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70話:3章 彼女の理由

予約投稿です。

中途半端なところですが、これにて第3章完結となります。

 さて翌日です。

 レヴィさんはわたしが身元引受人となることで、無事釈放されました。


「むぅ、捕らえられた怪盗とかって、エロイ感じの調教に遭って、目が死んでるというのが基本なのですのに」

「どこの基本やねん!?」

「わたしの故郷の二次元な感じのドリームなノベルで」

「怖っ!? ユーリちゃん故郷怖っ!!」


 まあ、創作の中の話ですけど、教えてあげる必要はないでしょう。

 今部屋に居るのは、わたしと彼女以外はハスタールとイーグのみです。

 フォレストベアの連中は昨夜早速打ち上げを開いて、今も酔い潰れています。

 それに、『彼女の話』が部外者に聞かせたい話なのかどうかは、わたしでは判断付きませんし。


「それはともかくとして、わたしはまず、やらねばならないことがあるのです」

「やらねばならないこと?」

「そう。ところでどう呼べばいいんですかね? レヴィさん? リヴァイアサン?」

「レヴィでええよ。リヴァイアサンの別の呼び方がレヴィアタンって言うてな。そこから愛称でレヴィって名乗っててん」


 おや、その呼び方は……確か向こうでもあったような?

 まあ、それはさておき、先にやることやっちゃいましょう。


「ではレヴィさん。はいこれ」


 机の上においていた、ペンチのようなハサミを彼女に渡します。


「ま、まさか……拷問、とか?」

「どうしてそうなるんですか、爪を切れと言っているのです!」


 渡したのはこの世界の爪切りです、拷問用のペンチでは有りません。

 わたしは痛いのは、見るのもされるのも嫌です。

 まあ、少しだけ痛い目は見ると思いますが。


「えーと……なんでや?」

「あなたを野放しにはできないでしょう。わたしはあなたの後見人なのですから、居場所把握しないといけないのです」

「それと爪切りがどう繋がるん?」

「あなたは魔術の神才持ちでしょう? ならその爪はそれなりの魔術素材になるはずです。爪を削って粉を塗料に混ぜて、発信の魔法陣を刻ませてもらいます」

「うえぇ、刺青するのん? 痛いんは苦手やねんけどなぁ」

「わたしも苦手ですよ。痛覚遮断は掛けてあげますから、これくらいは受け入れなさい」


 他者からの認識を妨害する彼女は、その気になればいくらでも人込みに紛れることができます。

 しかも魔術の神才があるため、生半可な魔道具では解除されてしまうでしょう。ならば、彼女の身体の見えない部分に、刺青として刻むしか有りません。

 しかし、肌に刻んだ術では効果が薄いと言うことは、ハスタールの話で聞いています。

 なので彼女の爪を増幅剤代わりに溶かし込んだ塗料を使い、刺青で魔法陣を刻むという手段を考案しました。

 本当はハスタールかわたしかイーグの爪を使用した方がいいのでしょうが、他者の細胞を皮下に打ち込むと、皮膚が腐ると言う話を聞いたことがあるので。


「は、初めてなの、優しくしてや」

「ダマレ、それはわたしのトラウマです」


 この小娘はイヂメるのです。確定しました。わたしの初めてなんて、お風呂場でしたよ。

 切り落とした爪を削って塗料に溶かし、首の後ろに魔法陣を書き込んでから、痛覚遮断を掛け、浅く焼きこみます。


「しばらくは痛いと思いますが、その時は痛覚遮断を自分で掛けてください。術式は知っていますか?」

「医療系はあんまり経験無くて」

「では教えます」

「おおきにな」


 とにかく、これで彼女の居場所はわたしに筒抜けになります。今後悪事を働けなくなるでしょう。

 火傷跡に雑菌が入らないように、包帯を巻きながら術式の説明をしておきます。

 女性の肌に傷を入れるのは本意では無いのですが、致し方ありません。それにこのくらいならしばらくすれば綺麗に治癒させることができます。

 もっとも患部を見れない彼女には難しいでしょうが。


「キチンと更生したと判断したら、消してあげます」

「お、消してくれるん? やった、私、真面目人間になるで!」

「その判断は今後次第です。ちなみに悪事を働いたら、オークの体液漬けにして奴隷商行きです。さぞかし素晴らしい体験が出来るでしょう」

「外道かっ!?」

「わたしのした経験に比べれば、可愛い物です」


 容赦なく死にましたからね。何度も。


「うそやん!?」

「さて次の話題です。あなた、盗む気なんて無かったでしょう?」

「あ、わかった?」


 当然です。日にちを間違う、家を間違うとかはともかく……いや、それもありえない話ではありますが。

 二件目の、間違って盗んだ猫の像を返すとか、普通ならありえません。


「まあ、この街は色々と無防備やったからね。本来の目的も兼ねて、警告的にね」

「本来の目的、とは?」

「ユーリちゃんとお友達になりたかってん」


 ポッと頬を染めて身を(よじ)る彼女。

 気持ち悪いからやめなさい。


「イーグ、噛んでいいですよ」

「アギャー!」

「いたたた! 冗談! 冗談やから!」

「まあ、ユーリをからかいたくなる気持ちは痛いほど良くわかるが、ここまで来て隠し事もあるまい?」

「どういう意味ですか? ハスタール」

「ユーリは可愛いなぁ」

「ひゃわあぁぁぁ!?」


 わたしの頭を抱え、グリグリと頬擦りする彼。やめてください、髪が! グチャグチャになります!

 ついでに腰を押し付けないでくださいよ。見られてます。


「あうぅ、涎でベトベトやん。いや本当言うと、そう的外れでもないねんで?」

「って、本気でわたしと友達になりたかっただけなんですか?」

「正確に言うとお近付きになりたかった程度。頼み事があってなぁ」

「それでアレだけの騒ぎ起こしたというのですか……」

「ある筋の情報で、『信頼できる友人になるには、ライバルから入った方がより深い友になれる』と聞いてなぁ」


 わたしのライバルになるためだけで、怪盗騒ぎを起こしたのですか?

 アホですね、この子。


「キミは魔術の神才持ちだろう。普通に魔術師としてユーリの前に出れば、それだけでライバルに成っただろうに」

「だって、ユーリちゃんの魔力、アホみたいになってるんやもん」

「ああ、それは同意だ」

「同意しないでください!?」


 ハスタールまでなんてこと言うですか! わたしは普通ですよ、普通。

 ちょっと一般人の百八十倍くらいの魔力と精神力があって、十歳児より下の身体能力なだけで!

 ……肉体が成長しないから、身体能力も伸びないでやんの。


「一体何をどうやったら、そんなトンデモないことになるん?」

「色々あったんですよ、イロイロ。追体験したいと言うなら止めませんよ?」

「え、遠慮しておきマス」


 まあ、復活再生のギフトが無いと、こんな風にはなりませんけどね。

 彼女はその辺のギフトを持っていないので、初日に死んでオシマイでしょう。


「それで、頼み事とは何かな?」

「あー、うーん……まあ、もうええかな?」


 なにか思い悩むように首を傾げてます。『もう』とはどういう事でしょう? 時間的な制限がある?


「実はな、世界樹の迷宮に挑戦して欲しいねん」

「はい?」


 世界樹の迷宮? ハスタールが挑もうとしてた、あれですか?


「世界樹の内部に迷宮があるのは知ってるやろ?」

「それはもちろん。俺も挑もうと思ってたくらいだが」

「おお、ないすタイミングや! さすが私」

「もう必要無くなったがな」

「しょぼーん……」


 あからさまに肩を落とす彼女。リアクション大きい子ですね。


「まあ、それは置いといて」

「人の都合を置いておくな」

「世界樹の天辺の新芽な。あれ実は行けば必ずあるって言うもんじゃ無くて、数百年に一度だけ芽吹くもんやねん」

「よく知ってるな?」

「それはある筋の情報源やから」


 何度も出てきますが、彼女はその『ある筋』とやらの情報を、かなり信頼してるようですね。

 確度の高い情報源なら、わたしも欲しいです。


「そのある筋っていうのはなんです?」

「それは、さすがに勘弁したって? 私にも一応義理ってものがあるねん」

「むぅ、まあその『ある筋』が犯罪に関わっていないなら、まあいいでしょう」

「ありがとな。で、その新芽は数百年に一度一年間だけ芽を出して、その後は一気に成長して枝になるねん。だから狙うとしたら、その一年なんや」

「で、今年がその一年に当たると?」

「いや、それは確か……五年後やね」

「えらく先の話だな」


 五年も先なら、こんなに慌てて接触しなくても良かったでしょうに。

 おかげで犯罪者じゃないですか。


「そうも言ってられへん。五年といっても千層の迷宮やで? 一年で二百層もクリアせなあかん。もう遅いくらいや」

「すでにクリアされた層だってあるだろう。確か……二百近くは行っていたはずだ」

「それでも二割。残りだけでも二日に一層のペースや。到底じゃないけど間に合わへん」

「それでわたしたちを仲間に引きずり込もうとしたわけですか?」

「冒険者でなく現在フリーで、腕が立つ魔術師と言う意味では、賢者の称号を持つユーリはうって付けだな」

「いい迷惑ですよ」

「まあ、それだけやあらへんけどね」


 なんでしょう? 彼女の言葉の端々にどうも、なにか引っ掛かりが……


「それで、あなたの真の目的はその新芽、ですか?」

「んー、ちょっとちゃうかな?」

「新芽を口にして不老不死を手に入れるのが目的じゃないんですか?」

「要らへん要らへん。不老不死なんて寂しいもんやで?」


 どこか遠い目をして語る彼女。

 ドジで人懐っこいくせに、時折こういう、何かを超越したような目をしますね。


「知っているんですか?」

「なにを?」

「不老不死の孤独感を、です」

「私は知らへんなぁ」


 再び首を傾げる彼女。話したくないというより、どう説明したものかという感じで悩んでるようです。


「不老不死が目的じゃないなら、売るのが目的ですか?」

「値段なんて付けられへんやん。それに持ってるだけで命狙われるような物騒なモン、コレクションしたないて」

「じゃあ、何が目的なんです?」

「正確に言うと私が欲しいと言うより、渡したくない相手がおると言った方がええかな?」

「渡したくない相手?」

「せや、魔王や」


 彼女はそう言って、大きく胸を張りました。

 はぁ? 魔王ですと?


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