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32話 フィアラはまだまだ頑張れると思っているのに……

「あの……。異例ではあると思うのですが、ひとつ提案が……」

「言ってみたまえ」

「お父様にたくす書類は私が全て責任をもって処理してはいけませんか? 去年と内容が同じでしたら、覚えているので問題なく作業はできるかと思います」

「ほう……」


 表情が曇っていた侯爵様は、一瞬ニヤリと微笑んだしたような気がした。


「もちろん、任務にあたり資格などが必要でしたらすぐにでも」

「うーむ……。こればかりは国王陛下の承諾が必要になるから、私一人では決められぬ。だが、私が責任を持って許可を得られるよう最善を尽くそう。それだけフィアラ殿が知らず知らずにやっていた書類提出は完璧であったのだからな」

「もしも許可がでればの話ではありますが、もう一つ提案が。お父様が不正を働く証拠をつかめるかもしれません」

「ほう、申してみよ」


 こんなに侯爵様が私の話を聞いてくれるとは……。

 実のところ今思いついただけの案だから、言って良いのかどうかもわからない。

 でも、時間はないのだし、言うだけ言ってみよう。


「明らかに偽物の書類を作ったものを与えてみてはどうかなと。貴族界では知っている情報だけれど、それ以外の人には全くわからないような情報です」

「ふむ……」

「お父様が自身で作業すれば違和感に気がつくでしょう。でも、第三者が手をつければそのまま処理してしまうようなものであれば、こちら側としてもお父様が手を付けなかったことに気がつけるはずです」


 侯爵様が真剣な顔をして考えてくれている。

 ダイン様はそんな侯爵様を見て呆れながら頬を掻いていた。


「考える必要などないのでは? このまま万一にでも機密情報が民衆に漏れてしまえば、俺たちもただではすまないはずでしょう!」

「あぁ、確かにそうだ。それにこれは名案かもしれぬな。陛下にその旨も伝え、すぐにでも許可が降りるようにしておこう」

「ありがとうございます。任務が増えてもまだまだ余力はありますので、引き続き執事長としてのお仕事は今までどおりやっていきたいと思います」

「それはダメだ! 俺が許さん」

「え?」

「働きすぎだ、少し休め。それに、俺との時間も作ってくれなければ……こまる」


 ダイン様が顔を赤らめながら照れていた。

 むしろ私のほうが照れてしまう。

 しかも侯爵様の前で……。


「やれやれ……。見せつけおって。だが無理する必要はないぞ。フィアラ殿のおかげでコトネもミアも立派な使用人になってくれたのだから」

「ありがとうございます……」


 なんて優しいのだろうか。

 これなら、国務の仕事が与えられてもじっくりと集中することができる。


 そして翌日、国王陛下からあっさりと許可がでたようで、私のもとに重要な書類の山が到着した。

 さて、はじめますか。

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