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22話 フィアラは幸せをつかんでみたい

「フィアラが執事長になってしまったら、俺とおまえは完全に主従関係で終わってしまう……。だから俺は家を出ていこうかと思っている」

「どういうことですか? 私にはさっぱり意味がわからなくて……」

「俺はフィアラのことを好きでたまらないんだ」

「はひ!?」


 ダイン様がとんでもないことを言いだした。

 私は気絶してしまいそうな勢いだったが、なんとか意識を保つ。


「フィアラが一生懸命なところ、美味いごはんを作ること、いつも楽しそうなところを見ていたら……」

「…………」


 どうしよう。

 私はなにも言えずそのまま身体をダイン様に預けるように寄り掛かった。

 私もダイン様のことは好きだから、嬉しくて死にそうだ。


「俺はフィアラと恋人同士になりたかったんだよ」

「こここここいびとーーー◯#%£$+!?」


 さらなる追撃発言!

 私は今まで誰かに好きだとかそうようなことを言われた経験がない。

 しかも、気になっていたお相手にそんなことを言われてしまったのだ。

 しかもギュッとされながら……。


 かつて経験したことのないテンパリ具合で、自分でもなにを言っているのかわからないくらいのパニックになっていた。


「だが俺は身を引くしかないだろう。侯爵家の執事長ともなれば、国からの注目も浴びるだろう。せっかくのチャンスを止めてまで俺が拘束するようなことはしたくないからな。気持ちだけ伝えたかった」

「え……?」


 侯爵邸に来てから、私はものすごく優遇されているため、言われたことはなんでも従ってきた。

 仕事以外でのわがままは言うこともなく。

 それは子爵邸にいたときも同じだった。


 だが、生まれて初めて私自身の気持ちが溢れ出るように、『こうしたい、こうでありたい』という気持ちが強く出てしまった。


「侯爵様に気持ちをお伝えしたいです。私は、この屋敷でずっと働きたいですが、ダイン様ともずっと一緒にいたい……」

「余計なことをして父上の機嫌を損ねては、せっかくのチャンスを捨ててしまうかもしれないのだぞ。王族の執事長がどれだけ名誉なことか知らないのか?」


「聞くだけで叱責するようなお方ではないと思いますが……」

「俺の婚約相手のことになると、父上は人が変わるのだよ。父上が提案してきた縁談を何度も断ってきたからな……」


 ダイン様は自由気ままな生き方をしていて、貴族界からはあまり良くは思われていないらしい。

 だが、むしろ私はダイン様のことを尊敬している。

 好きなように生きていくスタイルは、今まで拘束しかされてこなかった私にとっては雲の上の人というようなイメージがあった。

 きっと、自由に生きたいから婚約相手もずっと断っていたのかもしれない。

 だとしたら侯爵様が厳しくなってしまうのも無理はないだろう。


 それでも、このままなにもしなかったらダイン様との関係はこれで終わってしまう。


「私はこの侯爵邸で大変お世話になってきました。執事長として任命され大変光栄であります。だからこそ、気持ちはしっかりと話したうえで最善の方法を考えたいと思います」

「だが……」


 いや、今回は私は意見を曲げるつもりはない。

 今の会話のやり取りで、どうやら知識万能のダイン様でも知らないことがあるようだ。

 休み時間を使ってもしものことを考えて調べていたことがあったのだ。


「私、ダイン様と一緒にいたいです! もちろん、このままダイン様は侯爵邸にいる状態で」


 初めて私からワガママを言った。


 ダイン様は迷っているようだが、そんな必要はないと思う。

 そのことを伝えようとしたタイミングで、侯爵様が部屋に入ってきた。

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