15.冒険者ギルドの活用法
冒険者ギルドで、ルーファスさんがエリアスさんの護衛クエストの確認をすると、護衛依頼はギルドを通してのものに間違いないと確認が取れた。
普通は他の人のクエスト内容を教えたりはできないらしいけれど、今回は事が冒険者ギルドの信用に関わる問題だった事もあって、教えてもらえたようだ。
早速、ギルドにやってきたら身柄を拘束という通達が近隣のギルドにも出されて、騎士団にも使いが送られた。
これで、この街に既にいるのなら、ギルドで捕まえられなくても、街から出るときに捕まるらしい。
ろくな通信手段がなさそうなこの世界で、ギルドからギルドへの通信手段があることに驚いてしまった。
手紙を転移させる装置を使うようだけど、魔力を消費するので何度も連続して使うのは辛いそうだ。
個人で手紙を送ることもできるけれど、かなり高い使用料を取られるらしい。
ルーファスさんも、ギルドを通して送られた手紙で、ローランドさんに呼び出されたそうだ。
冒険者はできる限り、移動先で冒険者ギルドに滞在報告をしなければならないので、誰がどこにいるのかは大体わかるようだ。
時には指名依頼が入ることもあるので、高ランクの冒険者はこまめな滞在報告が半ば義務になっている。
冒険者ギルドでの用事を済ませた後は、すぐに宿に向かった。
今回は馬車があるので、馬車も預かってくれる宿に泊まる事になった。
アイテムボックスに収納すれば余分なお金を使わずに済むけれど、ゲーム時代のお金が使えるから、お金に困っているわけじゃないし、悪目立ちするよりも余分にお金を払う方を選んだ。
ルーファスさんにだけ負担を掛けるのが嫌で、持っているお金を渡そうとしたけれど、あっさり拒否されてしまった。
宿代が少しくらい高くなったところでたいした負担ではないし、Aランクの冒険者ともなると収入はBランク以下とは桁違いで、お金に困ることはないそうだ。
Aランクにもなると一回辺りの報酬も高く、指名依頼ともなると更に報酬は増えるみたいだ。
最高ランクのSランクまで到達した冒険者は少ないらしいけれど、半数はどこかの国に定住して貴族になっているらしい。
でも、一国に仕える立場になると冒険者ではなくなるので、誘いがあっても、断って冒険者を続けている人も多いという話だった。
「そんなに俺に負担を掛ける事が気になるのなら、ギルドに預けるか? パーティ資金として、パーティ名義でも預かってくれるし、ユキの個人名義でも預かってもらえる。一年に一度、預けられている金額を元に利息がつくようになっていて、ここや王都のような大きな街では、ギルドカードで代金を支払えるという利点もある。冒険者のランクによって、割引のきく店もあるしな。アイテムバッグを持たない冒険者は、いざという時のためにギルドカードを使って蓄えておくようだが、必要ないかと思って説明をしていなかった」
少し困ったように考え込んだ後、ルーファスさんが提案してくれた。
私に宿代を払わせる気はないけれど、私の気持ちが少しでも楽になるように慮ってくれたようだ。
ギルドって銀行のような業務まで請け負っていたのか。
もしかして、貸付とかもやってるのかなぁ?
預かった資金を運用して更に増やす事で、ギルドの利益を増やしているんだったりして。
お金を分散させておくのは、悪くない考えだと思った。
白兎が私の手元からなくなることはないけれど、人前で使えないことはあると思うから、カードで支払いができるのなら便利かもしれない。
「じゃあ、パーティ資金と個人の両方に預けておきたい。カードで清算ができるのは便利だし、それに、私がアイテムボックスに全部溜め込んでおくよりも、ギルドに預けておいた方が、社会貢献できそうだし。私が大金を出すと目を引くと思うから、ルーファスさんに預けておいて、ルーファスさん経由で預けてもらってもいい?」
私の言葉で、洒落にならないような金額を預けるつもりだと理解したのか、ルーファスさんが僅かに苦笑する。
でも受け入れてくれるようで、アイテムバッグから麻のような素材の布袋をいくつか取り出した。
「これを使うといい。預けるのだから大金貨で出した方が嵩張らないだろう」
私のアイテムボックスに入っているお金は、総額が表示されるだけなので、出したいと思った金額分の金貨や銀貨が出てくる。
同じ1万ギルでも、金貨で出したいと思うか、銀貨で出したいと思うかで、出てくる枚数が違う。
でもこれは、私のアイテムボックスだけの機能みたいで、普通は入れた金貨や銀貨がそのまま出てくるもので、入っている総額など表示されないそうだ。
アイテムボックスの検証をしているときに、ルーファスさんのアイテムバッグとの違いを指摘され、驚いてしまった。
ゲーム時代は馬車で荒稼ぎしていたので、アイテムボックスの中には使いきれないほどのお金が入っている。
ゲーム時代は高額な取引も多かったので、億単位の金額のやり取りも普通だった。
数字のやり取りだから大金だと感じた事はあまりなかったけれど、大金貨にして出してみると、物凄い大金だなって感じて怖くなる。
とりあえず、大金貨で5千枚出して袋に入れようとしたら、ルーファスさんに呆れたようにため息をつかれた。
「参ったな。これでもユキの資産の一部か? 王都でだけ預けると王都のギルドだけ大金貨が増えることになるから、この街のギルドでも預けておこう。少し分散させたほうがいい」
驚きながらも、ルーファスさんは私を止めようとはしない。
だから、金額は多いけれど、まだ許容範囲なんだと思った。
何か問題があるのなら、ちゃんと注意してくれるはずだから。
「もう少し少ない方がいい?」
いくつかの袋に分けて大金貨を入れながら、伺うようにルーファスさんを見ると、優しく頭を撫でられた。
「いや、気にすることはないだろう。ギルドの運営資金が増えれば、それだけ助かる冒険者も増える。ギルドでは低金利での貸付もやっているからな。資金が少なければ、貸付の審査も厳選しなければならないが、潤沢なら低ランクの冒険者にも貸し出せる。武器や防具は高いものだから、それが使えなくなると冒険者は仕事が出来なくなる。ギルドで装備代を借りて、新しい装備を手に入れてから借金を返す冒険者も中にはいるんだ」
やっぱり貸付もやってるのか。
ルーファスさんの説明を聞いて、気持ちが楽になった。
私が手元に持っているよりも、有効活用される方がずっといい。
「冒険者として生きていくって、大変だね」
保険とかはないだろうから、怪我をして働けなくなった時とか、とても大変そうだ。
その分、強くなって成功すれば、ルーファスさんのようにお金に苦労しなくなるんだろうけど。
でも、ルーファスさんのような人は一握りだと、この世界を良く知らない私でも想像がつく。
「常に命の危険と隣り合わせだからな。安全な依頼だけを受けて、一つの街に定住する冒険者も多いんだ。体が動くうちはと、信頼できる仲間と旅をする冒険者もいるけどな。そういう旅をする冒険者にとって、ユキの馬車は垂涎物だろう。馬車の内部は、他の冒険者にはできるだけ見せない方がいい」
ルーファスさんの指が、優しく何度も髪を梳いてくる。
それを心地よく思いながら、ルーファスさんの話を聞いた。
ゲームの時みたいに木工スキルが使えて、馬車を作ることができるのなら、この世界の人の役に立つように馬車を売り出してもいいんだけど、いまだに生産スキルの使い方がわからない。
魔法スキルの方はちょっと試してみたらできたから、生産スキルも使えるといいんだけど。
「今日は早めに休んで、明日はギルドに立ち寄ってから、予定通り買い物に行こう。これは預かっておくな。全部個人カードに預けていいのか?」
アイテムバッグに大金貨の入った袋を片付けながら尋ねられたので、少し考えて、個人の方に2千、パーティの口座の方に3千預けてもらう事にする。
先にギルドに寄れば、買い物の時はカードで支払い出来るらしいので、楽になるだろう。
食事を済ませて、その後、部屋に備え付けのお風呂に入って、エリアスさんに譲ってもらったシャンプーを使ってみた。
香りは石鹸よりももっと自然な感じで柔らかくて、洗い終えた後の髪の感じも石鹸よりずっとよかった。
トリートメントのようなクリームも使って、久しぶりにしっかりと髪の手入れをしてから、ご機嫌でお風呂を出る。
待ち構えていたルーファスさんが、いつものように髪を乾かしてくれて、いつもと違う髪の感触にとても驚いていた。
するりと、髪に指が潜ってきた時の感触が滑らかで、撫でられるのが更に心地よくなってる。
「ユキがシャンプーを欲しがった理由がよくわかった。ユキの髪はとても綺麗だが、今日は特に艶があって綺麗だ。それにとてもいい匂いがする」
香りを確かめるように髪に顔を埋められて、ルーファスさんの顔の近さに照れてしまう。
今の髪の色は青銀色で、元の髪の色とは全然違うけれど、褒められるとやっぱり嬉しい。
湯冷めしないようにと、早々にベッドに押し込まれたけれど、久しぶりにルーファスさんと別々のベッドで寝るのが、何だか寂しいなと思った。
体温の高いルーファスさんにくっつくように寝ると、安心できてとてもよく眠れたから。
それでも疲れていたのか、ベッドに入るとすぐに睡魔がやってきて、寂しいなと思いながらも眠りに落ちていた。




