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36話 フィアラは一緒にいられるようになった

 私にはお母様の外見の記憶がほとんどない。

 ただなんとなく、とても優しく居心地が良かったような気がする。

 私の小さいころの記憶はこれが限界だ。


 だが、それでも目の前に立っている人が私のお母様だとすぐに理解できた。


「会いに来てくださったのですね。ありがとうございます!」


 すぐにお母様のふところに抱きついた。

 お母様は私の腰回りを腕で包み込み、しばらく無言が続く。


「会いたかったんですよ……。ずっとお礼を言いたかった……」

「お礼なんて良いのよ。フィアラの活躍はジェガルト様から聞いていたのよ。手紙も返事ができなくてごめんなさい」

「読んでくださったのですね。ありがとうございます」

「何度も言うけれど、ごめんなさい。フィアラのことをずっと助けることができなくて……」


 お母様がそんなことを言うものだから、すぐに私は首を横になんども降った。


「ジェガルトさんから全て聞きましたよ。お母様が私をデジョレーン家から救いだしてくださったのでしょう? おかげで今の私はどれだけ幸せになれたことか……」

「何年もフィアラは苦しい思いをしてきたのでしょう。その辛かった時間はもう戻らない。でも、どうしてもデジョレーン家から安全に避難させるにはお金が必要だったのよ……」


 思い返してみれば、デジョレーン家で無理やり仕事を強要されていた時期は苦しい日々だった。

 なんども過労死するかもしれないとも思った。


 だが、毎日の家事を強要されていたからこそ自然に身につけた技能もある。


「お母様……、こうして会いに来てくださった。それだけで嬉しくて幸せです。それに、私のために巨額のお金まで用意してくださったことも知っています。なにからなにまで本当にありがとうございます」

「フィアラ……」


 もう一度、お母様とギュッと抱き合った。


 ♢


 今日はお母様は侯爵邸に泊まることになった。

 お母様を交えての夕食。


「どれも美味しいわ。私も、もっともっと料理を研究しないとダメね」

「フィアラ殿が使用人に丁寧に料理を教えてくれたのだよ。私もはじめて彼女の料理を食べたときは感動したものだ。特に、タマゴがゆは素晴らしい」

「あれはダイン様からのリクエストでしたね。最近はリクエストしてくれなくて……」

「あぁ。今のフィアラは極限にまで忙しい毎日になってしまっているからな。これ以上負担をかけるわけにはいかないだろう」


 それは誤解である。

 毎日お偉いさんたちとの対談をするようにはなった。

 だが、それでも毎日執事の仕事もしているし、ニワトリの世話もしっかりできている。

 料理のリクエストくらいだったらむしろ作りたいんだけどなぁ。

 食べて喜んでくれる姿を見れたら私も嬉しい。


「ふふ。ジェガルト様のおっしゃっていたとおりですね。フィアラがこんなに成長してくれていて、嬉しいです」

「私たちもフィアラ殿が来てくれたおかげで毎日も食事もより楽しみになっているのだよ。彼女だけでなく、リエル殿。そなたのおかげでもあると思っている」

「とんでもありません。私はなにも……」

「リエル殿の行動がなければフィアラ殿の今はなく、今もなおデジョレーン家にいたことだろう。そうなれば、おそらく裏組織の壊滅や今のこの屋敷の状況も大きく違っていた」


 私とお母様は二人揃って顔を真っ赤にしてそのまま固まった。

 私のことはあまり褒めないで欲しい。

 偶然なのだから。


「私のことはあまり褒めないでくださいね。すべてはフィアラが頑張ってくれたからですから」

「はっはっは、やはり親子だ。フィアラ殿のように謙虚さがまるで一緒だ。どうだろうか? そなたもこの屋敷に住んでみては?」

「よろしいのですか!?」

「むろん。フィアラ殿はこのとおり執事長として働いてもらっている。故に今後外出できる機会も少なくなってしまうだろう。常に親子一緒にいれる環境があればどうだろうかという提案……だ」


 侯爵様は一瞬言葉をにごしていた。

 普段会話が詰まることのない侯爵様がなぜそうなったのかは、なんとなく予想できた。

 今はなにも言わないでおこう。

 お母様とこれからはずっと一緒に過ごせるかもしれない。

 そのことだけで頭がいっぱいだったのだから。


「ありがとうございます! 精一杯働かさせていただきます」

「いや、使用人として雇っているわけではないのでね……」

「はい?」


 お母様は侯爵様の意図がわかっていないようだ。

 ダイン様は、このやりとりを見て、一瞬だけニヤリと微笑んでいた。


 ともあれ、私はお母様とも一緒にいられる環境になったのだった。


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