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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

僕の小説あなたの小説

作者: 山本大介

 僕と私の。


僕らは文を書くという縁で結ばれた。

一般的な視点で見れば奇妙なカップルだろう。

共通の趣味が、読書の斜め上をいく書くというものなのだから、珍しいといって差し支えはないだろう。

いや、読書も好きなのだが、それよりも書くことが大好きなふたりなのである。

じゃあ、インドア・カップルかと言われればそうでもない、山や海など書く話のネタになりそうなものはとりあえず行って触ってみないと気が済まない。

それは経験することによって、文にリアルが生まれるという両者一致した考えを持っているからだ。

古くはツーカーの仲という訳だ。

なので、会話は必要最小限にとどめることが多い。

ふたりっきりの時は、長い会話は勿論するが、こと周りに人がいる社会生活では、極端にしない。

一見すれば、全く会話もないので不仲と勘違いされる事も多い。

実はこの誤解させるのが楽しくて、わざと無言ゲームをやっているみたいなところもある。

沈黙は金というが、実際のところは分からない。

寡黙を貫いても、結局、人は1人で生きられないのだから、損得勘定でいえば、人前で出来るだけ黙っている僕らは損をしているのかもしれない。

・・・だけど、それでいいのだと思う。


私たちは文を書く書きたいという共通の縁があって、結婚した。

普通の感覚の人からみて、私たちはどう思われるのだろう?

ちょっと知りたい気もするが、どうでもいいような気もする。

私や彼は読むことより、書くことに好奇心がそそられるタイプなのである。

こんなことを思ってると、お前は作家か何かかと言われそうだが、普通の兼業主婦である。

週4回のスーパーのパートへ出かけ、私の稼ぎは、ちょっとした贅沢な食事や旅行への資金に当てている。

なんでもない普通の日常、その中に潜むちょっとしたスパイスは文に欠かせないのだ。

頭の中で巡らせる物語は尽きることはない。

だけどいざ文にしてみると、思っていた半分のことも書くことが出来ない。

これが悔しいのだが、そんな苦しみを分かってくれる彼がいることは心強い。

じゃあ何で書くのと言われたら、それはそれで楽しいからという他ないのだろう。

お金にもならない、時間の無駄?たまにそんな思いにも襲われるのだが、よくよく考えてみれば、趣味だと捉えれば、これほど金のかからない趣味はないと断言出来る。


互いの作品に干渉することなどはしない。

だけど僕は彼女の作品は読むことにしている。

物語が出来上がると、データが送られてきたり、時には手書きの書類が渡されるからだ。

なので少なくとも俺は彼女の書いた作品は目を通している。

正直、作品に関して言いたいことはあるが、そもそもジャンルが違うし、偉そうなことを言うレベルでもないことは自分がよく知っている。

僕も同様に彼女に書いた作品は見せている。

あいつはどうなんだろうか、ひょっとしたら読んでないかもしれない。

まあ、ともに文を書いてるって事だけでいいんだろう。

安心するというか、心強いというか、それだけでいいと思う。


私は彼の作品を読んでいる。

・・・ざっと。

それは怖いかもしれないから。

彼の書く独特の文章、言い回しが実に参考になるからだ。

そう、薄目を開けて さらっと流し読みをする感じで、気になった文に目をとめ確認する。

本をしっかり読んでる人の文、そして個性的な文。

あの文は私に書けない。

そう言うのが悔しいので、私は彼にそっけない態度をとっている。

神様は時に残酷だ。

才能の差ってやつは、しようもないんだなと思ってしまう。

だけど文を書くのは本当に楽しい。

私は信じている。

いつか彼は文で身を立てるだろう。

願わくば、その隣で支えになってるのが、私であればと思う。

でも、その時、私は・・・。


・・・・・・。

・・・・・・。


あいつが去って1年が過ぎた。

僕は小説家になった。

彼女は何も言わず家を出て行った。

いや分かってる、分かっていたはずだ。

こんな互いの才能をぶつけ合うことをし続ければどうなるかなんて。

小説家ごっこを適当なところでやめておけば。

文より大事なことがあるだろう。

僕はそれを知ってたくせに。

僕は甘えていた。

情けない。

だけど・・・。

僕は彼女を思い、また文を書く。

あいつは何処かでまだ文を書いているだろうか。

僕よりずっと才能のある・・・あなた。

僕はその言葉を飲み込み、書き続ける。

 僕とあなた。

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