ホワイトデー:彼氏とわたしとブルマとオランジェット
「ホワイトデーの買い出し行ってくる!」
そう言って、彼氏は勇ましく出かけていった。タブレットを置いて。
ならばやることはまず、画像フォルダのチェックだろう。猫画像が貯め込まれていることは知っている。
わたしは彼氏のタブレットのロックを解除した。
『ブルマだらけの60分』
ひと通り猫画像を堪能したわたしが目をやった先。本棚の中の本に擬態するようにして、それはあった。
ブルマ体操着姿で、お尻を強調したポーズの女の子がパッケージ。ただし、顔が見切れて写ってない。
タイトルもさることながら、そんなにもブルマに焦点が当てられるものなのか。というか、いかにしてもたせるというのだ、ブルマで。60分も。
まあ、たしかめてみればいいか。
わたしはためらいなく彼氏のゲーム機を起動し、DVDをつっこんだ。
結論から言おう。
――大作だった。
タイトルとパッケージに騙された。いい意味で。60分なんてあっという間だった。
これは文化史に残すべきブルマ映像資料だ。学術的価値がある。
いやしかし、このパッケージだからこそ「ブルマなんて……」という心無い偏見の目と殲滅から逃れ得たのではないか。そう考えるとなかなかジレンマである。
「ただい――まああぁあっ!?」
ドアを開けて2秒の彼氏。手に提げた洋菓子店のおしゃれな紙袋を放り投げ、価値あるブルマが映るテレビに貼り付いた。全身をこれでもかと使って。
わたしは、ちょうど胸に飛んできた紙袋をキャッチして封を開ける。お、オランジェットスティック。いい趣味じゃないか。
「見、みみみ、みみ」
「み」しか言わない彼氏を見ずに、わたしはオランジェットを頬張る。ほろ甘く苦く、そこに絡むチョコレートのまろやかな甘みがまたたまらない。ナイスチョイス、我が彼氏。
「見たよー。アカデミックなブルマだった」
「え、じゃあ穿いてくれるの?」
一気に目を輝かせる彼氏。水を得た魚みたいに。
「はっ。ばーか」
わたしは鼻で笑って、彼氏の口にオランジェットを突っ込んだ。
甘酸っぱさもほろ苦さも色気もない。
そんな、わたしと彼氏のホワイトデー。




