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71話:間章 魔王の憂鬱

お久し振りです。

とりあえず再開までの場繋ぎに1本。

  ◇◆◇◆◇



「くそっ、なんだってんだ!」


 俺は苛立ち紛れに、手に持った銀の酒盃(ゴブレット)を床に叩きつけた。

 酒盃は叩きつけられた衝撃で潰れ、(ひしゃ)げ、ぺしゃんこになって床に張り付く。

 磨き上げられた大理石の床は、その衝撃に耐え切れず小さなクレーターを作ることになった。

 俺の持つギフトの一つ、豪腕の効果だ。


「陛下、なにがお気に召さないのでしょう?」

「何もかもだ!」


 近くに控える部下に声を荒げて応える。

 そう、部下……この世界に来て早二年。俺には数多の部下が出来ていた。

 異世界に降り立った俺は、夢と希望に(あふ)れていた。

 剣と魔法、モンスターとドラゴン、そしてエルフやドワーフといった亜人たち。

 それらに対抗するためのギフトと呼ばれる力も、複数持っていた。

 敵を打ち倒す為の豪腕、あらゆる攻撃に耐える完全耐久、魔術を使用する為の魔術師の才能の三つを持っていた。

 この力で俺はこの世界で活躍し、金髪エルフや銀髪幼女の奴隷を買って、『ご主人様すごいです!』と褒め称えられたりしつつ、ハーレムを築くつもりだった。


「それがなんだ? この世界に降りたったら、真っ先に襲い掛かってきたのはモンスター。救うべきヒロインすら居やしねぇ」


 別にモンスターが恐ろしかったわけじゃない。

 実際、連中の攻撃は俺の完全耐久を破ることもできず、豪腕で叩き伏せられたしな。

 襲い掛かるモンスターを薙ぎ払い、ぶちのめし、気が付けばモンスターたちに逆に崇めたてられ――


「いまや魔王様だぜ?」

「はい、我が君。この世で最強の存在にございます」

「それが気にいらねーんだよ」


 ヒロインどころじゃねぇ。そばにいるのは人の形すらしてやがらねぇ。

 強いて言えば、下半身が蛇のラミアや、イカのスキュラくらいか。


「おい、せめて吸血鬼の美少女とか、サキュバスのお姉さんとか居ないの?」

「側女をご希望でございますか? 吸血鬼共は独立独歩の気風でして、我らが陣営には加わっておりません。サキュバスもまた同じく。申し訳ございません」

「猫耳や犬耳の女は居ないのかよ?」

「獣人族は人の領域にのみ存在します。コボルドやライカンスロープならおりますが」

「そいつら、全身獣になっちまうだろ!」


 さすがにそのレベルまで獣臭くなっちまうと、萌えねぇんだよな。


「ゴーストなら数名、候補がございますが」

「触れねーじゃねぇか!」


 全身骸骨の側近に色っぺー話を聞いた俺が馬鹿だったのか。


「妖精族の里でも襲いますか?」

「それじゃ悪役だろ」

「魔王ですから」

「それもそうか。じゃねぇよ!」


 里を襲って無理矢理攫った奴に褒め称えられたりするかよ!

 こいつら弱肉強食の掟に染まりすぎて、こっちのハーレムの機微ってモンをわかっちゃいないな。


「確かに陛下は定命の身。精力旺盛な今のうちに世継ぎの問題を考えられるのは、誠に道理かと思います」

「んなことなら不老不死でも要求に入れときゃよかったぜ」

「ですが問題ございません。世継ぎを作るのに不満がございますなら、陛下が不老不死になればよろしいかと」

「そんなことできんのか?」

「世界樹の若芽を食せば可能との逸話が残っております」


 ほう? 後付けで不老不死が手に入んのかよ。そりゃ良いこと聞いたぜ。


「世界樹ってのは、あの馬鹿でかい樹だよな?」


 このモンスター蔓延(はびこ)る国の南に見える、天にも届く巨大な樹影。

 あれの芽を食えば、俺も不老不死か。


「世界樹の新芽は数百年に一度しか生えぬ貴重な物。私の計算では折りよく五年の後に、その芽が誕生すると出ております」

「なら早速軍を向けて――」

「それが、新芽を手に入れるにはあの木の頂上まで登らねばなりませぬ。ガルーダもハーピーも、ロックですら届かぬ高みでございます」


 ガルーダもハーピーもいわゆる鳥人って奴だ。ロックは全長数十メートルを超える巨鳥のモンスター。

 いずれも飛ぶことに関しちゃスペシャリストなんだが、まあ……見える範囲からして、空気のある高さを越えてやがるし、あの大樹。


「故に幹の内部に作られた迷宮を越えて、樹を登らねばなりませぬ」

「なんで樹の幹に迷宮が作られてんだよ」

「この世界、魔力を秘めた物はその身を守るために迷宮を築くと言われております。正確な所は不明ですが」

「防衛機構の一種って訳か」

「かつて千人の勇者を引き連れた英雄がこれを制覇したと伝えられておりますが、これに対し世界樹は防御を強め、樹の幹に入れるのは小数規模のみとなっているそうです」

「ち、余計なことしてくれたな」


 少数規模か、モンスターの大群で押し寄せる手は使えなくなったな。

 まあ、俺の豪腕の前じゃ、障害なんて無いも同然だが。


「更にその麓の人の国が迷宮の出入りを厳しく制限しており、我らの軍で押し寄せるのは不可能かと」

「鬱陶しいな、その国叩き潰してやるか?」

「陛下の力ならば可能でしょうが、いかんせん大陸中央の要の国。奴らの力が衰えたとなると、(さか)しげに周辺国が纏わり付いて来るでしょう」

「それも面倒だな。仕方ねぇ、連中の流儀に合わせてやるか」


 別に戦乱を起こしたいわけじゃないしな。不老不死さえ手に入れば、そのうち金髪エルフや銀髪幼女を奴隷に買う機会も訪れるだろう。

 あー、猫耳獣人でもいいよなぁ。


「少数で行きゃいいんだろ。何人までだ?」

「六名とされています。ですが管理しているのが人の国ゆえ、人の姿を取れる者でないと問題が起きましょう」

「メンドクセェ。ライカンスロープの腕利きと、人に変身できる魔術の使える奴を選び出しておいてくれ。五人な」

「五人……では、陛下自ら?」

「俺が行かねぇで、誰が行くんだよ」

「かしこまりました」



  ◇◆◇◆◇



「へっくち!」


 突然襲ってきた寒気に、思わずくしゃみをしてしまいます。

 目の前にはわたしの唾液に塗れたハスタールの顔。


「あ、ごめんなさい」

「いや、口付けの最中にくしゃみとはな。ひょっとして俺は下手なのか?」

「とんでもない。わたしはメロメロですよ? 思わず背筋がゾクゾクしてしまったので、つい」

「ならいいんだが」


 やり直すように、彼の首に手を回し顔を寄せます。

 そこでふと自分の格好に疑問を持ちました。


「ハスタール、この首輪外しちゃダメですか?」

「外したいか? ユーリは俺の物って証のつもりだったんだが」

「ほんとにもう、そんな事しなくても。でも、それならいいです」


 見掛けが奴隷のようでちょっとだけイヤですけど、彼の奴隷というならそれはそれで。ちょっと歪んでますけど、愛情の証ですしね。


ハ○ソン婦人に他意はありません。むしろ大好きですw

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― 新着の感想 ―
[一言] こいつ悪者になりたくない、心からのチヤホヤが欲しいって感覚はあったのか。それで後がアレだったのかいな
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