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第24話 ”葡萄酒が、お好きでしょう?”

 バロンとエメリアから、”飲みつぶの教育係になった経緯は、友三爺さんに危ないところを救われたからだと教えてもらった。バロンとエメリアは”飲みつぶ”の前身である”葡萄酒が、お好きでしょう?”のメンバーだった。


 ”葡萄酒が、お好きでしょう?”は、猿族のランリー、サイ族のバラン、エルフのエメリアとユリー、そしてドワーフのバロンからなる5人組のグループだった。


 ”葡萄酒が、お好きでしょう?”、略して”葡萄酒好き”たちは、某貴族から「人国の教会内情を把握して欲しい」と依頼を受けた。しかし、それは”葡萄酒好き”内の二人のエルフを奴隷に陥れようとする卑劣な罠であった。


 まんまと罠にはまり、仲間が次々と捕まる中、バロンは自身の身を(テイ)してエメリアだけでも逃がそうとしたが、その思いも空しく捕まってしまった。全員が奴隷の首輪をはめられそうになったその時、窮地を救いに現れたのが友三爺さんであった。


「不届き者たちが、恥を知れー!!」


 自分達とは面識のない人族の男性が、ラフな服装で突然目の前に現れた。その表情は怒りに満ち、鬼神そのものであった。


 友三爺さんは無理やり”葡萄酒好き”を捕まえた者たちに憤慨(フンガイ)のこもった声で叫ぶと、疾風迅雷のごとく敵の真っただ中に駆け込んだ!


 そして友三爺さんは...たった一人で約30人の敵を全員叩きのめした。その姿は、友三爺さんと離れて久しいバロンとエメリアの(マブタ)に、今でもしっかりと焼き付いている。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 後で分かったことだが、エメリアとユリ―のあまりの美しさに私欲に走った教会幹部が、ある貴族に二人を手にいれる様にと依頼をした。その依頼を元に、悪徳奴隷商会が動いたものであった。


 サーマレントは相変わらず物騒だな。教会幹部って...。聖書読んで欲望抑え込めよ...。


 友三爺さんが見ず知らずの”葡萄酒好き”を救い出したことと、バロンが自身の身を挺してエメリアを救い、そこから恋が始まったことが、吟遊詩人の歌集”バランとエメリア、二人の愛の大全集”、13,14話に書かれているらしい...。


 ”バロンとエメリア、二人の愛の大全集”のマニアと自称するカーシャ曰く、”葡萄酒好き”を助け出した時の友三爺さんは、エプロン一つで暴れまわったらしい。ああ、あの友三爺さんが愛用していたブッチャーエプロンだよね。防具ではないけどな。


 更にカーシャは、その当時の出来事を俺により詳しく教えたそうだったが、その話は、別の機会にしてもらった。


 するとカーシャは頬を赤く染め、「次もあって下さるのですね...」と可愛らしく呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。


 本当に手を出しそうになる自分がいる。気を付けねば。相手は大人びた外見をしていても、まだ14歳...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 話を戻すと、二人のエルフが連れ去られそうになった事件以来、”葡萄酒好き”は友三爺さんを慕い、一緒に行動するようになったそうだ。


 その後、エメリアとバロンは友三爺さんから”もっと強くなれる器じゃ”と、このサーマレントの地でみっちりと指導を受けた。いわば友三爺さんと師弟関係となった。


 友三爺さんのお手伝いとして、オークやミノタウロスの狩りに行くのは勿論、時には魚や、松茸、岩山を登って岩ノリの採取まで行った。さらに、神への信仰心を忘れ私利私欲にかられた神父たちへの制裁にも一緒に出向いた。


 友三爺さんと共に過ごした時間は、二人にとって貴重な物であった。冒険だけではなく、日本の婚姻衣装である着物を仕立ててもらい、それを着て結婚式を挙げたことも()()の大切な思い出でとなった。


 結婚式で友三爺さんから撮ってもらった”写真”を、二人は大切にしまってあると教えてくれた。


 ただ、そんな優しくて大切な時間は、三人に取ってあっという間に過ぎてしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 友三爺さんがいよいよ狩りが困難となり、二度とこのサーマレントに戻って来ないと知らされた時、二人は友三爺さんから一つのお願い事を託された。


「お前たちが嫌でなければ、アーレント一家の護衛と、護衛の育成を任されて欲しい。もちろんアーレント一家には内緒でな。予算は、わしがこちらの世界で得た財宝を全部お前らに渡す」と友三爺さんは二人に向かって深々と頭を下げた。


 以前の様にどんなに魔力で身体を補っても、オーク一匹倒すのがやっととなってしまった。そして、無理がたたり、これ以上魔力を体内で吸収できない体になってしまったようだ。


 どうやら太郎と違って、細胞の自動修復能力が乏しかったようだ。


「もうこの世界には...来ないつもりじゃ」と寂しそうに二人に伝えた。


 だが友三爺さんとしたら、この世界で世話になったアーレント一家や孤児院の事がどうしても気になり、”葡萄酒好き”に頼んだようだ


 二人は「財宝はいらない。おっしゃられたことはきちんと守ります。ですから、私たちに頭を下げないで下さい!」と言ったが、それでも友三爺さんは、二人に頭を下げ、無理やり財宝を渡した。この財宝は二人の手によって孤児院や貧困層を支援する団体に、今でも”友三基金”として定期的に寄付をしている。


 そんな友三爺さんを今でも慕っているバロンとエメリアも、今回の件に対して、特別な思いがこみ上げていた。


 全滅の危機に現れた太郎は、友三の導きと感じ、友三に対する慈悲の心をより深く味わうことになった。


 そのため、カーシャとの仲を取り持ちつつも太郎に友三が地球でどんな人生を送ったか、どんな店を持っていたか、墓はどこか、などなど、会話の片隅で太郎にさり気なく聞いた。


 そんな話で盛り上がっている中、会場のドアが大きな音をたてて開いた。


 バタァァァァァァン!!


 何ごとかと思い全員が振り返ると、そこには執事と使用人に肩を支えられ、ドアの前で荒い息をしながら立っている男性がいた。


 ダイスさんであった...。

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