30話【Sideボルブ視点】ベラが行方不明
ベラは俺のことを裏切った。
「なんということだ……」
断りもせずに勝手に帰りやがった。
せめて、『お先に失礼します』くらい主人の俺に言ってから帰宅しろと思う。
まぁ、書類はしっかりとまとめてくれているから、とやかく文句を言うつもりはない。
ベラは仕事に関しては良くやってくれたのだから。
しかも丁寧に書類をまとめ、さらに侯爵に提出しやすいようにしっかりと梱包までしてくれているのだ。
こんなことはフィアラですらやらなかったことである。
やはりベラを雇ったのは正解だったようだ。
事態は素晴らしい好機である。
このことをすぐにマルレットとミミに報告した。
「……と、いうわけだ。このまま侯爵からの信頼も取り戻せれば、俺の処遇や給金も元どおり。邪魔だったフィアラもいなくなり家族揃って真のスローライフをおくれるのだ」
俺は自信満々で話した。
「なーんか変な感じのおじさんだったけど……」
「ミミちゃん。人を見た目で判断してはいけませんよ! ボルブ様が初めて使用人に対して満足しているのですから。ベラさんは、今後もキッチリとこの家で働いてもらわないと。それに比べて……また雇った民間人の使用人たちは仕事が遅すぎですわ」
「でも、あの人こわいです」
今までのミミは使用人に対して遊び相手として積極的に誘っていたはずだが……。
どうやらミミはベラのことを避けているようだ。
「はっはっは、ミミよ。見た目で判断するんじゃないよ。いずれ慣れる。ベラは我が家の救世主として活躍してもらうのだからな」
「うーん……。じゃあ私は他の使用人と遊びます」
「ミミはまだまだお子様だな。ベラの仕事っぷりと気遣いの素晴らしさにいずれおまえも気がつくようになるように」
「え……無理な気がします」
ミミがなぜベラのことを警戒するのかが理解できない。
仕方がないか……。
明日はベラとミミが仲良くなれるようなにか考えねばな。
だが翌朝、信じられないできごとが起きてしまった。
「ベラはまだ来ないか……。もう三時間も遅刻しているのだが」
どうも嫌な予感がする。
よく考えてみれば、昨日の作業の終わった時間があまりにも早すぎた。
「まさか……、無理のしすぎで体調でも崩してしまったのでは……」
ベラに関しては仕事をしっかりとやってくれた。
俺はこのあと王宮に書類を提出しなければならないのだが、先にベラの家に行って様子を見ておくことにしたのだ。
しっかりと住んでいる場所を昨日の段階で確認しておいて良かった。
♢
「な……!? どういうことだ? おい、ここにベラという者が住んでいるはずだが」
「なにを言ってるのですか? ここは大人のお店ですよ」
「ベラが住み込みで通っているのか?」
「いえいえ、そんなお客さんはいませんよ。ところで、良い子が揃ってますが」
「後日来よう……」
良さそうな店を発見できたが、そんなことは今はどうでもいい。
ベラが住んでいる場所はここであっているはず。
「あいつ……自分の住んでいる場所を間違えて記載したのか……」
こうなっては仕方がない。
ベラの居場所もわからないから、彼が元気になって出勤してきたときに改めて住んでいる場所を教えてもらうか。
ひとまず王宮へ向かうことにしよう。
♢
「ボルブ子爵よ、今回は期日までに間に合わせたようだな」
ガルディック侯爵はいつも偉そうに……。
俺は完璧であろう書類を侯爵に手渡した。
侯爵は中身をすぐに確認したのだが、一枚目の書類を見た瞬間、俺のことを睨んできたのだ。
どういうことだ……?
一枚目は俺も確認したはずだが。




