことになるだろう。
だけど、今はまだローランドにしか話したくない。
ローランドの家族を信用していないというわけではなく、俺もどうしたものかまだ悩んでいるのだ。
ユキを守りたい。
けれど、どう守るのが最善なのか、考え出すと切りがない。
力で排除するのなら、誰にも負けない。
けれど、力だけでは排除できない敵もいると、俺は王都での暮らしで知った。
騎士で、マスグレイブ家の3男のローランドとしてではなく、俺の友のローランドに話したいのだと伝わったのだろう、しばらく逡巡して、その後に重々しく頷いた。
「誰にも話さない。お前との友情にかけて誓う」
俺と視線を合わせたまま、真顔でローランドが誓った。
ローランドがどれだけ俺のことを気にかけて、大切にしてくれているのか、とてもよく知っている。
俺の友であることを、どれだけ誇りに思ってくれているのか、それも知っている。
ユキと出逢ってから、今までとは違うものの見方もできるようになって、俺にとってローランドがどれだけ大切な存在なのかを思い知った。
ユキは俺のことを恩人だと言うが、ユキが俺に与えてくれたものは計り知れない。
「ユキは天空人だ。気がついたらこの世界にいたらしい。妖精の森で偶然出逢ったんだ。ユキには、間違いなく神が関わっている。ユキが持っていた白兎のぬいぐるみがあっただろう?」
覚えているだろうかと確認するように問うと、ローランドが一つ頷いた。
頷きながらも、思いがけない話を聞かされて、驚きのあまり声も出ないといった様子だ。
「あの白兎は、アイテムバッグだ。ユキはアイテムボックスと呼んでいるが。ユキが夢の中で友人にもらったそうなんだが、その友人というのが神だと俺は考えている。神がユキの夢に現れた時、ユキの姿に成人した黒髪の女性の幻が重なって見えるんだ。多分それが、ユキの本来の姿なんだろう。本来のユキの幻を初めて見たとき、俺の番だと感じたんだが、ユキは家に帰りたがっている。俺も、ユキを家に送り届けると約束した」
約束は守らなければならない。
例えそれがどんなに辛いことだとしても。
ユキが何故この世界にきたのか。
本当に俺の番なのか。
帰り道は見つかるのか。
神の意図はなんなのか。
考え出すと切りがない。
どれも答えは見つからない。
ユキは、俺と出逢うためにこの世界に来たのだとしたら嬉しいと言ってくれた。
それがどれだけ嬉しかったか、ユキにわかるだろうか?
ユキを抱きしめたまま、泣いてしまうかと思った。
愛しくて愛しくて堪らなくて、離したくないと思った。
「天空人が家に帰る方法なんて、王宮図書館の書物を探しても、見つからないと思うぞ? 神が関わっているのなら、ユキがこの世界にいるのは神の意思だ。帰るのも神次第だろう。何らかの目的があって、ユキをこの世界に連れてきたのなら、その目的を果たすまでは帰れないんじゃないか?」
気つけとばかりに、一息に酒を煽ってから、ローランドが自分の考えを口にする。
確かに、ローランドの言う通りだろう。
ユキの話だと、夢で神に会った時に、ユキに伝えられる情報は制限されているようだった。
もしかしたらそれは、ユキがまだ目的を果たしていないからなのではないだろうか。
一体、神はユキに何をさせたいのだろう?
どんなに過酷な試練でも、手伝う覚悟は出来ているが、ユキを辛い目にあわせたくはない。
だから、ユキに関わるのが残酷な神でないことを祈るしかない。
「やっと、ルーファスに伴侶ができると思ったのに、違う世界に帰るかもしれないとは思わなかった。引き止めれば、残ってくれる可能性もあるんじゃないか? 家族の分もルーファスが愛してやればいい。ルーファスだけで足りないのなら、私達がユキの家族になる。それに天空人なら、半神のルーファスとずっと一緒に生きていけるだろう? 失う心配をすることなく、思う存分愛せる相手を、逃して欲しくないと思うよ。ルーファスに幸せになって欲しいからね」
ローランドの言葉は、俺の心の奥底にある欲望を刺激して、自分に都合のいい方向に流されたくなる。
ユキを失いたくない、ユキと幸せになりたい。
俺はそう思っているけれど、でも、ユキは?
生まれ育った世界に、家族のもとに帰りたいんじゃないだろうか。
俺が下手に引き止めれば、ユキは板ばさみになって苦しむことになる。
「ユキが残りたいと言ってくれたら、その時は、絶対に離さない。だが、ユキの選択を待ちたい。こちらに残るとしたら、ユキは失うものが多い。だから、残るにしても後悔しないように、自分自身で決めて欲しい。――俺がローランドに頼みたいのは、ユキの盾になることだ。俺とパーティを組んでいるとなれば、ユキの方から攻めてくるやつもいるだろう。それに、ユキ自身の能力や有用性に気づかれたら、無理に縁を結ぼうと、誘拐して無理矢理婚約者に仕立てるかもしれない。だから、ユキを守る手伝いをしてほしい。俺にはできない方法でローランドは守れるだろう?」
ユキの素性をローランドに話したのは、俺では手の打ち用がない方向からの攻撃に備えるためだ。
ユキがどれだけ重要な人物なのか、真から理解していなければ、手遅れになる可能性もあるから、それを恐れて話した。
ローランドだからと信用して打ち明けたのだと理解したのか、今までよりも好意的な扱いに感激している様子だ。
俺が頼るだけで、ローランドはこんなに喜んでくれるのだな。
今まで、鬱陶しがって邪険にして、悪い事をした。
「盾にでも矛にでもなるよ。他ならぬルーファスの頼みだ、引き受けないはずがない。それに、個人的にユキには感謝しているからね。ルーファスに生きる喜びを、幸せを教えてくれた恩人なのだから」
俺の変化を心から喜んでいるといった様子で、ローランドが請け負ってくれる。
生きる喜びか。
確かに、ユキと出逢ってから、毎日が楽しい。
幸せだと感じた事も、数え切れないほどにある。
ローランドは、あの短い邂逅でそれを理解してしまったんだな。
それだけ、俺のことをきちんと見てくれているということなのだろう。
「そうだ、グレンの実を採ってきたぞ。明日、料理人に渡すか?」
問いかける俺に、ローランドが手を差し出す。
今よこせということらしい。
アイテムバッグからグレンの実を一つ取り出して、ローランドに差し出すと、それはもう嬉しそうに齧りついた。
「美味いっ! 滅多に食べられるものじゃないから、本当に嬉しいよ。ありがとう、ルーファス」
満面の笑みでお礼を言われると、手に入れた甲斐があったと思う。
騎士生活が長いローランドは、貴族の癖にあまり上品ぶらない。
果物に齧りつく上級貴族なんて、俺はローランドの他には知らない。
「グレンの実を採りに森に入ったおかげで、ユキと逢えたんだ。言うなればそれは、縁結びの実だ。……そうだ、そういえば、ユキがグレンの木を育てる方法を知っていた。特別な栄養剤を定期的に与えれば、森でなくても育つようだ」
きっとローランドのためになら、ユキは栄養剤を作ってくれるだろうと思い、情報を与えると、ローランドが目を輝かせた。
いつでもグレンの実を食べられるとなれば、嬉しいのだろう。
「その知識だけでも、千金の価値があるな。ユキを大切に守らなければ。――今回は長く滞在するようだが、王都で何をする予定なんだ? 私がルーファスを呼んだのは、アルサンドの王子もやってくる建国記念のパーティーに、どうしても参加して欲しいと、王族の要請がしつこかったからなんだが」
どうやら大掛かりなパーティーに参加しなければならないようだとわかり、顔を顰めてしまう。
貴族だらけの王城なんぞ、行きたい場所ではないが、ローランドの顔を立てるためには仕方がない。
定期的にローランドを信用している事を周囲に誇示して、ローランドの立場を守ってやらなければならないから。
「ユキのレベルがまだ1なんだ。どうやら100まで育っていたのが1に戻されたらしい。だから、冒険者ギルドのランクを上げるついでにレベルも上げて、行けそうなら、王都近くのダンジョンにも行ってみるつもりだ。パーティーは、憂鬱だが参加する。ユキが引き受けてくれるのなら、パートナーとして連れて行きたいんだが、ドレスや靴を作らせる時間はあるか?」
ローランドの事だ、余裕を持って呼び出していると思うんだが、女性の衣装は作るのに時間が掛かる。
もし、ユキがパートナーになってくれるのなら、いい品を取り揃えてやりたいから、時間も必要だ。
公爵領でもドレスは数着注文したが、装飾品などは見る時間がなかった。
出入りの商人をローランドに呼んでもらうべきか。
それとも、エリアスに頼んでみるか?
エリアスは恩を感じていたようだから、いい物を手に入れてくれるだろう。
今まで、使う機会もないから報酬を貯め込んでいたが、貯めておいて良かった。
ユキのために使うのが、俺にとっては一番有意義な使い方だ。
あまり散財すると、ユキに叱られてしまいそうだが。
「レベル1とは、何か理由があるんだろうが、神も酷いことをする。ユキはショックを受けたりしていないのか?」
心配でならないというようにローランドに問われて、ユキとの会話を思い出した。
それだけで胸が温かくなって、自然に笑みが漏れる。
「生産のスキルレベルが1になるよりずっといいと言っていた。生産スキルのレベルの方が、上げるのは大変らしい。ユキは強くて、前向きなんだ。『頑張る』が口癖で、一生懸命に自分にできる事を探す。気配りも細やかで、常に優しい気遣いを忘れない」
ユキを思うだけで、心が満たされる。
ユキを褒める言葉なら、次から次に浮かんでくる。
名づけの由来を聞いたが、ユキの亡き父の願い通りにユキは育っていると思う。
家族と離れ離れになってこの世界に飛ばされてから、ユキは常に自分にできることを精一杯やってきた。
あの小さく頼りなげな体で、毎日精一杯生きているユキを見ると、ユキのために何だってしたくなる。
ユキを褒めちぎる俺に驚いたのか、ローランドはぽかんと間抜けを晒していた。
「――ルーファスが惚気てる……。明日は雪か?」
失礼な事を言いながら、ローランドが自分の頬を抓った。
「痛い」と、当たり前のことを呟きながら、何故か不気味に含み笑う。
グラス一杯の酒でもう酔ったのか?
「ルーファス! もっと飲め! めでたいから、祝い酒だ。キャビネットの酒を全部飲みつくしてもいいぞ!」
俺のグラスに酒をどばどばと注ぎながら、ローランドが明るく言い放つ。
俺が惚気るのが、そんなにめでたいのか?
まぁ、飲んでいいと言うのなら飲むが。
公爵家に置いてあるだけあって、そこらの酒場ではお目にかかれないような、いい酒ばかりなのだから。
「お前はあまり飲むと、明日、奥方に叱られるぞ? 昼食を一緒にとれるということは、騎士団の仕事はないんだろうがな」
ローランドは特に酒に強いというわけではないので、飲みすぎる前に忠告しておく。
夕食ではなく昼食に誘われたという事は、多分、俺が来るとわかり、すぐに休みをとったのだろう。
明日は一日、ローランドに付き合わされる可能性もある。
「セシリアに叱られるのは困るな。彼女は怒るととても怖いんだ」
叱られるのを想像したのか、小さく肩を竦めてローランドが苦笑する。
相変わらず、仲睦まじく尻に敷かれているようだ。
酒を飲み過ぎないように、ユキにもらったグレンの実のジュースをローランドに出してやった。
「酒の代わりに、これでも飲め。ユキがスキルで作ったグレンの実のジュースらしい。魔道具で冷やしたものをアイテムバッグに入れておいたから、冷たくて美味いぞ」
何度か飲んでみたが、実のまま食べるのとはまた違って、喉越しが良くて美味しいジュースだ。
甘味を特に好むわけではないが、とても気に入っている。
「グレンの実のジュース? そんな物があるのか。それに、料理をわざわざスキルで作るのか? これは紙のようだが、見たことのない容器だな。どうやって飲むんだ?」
信じられないものを見るようにジュースを手に取り、ローランドが観察し始める。
紙パックにはストローがついているんだが、使い方がわからないらしい。
そういえば、俺もユキに教えてもらうまではわからなかったなと、思い出した。
そもそも、料理まで生産スキルがあるとは、ユキに聞くまで知らなかった。
生産用の魔道具も、料理の魔道具があるとは聞いたことがない。
「容器に細い筒がついているだろう? それを外して、そこの銀色のところに尖った方をさすんだ。後は、ストローというその筒に口をつけて吸えばジュースが飲める」
俺の説明を聞きながら、神妙な面持ちでローランドがストローをさしていく。
ジュースを一口飲んで、冷たさに驚いたのかビクッと身を震わせ、もう一口飲んだ時には、表情が蕩けきっていた。
元々好物なのだから、至福の味なのだろう。
「こんなに美味い飲み物は、初めてだ。これをスキルで作れるなんて、なんて凄い子なんだ、ユキは!」
ローランドが顔を輝かせてユキを褒めるので、当然だと、大きく頷いた。
「しかもそれは、魔力を回復する効果もあるらしい」
俺が追加情報を出すと、驚いたローランドが凄い勢いで咽た。
涙目になって咳き込むのを見ながら、悠然と酒を飲む。
俺だって驚いたんだ。
ローランドにも驚いてもらわないと割が合わない。
「ユキの友人だという神の話によると、ユキがスキルで作った料理を世に出す事で、冒険者や魔物退治をする騎士団が楽になるだろうという事だった。効果があるのは鐘半分くらいの時間だそうだが、戦う前に料理を口にすれば、その間は身体能力が上がったり、体力や魔力が回復しやすくなったりするらしい」
ローランドにユキが天空人だと打ち明けようと思った理由の一つは、ユキが出所だと知られずにユキがスキルで作った物を流通させるには、大きな権力が必要だと思ったからだ。
こんなものが市場に出回れば、製造元をこぞって探す輩も出てくるだろう。
職人を確保して、利益を独り占めしようとする貴族が出てくるのは、簡単に予測がつく。
英雄と呼ばれる俺ですら、自領の魔物退治や、貴重な魔物素材を手に入れるための道具として、取り込もうとする貴族が後を立たなかった。
当時の俺は成人したばかりの子供だったから、たかが平民がと侮られて、下に見られていた。
一番酷かったのは、婚約者気取りで俺に付きまとっていた第三王女だ。
英雄の伴侶という名誉と、竜退治で俺が得た多額の報酬が目当てだったようで、散々色仕掛けをされた。
プライドが高くうるさい女なので、出来れば顔も見たくない。
あまりにもしつこいので、『常に複数の男の体液の臭いがする女に愛を語られても、滑稽なだけだ』と言ってやったら、それ以来、臭いを隠すために香水臭くなってしまったから、遠くにいても判別できるようになった。
おかげでここ数年はほとんど会わずに済んでいる。
しつこい王女も貴族達も、ローランドをはじめとした公爵家の人達が追い払ってくれた。
貴族には貴族のやり方があると教えてくれて、俺が自由でいられるように守ってくれた。
俺は貴族が嫌いだが、ローランドやその家族だけは信じている。
だから、今回も状況によっては、ローランドの親や兄弟にも秘密を打ち明けて、公爵家の協力を得なければならないかもしれないと思っていた。
「見た目は愛らしい子供なのに、とんでもないな。他にも何か作れるのか?」
事の重大さを考えると頭痛がするのか、ローランドが秀麗な顔を歪め、頭を抑える。
やはり、ローランド一人に頼るのは無理があるだろうか。
ローランドの家族にもユキの秘密を打ち明けるのなら、先にユキに相談しなければ。
「料理とポーション、それに弓と馬車も作れるようだ。今日、俺が乗っていた馬車は、ユキが作った物らしい。明日にでも中を見せてもらえば、目玉が飛び出すくらい驚くぞ? 俺はあんな馬車は見たこともないし、話に聞いたこともない。さすが天空人の作った馬車だと恐れ入った」
あんなに快適な馬車を、俺は他に知らない。
下手な宿に泊まるよりも快適で、その上安全だった。
冒険者として旅をしていると、まともに宿に泊まれない時や、風呂に入れない時もある。
けれどあの馬車があれば、どんな辺境にだって行けるだろう。
見張りもおかずに夜は休めるなんて、本来ならばありえないことだ。
あれを見てローランドも、一生分驚けばいい。
「ルーファスがユキと出逢ったのは、神の采配だな。お前と出逢っていなければ、ユキは早々に権力者に捕獲されて、監禁されていたに違いない。私を頼らなくても、ルーファス一人で守れるんじゃないかと思っていたが、ユキを完全に守るには、守りはどれだけあっても足りないな」
ローランドは紙パックを手で弄びながら、しみじみと語る。
神の采配?
もしかして俺は、ユキを守るために引き合わされたのだろうか?
ローランドの言葉は的を射ているように思えた。
俺とユキの出逢いは、神に仕組まれたものだった?
だが、仕組まれていても、それはそれで構わない。
ユキと出逢えた喜びと比べれば、神に対する不快感など何でもないのだから。
何にしてもユキのレベルを上げるのが先決だ。
魔力が足りなければ、生産スキルを使うのは大変なようだから。
建国記念パーティーは、社交シーズンも半ばの2ヵ月後らしいので、まずは冒険者としての活動に勤しむ事にした。




