見学会
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城壁やバリスタに始まり、ドラゴンの首を一刀両断したディーの話を聞き、剣についても聞かれる。
それらに答えていくと、今度は家を見てみたいと言われ、村人に謝りながら住宅展示場さながらの見学会を行った。
「壁や屋根は何で出来ている?」
「木を加工したものです。特殊なものなので、セアト村にしかありません」
「耐久性、耐水性は?」
「錆びない鉄と思ってもらって差し支えないかと」
「……この家具は普通の木か」
「基本は村人達の手作りですね」
「では、この堀は?」
「皆で頑張りました。執事のエスパーダが堀や川、城壁の基礎を担当してくれました」
「……ちなみに、何年でこれだけの堀や城壁を作り上げたのだ?」
「五カ月……いや、実質四カ月ですかね?」
一つずつ質問に答えていくと、ついにディーノ王は立ち止まり、片手で頭を抱えた。
「……理解出来たか?」
「まったく理解出来ませんでしたとも。こうなったらやってみせてもらうのが一番では?」
二人の会話に、僕はエスパーダと顔を見合わせて口を開く。
「何処か作るところあったかな?」
「前々から話されていた裏の湖はいかがですか?」
「うん、そうしようかな」
簡単な会議を終え、ディーノ王達を振り返る。
「では、裏の湖に行きましょう」
「湖。先程上から見えたな。あそこは景色が良さそうだ」
と、湖にも興味を持つ国王。
村の中を突っ切り、裏門から湖に行くことにした。
橋を下ろしてもらい、門が開かれる。すると、そこには美しい湖と、水辺に建てられた船小屋や納屋付きの牧場ののどかな風景が広がっていた。
そして、船小屋横にある休憩所の東屋には老人が集まって茶を飲んでいる。
その景色を眺めていると、後ろから驚愕する気配が伝わってきた。
「こ、これは……!?」
「まさか……!」
ディーノ王だけでなく、全員が動揺している。
そう、湖の水辺には大人のアプカルル達が五十人から六十人。湖の中心の方では若いアプカルル達が百人前後おり、水遊びを楽しんでいるのだ。
「……って、増えてる!」
僕は衝撃を受けた。アプカルルの人口が明らかに増加しているのだ。まさか、アプカルルは子供が生まれても三カ月で十歳前後くらいに成長するのか?
「婿殿ではないか」
「おぉ、ラダプリオラの婿か」
「ここ二、三日顔を見なかったな」
アプカルルはこちらに気が付き、なにやら勝手な発言をし始めた。
ラダヴェスタに近付き、口を開く。
「ラダヴェスタさん。婿じゃないからね? 何度も言ってるよ、僕は」
「我が娘、ラダプリオラの何が……」
「不満じゃないよ。不満とかじゃないけど、ラダプリオラちゃんはやっぱり同じアプカルルの将来有望な若者と結婚した方が良いと思うんだけど」
と、僕とラダヴェスタが話していると、後ろからディーノ王達が恐る恐る近づいてくる。
「我が目に狂いが無ければ、そちらの者達はアプカルルと呼ばれる幻の種族に見える」
「奇遇ですな、陛下。私にもそう見えます」
二人の会話を背中で聞きつつ、ラダヴェスタに対して口を開く。
「知らない内にアプカルルさん達が増えてるけど、親戚の一族か何かかな?」
そう尋ねると、ラダヴェスタは首を左右に振った。
「いや、彼らは我らより更に川の上流に住まうアフト一族だ。部族連絡で私に会いに来たのだが、なんとかこの湖まで辿り着いてな。すっかり気に入って一族を連れてきたいと。一族が来たのは昨日の夜だったが」
「住むつもりで?」
「うむ。住まわせて良いか?」
「湖はまだ広さに余裕があるから大丈夫だよ」
そんなやりとりをしていると、ラダヴェスタの奥から太ったアプカルルが泳いできた。
「お主がラダプリオラの婿であり、この地の族長であるヴァン殿か。私はアフトバース。アフト族の族長である。ラダヴェスタより、この地の素晴らしさを聞いた。我らもこの地に住みたいと思う」
「はいはい。良いけど、たまにはお魚とか水中の鉱石とか持ってきてね? そしたらあの船小屋追加で作るから」
「なんと。そんなことはお安い御用だ。さっそく鉱石を持ってこよう」
アフトバースはそう言って何処かに泳いでいった。
ふむ。アプカルルが増えていくようなら、湖の中心に島を作っても良いかもしれない。湖は水位が増えたら川の下流に戻すように治水してるが、湖を大きくすることは可能だ。
場合によってはもっと大きな湖にすることも考えておこう。
「……ヴァン男爵」
「はい?」
名を呼ばれたので振り返ると、ディーノ王が頬を引攣らせて口を開いた。
「アプカルルと交友が……いや、アプカルルも住民なのか?」
「まぁ、成り行きで」
そう答えると、アペルタが面白いものを見たような顔で頷く。
「なるほど。成り行きでアプカルルの娘と婚姻を……」
「断じて違います」
アペルタの誤解はハッキリと否定しておく。ここで言葉を濁すと王都で噂になりそうで恐ろしい。
「アプカルルがこれほど無防備な姿を晒して暮らしているとは……流石にこの私であってもこんな光景見たことがないぞ」
唖然とするディーノ王だが、普通のアプカルルの姿とやらを知らない僕からすると、むしろそんな慎ましいアプカルルの姿を見てみたい。
まぁ、どちらにせよ、どうせだからこのまま湖の拡張工事と城壁の追加をするとしよう。
「エスパーダ。ちょっと湖を拡張して、奥にもう一段高い城壁を作ってみようか。城壁の形は星型をもう一段重ねるから、完成はまた一ヶ月か二ヶ月はかかるだろうけど」
「もう一段重ねる、ですか? 申し訳ありません。想像が追いつかず……」
エスパーダが眉根を寄せてそう言うため、僕は地面の上で近くにあった木材をウッドブロックに加工し、簡単な模型を作る。
「今はこんな感じ。だから、外側に湖を広げて、その周りを囲うように……」
「ほう。たしかに、星型が重なったように見えます。角は……なるほど。こちらの角から三方向、こちらの角から三方向を狙えることで……これは、残りの角にも同様に城壁を増築した方が良いのではありませんか?」
「そうだね。最終的に最強無敵の巨大城塞都市にするつもりだからね。ただ、そこまでするには資材が足りないんだよね。資材があれば一年以内には完成するだろうけど」
話し合いながら模型を追加していき、最後には星七つを重ねた巨大星型城塞都市を形作ってみせる。
それを横から見ていたディーノ王とアペルタも議論に加わる。
「むぅ、見れば見るほど不思議な建築だが、美しく洗練されている……」
「こちらから進撃された場合、角が出ている分防衛し辛くはないのですかな?」
「バリスタの射程が長いので、角を狙われても三方向から射ることが出来ますよ。それに、角一つを破壊しても、その後に城壁を破らなければならないのは変わりませんからね」
と、僕は模型を使って星型城塞都市の防衛力を説明する。机上の空論だが、二人には理解出来たようだ。
「……あのバリスタの射程では、一流の四元素魔術士でも攻略できないか」
「むしろ、詠唱する魔術師は一番に狙われますな。そして、そのバリスタの矢を防ぐ手段がありません。これは……難攻不落の要塞と言えるでしょう」
二人はそんなやり取りをした後に、揃ってこちらを見た。僕は二人の視線を受けて頷き返し、口を開く。
「もちろん、この形は来年までの目標であり、最終形は別にあります。なにせ、この城塞都市を僕が攻めるとしたら、間違いなく陥落させることが出来ますから。なので、セアト村の最終的に目指す形は、僕でも攻略出来ない城塞都市となって初めて完成となります」
そう答えると、二人は目と口を丸く開き、硬直したのだった。
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