たまたま雑魚だった
※今回、前話と被るためストーリーがあまり進行しません。
その分、次話でテンポアップしますので、宜しくお願いいたします。
城壁の上から見ていて、大概の者は呆れていた。
まず、町の中の確認すら出来ていないのに、迂回して村の前に姿を現したこと。
もし町の中に兵士が潜んでいたら挟み打ちになると思わなかったのか。
「き、来たぞ! バリスタを準備しろ!」
村人達は騎士団が進軍してきたと焦っているが、国王や宰相、子爵、ディーといった戦の経験者達は呆れてモノも言えないといった様子である。
「おい、ぞろぞろ歩いてくるではないか」
国王がそんなことを呟き、パナメラが溜め息を吐く。
「煮るなり焼くなり、といったところですね。死なない程度に燃やしますか?」
肩を竦めてとんでもないことを言うパナメラだが、周りも特に反論しない。
とはいえ、そんな対応をして良い相手かまだ分からない。無断で領土侵犯した段階で敵対行動なのは間違いないが、もしかしたら物凄く馬鹿なだけで、実はイェリネッタ王国からの使者なだけなのかもしれないのだ。
「とりあえず、用件だけでも聞いてみようかな。何故、あんな中途半端な数で国境を越えてきたのかも気になるし」
そう口にすると、周りは口を噤んだ。どうやら、領主である僕の意見を尊重してくれるらしい。
「よし、じゃあティル、カムシン。対空兵器準備!」
「ヴァン様。バリスタタイプで良いですか?」
「うん。結局、カタパルトタイプは安定してないからね。とりあえず、バリスタタイプを全部準備しよう。発射準備を整えておいて」
「はい!」
僕が指示を出すと、二人は素早く準備に走った。
ワイバーンはまだ攻めてくるつもりはないらしい。だが、あの騎士団は武器を抜き、盾を構えて前進してくる。
「判断が難しいなぁ。四元素魔術ならもう攻撃出来る距離ですか? パナメラ子爵」
そう尋ねると、パナメラは唸る。
「届くには届くが、詠唱して発動から着弾まで、それなりに時間が掛かる。人間同士の場合、それだけの時間があると対処されてしまうからな。長距離になると使える回数も限られる。まぁ、せいぜい百メートル内くらいの方が実際の戦では効果的だろう」
「うむ。戦の場合、敵にも四元素魔術師がいると仮定するからな。無駄な魔力の消費を避けるためにも、魔術の使いどころが問われるのだ」
パナメラの言葉に国王が補足説明を加える。
ほほう。では、あのアホみたいな前進も無謀な行いとは言えないということか?
そう思っていると、アペルタが深く息を吐いた。
「まぁ、あれは阿呆ですが」
「うむ」
「指揮官を殺したくなりますね」
アペルタの一言に、ほかの二人もあんまりな回答をくれた。
まぁ、そうだろうね。
「と、そんなこと言ってる間にかなり接近してきましたね」
僕はそう言って、大きく息を吸う。
「ここはヴァン男爵領の領地、セアト村でーす! そちらの所属を教えてくださーい!」
試しに、そんなことを告げてみた。すると、パナメラが横で吹き出す。
「相変わらず、緊張感のない……見ろ、あいつらまで笑ってるではないか」
笑いながらそう言われ、僕は笑う敵騎士団を見下ろす。うむ、敵に違いない。無礼な奴らめ。処刑にしてくれるわ。
そう思っていると、相手からの返答があった。
「我々はこの村の調査に来た! この村はこのような城壁は無かった筈だが、何故こんな城塞都市になっている!?」
むむ、濁してきたな。こっちは所属を聞いたんだぞ。
「まぁ、十中八九イェリネッタ王国の何処かの貴族の騎士団だろう。ワイバーンを連れての国境越えは気になるが、あれだけ阿呆であれば何も考えていないだけかもしれぬ」
国王が代わりに推測する。
それを参考に適当に答えつつカマをかけてみると、あっさりとイェリネッタ王国の者だと白状した。
中々やりやすい相手で嬉しい。
思わず調子に乗ってしまうと、相手が怒り出した。だが、内容はあまりに稚拙である。
「ば、馬鹿だ! 馬鹿がいるぞ! わっははは! こんな相手ばかりなら戦も楽なのだがなぁ!」
「まったくその通りですな」
国王達まで指を指して笑い出した。気持ちは分かるが、あまり刺激し過ぎないでほしい。
そう思って適当にやり取りをしたが、相手は怒りに燃え盛るばかりである。
「ワイバーンは上空から攻めることが出来るのだぞ!?」
そんな怒鳴り声まで聞こえてきた。
ワイバーンはブレスは吐かない。だが、突撃されれば十分脅威となる。
「準備は?」
声を掛けると、ティルとカムシンはそれぞれ対空用バリスタの準備を終えつつあった。
大型かつ、中心に砲身のような筒がある特殊な形である。左右に細長い穴があり、その穴をレールのように弦が通る仕組みだ。
そして、弾は樽である。弦に触れる底の部分は堅いウッドブロックだが、その他はわざと壊れやすくしている。
打ち出される際に砲身の先に付けられた段差で、樽は壊れながら射出される。そして、空中で手裏剣は高速でばら撒かれるのだ。
これならば、空を自由に動ける魔獣の類であっても回避は難しいはずだ。
そう思い、試してみた。
迫り来るワイバーンに向かって角度を調整させる。
「よし、カムシン! 射て!」
「はっ!」
まずは一発。そう思い、カムシンに指示を出す。
カムシンがバリスタを作動させ、樽は予定通り壊れながら射出された。
黒い大量の手裏剣は、一気に空にばら撒かれる。バリスタは元より一発限りのつもりで作っているため、威力に極振りの仕様である。
高速で撃ち出された手裏剣の雨に、これまた高速飛行中のワイバーンが迫り、衝突した。
結果は予定通り。見るも無残な形でのワイバーンの墜落だ。
と、その時、とあることを考慮していなかったことに気が付いた。
「あ、墜落する先を考えてなかった」
呟いた瞬間、高度を落としていくワイバーンが僕の眼前から姿を消し、少し下の城壁部分に衝突する。轟音が鳴り響き、同時に足元がグラグラと地震のように揺れた。
「……壊れなかった? 危なかったね。ワイバーンより大きなドラゴンだと城壁が壊れてたかも」
苦笑しつつそう言うと、国王達は目を瞬かせて墜落したワイバーンを覗き込んでいた。
「……あのワイバーンの体を、穴だらけに……」
「……馬鹿げた威力でしたな。あれを防衛以外に持ち出した場合、四元素魔術に匹敵する脅威となるでしょう。これが作成にどれだけの時間を要するかによっては……」
二人は深刻そうな顔で対空用バリスタについて話しているが、地上はそれどころではない。
角度によってはワイバーンをすら貫通する威力の手裏剣が、本当に雨のように地上に降り注いだのだ。
村の外は阿鼻叫喚の地獄絵図である。
「よし、直接会話しようかな」
僕はそう言って、事実上壊滅状態に見える敵騎士団の様子を見た。
「武装を解除してからの方が良いぞ?」
「大丈夫ですよ、陛下。僕には優秀な部下達が付いてますから」
心配する国王にそう答えると、ディーやエスパーダ達が僕の前に立った。
城壁から降りて橋を下ろし、門を開けさせる。
いつでも動けるように、部下達が素早く配置についた。だが、何となく厳重に守られながら出ていくのも恥ずかしいので、左右に分かれてもらう。
「さぁ、事情聴取といこう。素直に全て白状してくれると良いけど」
笑いながら、そう呟き、呆然とした顔で散らばった手裏剣を手にする男を見た。
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