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38話 フィアラは返却された

 お母様が侯爵邸に引っ越してきた。

 引越し作業といっても、荷物がほとんどない。


「荷物はどうされたのですか? 捨てちゃったとか……?」

「いえ、これで全部よ」

「え!?」


 大きなカバンがふたつだけ。

 中身は見ていないが、おそらく服を入れるだけで満杯になってしまうだろう。


「もしかして、ずっと最低限の生活しかしてこなかったのですか……?」

「そんなことないわよ。ごはんはしっかり食べていたし、布団で寝ていたわ」

「でも、カバンふたつだけって……」

「そんなことないわよ。お母さんにとって、とっても大事なフィアラが一緒にいるんだもの」


 お母様がニコリと笑みを浮かべる。

 だが、私は素直に喜べなかった。


 おそらく、ギリギリの生活をしてきたのだろう。

 私が返したお金だけでは足りなかったのだろうか……。


「そうそう、フィアラから預かっていたものも、ちゃんともってきているからね」

「え? なにか貸していたのですか?」

「えぇ。こっちのカバンに全部入っているわよ。受け取ってちょうだい」

「は、はぁ」


 いったいなにが入っているのだろうか。

 私はカバンを受け取り、その場で中身を確認した。


 すると、中からは大量の金貨がでてきたのだ。


「これは……?」

「フィアラが送ってくれた金貨よ。でもね、これはあなたのものなの」


 それは違う。

 お母様が私をデジョレーン子爵家から救い出すために、大量の出費がかかってしまった。

 その分をお母様に返したお金である。


「親として当然のことをしただけなの。私にはフィアラを助けなければいけない責任があったのよ。このお金は受け取れないわ」

「え……でも」

「あなたが一生懸命頑張って手に入れたものは、自分で考えて私以外に対して使いなさい。これは、お母さんの命令よ」


 そう言われて半ば強引に返されてしまった。

 私が自由に使って良いと言われても、特に欲しいものもないからなぁ。


「うーん……」

「そんなに困らなくても良いと思うけど……。いざというときのために保管しておいてもバチは当たらないわよ」

「そうですねぇ……使いかたがわからなくて……」

「フィアラが後悔しない使いかたをしてほしいって思うの。たとえば、あなたの身近な誰かを助けたり幸せにしたり。もちろん、フィアラ自身が喜ぶために使うのも良いと思うわよ」


 お母様のアドバイスを聞いて、少しだけ閃いたことがあった。

 お母様は私に対してお金を使ってくれた。

 私も、誰かのために使ってみようかと思ったのだ。


「じゃあ……」

「良い顔しているわね」

「ちょっとジェガルトさんに相談してきます」

「いってらっしゃい」


 ジェガルトさんは王都のことをほぼなんでも知っている。

 彼ならば、私のやろうとしていることが良いのかどうかもジャッジしてくれることだろう。

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