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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】派手にいった結果

「フェルティオ侯爵家の子息、だと? 侯爵からは何も報告が無かったが」


 私の言葉に陛下が低い声でそう言った。


 陛下の目に剣呑な光が宿る。これは、侯爵家の謀叛の可能性が無いか考えているか。


 微妙に空気が変わったが、私には関係無い。


「侯爵家からの報告に関しては存じませんが、かの者の任された辺境の村は、名も無き小さな村でした。百人ばかりの村人達が自らの手で作り上げた木の柵程度しか身を守るものが無いような地に、ヴァン少年は領主として赴いたのです」


 そう切り出して、みなの反応を見る。そんな有様からどうやってドラゴンを倒すのかと、興味を持つ者が殆どだ。


「なんと驚くべきことに、少年が辿り着いた時、村は盗賊団に襲われていました。それを僅かな部下と護衛として雇っていた冒険者達によって殲滅し、村を守りました」


「ほほう。幼くして野戦をし、勝利したか。中々出来ることではないな」


 陛下が身を乗り出してそう言った。良い反応だ。思わず口の端が上がりそうになるのを抑えて、話を続ける。


「少年はまず最初に領主として、村の防備を固めるために動きました。土や岩をもって土壁で村を囲ったのです。さらに堀を作り、壊れかけた家屋を修復しました」


 それを話すと、感嘆の声が上がる。それはそうだ。僅か八歳の子供がしたとなれば、それは神童か、それとも嘘の話かと議論になるだろう。


 その騒ぎを、もっと大きな声で遮る。


「彼は更に、たった百人を指揮してアーマードリザード四十体を討伐」


 そう告げると、騒めきはついに最高潮となった。そこかしこから私の言葉に対して真偽を問う声が聞こえてくる。


「ば、馬鹿な。王都騎士団でもそう簡単には……」


「一体ずつか?」


「いや、アーマードリザードがそう定期的に出てくるとも考えられん。数年で討伐の総数が四十という意味ではないか?」


 やり取りに耳を澄ませながら場が静まるのを待っていると、宰相が両手の手のひらを打ち合わせて音を鳴らし、場を無理矢理落ち着かせた。


「……その村の戦力と、アーマードリザードの襲撃回数を教えてもらいたい」


 その問いに、私は表情を引き締めて顎を引く。


「村の戦力はただの村人百名前後と、侯爵家騎士団副団長及び騎士二名。そして魔術師でもある老執事が一名。後は冒険者五名。対し、アーマードリザードは一回の襲撃で同時に四十体」


 詳細を話すと、驚きの声が広がった。


「実質騎士三名と魔術師一名、後は冒険者五名だけか……どう考えてもまともな戦いにはならんな。その冒険者達はどれほどの腕前だ」


「一流ですが、飛び抜けた腕前とは言えません」


 答えると、陛下と宰相が顔を見合わせて唸る。


 そして、宰相がこちらを見て口を開いた。


「……俄かには信じがたい話だが、証拠はあるのかね」


「討伐したドラゴンの素材及びアーマードリザードの素材があります。どれも傷は最小限であり、魔術の損傷も殆どありません。ドラゴン討伐には私も加わりましたが、一、二度足止めを行った程度。結局は領主であるヴァン・ネイ・フェルティオと部下達の力により、死傷者一人出さずに全ての戦果を達成しました」


 ハッキリとそう宣言すると、流石に脚色ありと判断したのか、宰相の顔が険しいものとなった。


 まぁ、それはそうだろう。逆の立場なら簡単に信じられる内容ではない。


「中にはこの報告の内容を疑っている者もいるでしょう。ですが……」


 そう口にした瞬間、陛下が片手を挙げて口を開いた。


「疑ってなどおらん。ここでその場限りの嘘を吐いたところで利点など無いからな。ドラゴンの討伐をしたなら隠せない程の素材が市場に出回り、何処から流れてきたかも自ずと知れる。後はドラゴン討伐の功績だが、別の者がした事を己のものとするならともかく、他者が討伐したという報告をして、誰に何の利益があるというのか」


「もしかすると、全く無関係の者が得る筈だった功績を操り易い子供に譲り、間接的に自身の領地を得るつもりということも考えられますぞ」


 陛下の推測に宰相が異論を唱えるが、片手を振って否定される。


「我を試すな。そんなもの、この者ならばドラゴンを討伐したから直接自分に領地を寄こせと申すだろう。だいたい、数日中に検証の為の者が現場に向かうのだ。左様な事では誤魔化せまい」


 陛下が不機嫌そうに言うと、宰相は困ったように笑い、私を見た。


「……陛下は貴殿を信じると言っておいでだ。もし、これが謀りであった場合、貴殿の爵位は返上。更に、厳罰に処される。分かっているな?」


「はい。ぜひ、現場を見ていただきたいくらいです。僅かな期間にヴァンという少年が村をどれほど変えたのか、陛下に直接見ていただきたい。その上で改めて私が陳情したならば、恐らく賢明なる陛下は国防の為にも新たに広大な領地の領主に任命することでしょう」


 片方の口の端を上げ、私は自信満々にそう返した。すると、場は騒めき、宰相と陛下は共に笑みを浮かべて私を見下ろした。







 城から出て、私は城門の外で待機していた部下やランゴ達のもとへ向かった。周りは人集りが出来ており、兵士達やランゴが民に詳しい話を聞かせている。


 二時間以上時間があったのだ。


 恐らく、王都中にドラゴン討伐の噂が広まっているだろう。更に、先頭の馬車はわざと屋根が閉まらないといった風にして、ドラゴンの顔の一部を露出させている。


 これで騒ぎにならない筈がない。


「あ、パナメラ様!」


 ランゴが気付き、兵士達が話を中断してこちらを振り向いた。


 すると、野次馬は私という存在に気付き、囁くような声で近くの者と何か話し出す。


 どのような目であろうと、こちらに衆目が集まっているのは間違いない。私はそちらを意識しないように、されど大きな声で部下達に結果を報告した。


「ヴァン・ネイ・フェルティオ殿の爵位は男爵と決まった。また、緑森竜討伐及び甲殻亜龍の討伐の功績に対する褒賞は後日決定する。これで、ベルとランゴの商会は設立出来る」


 そう宣言すると、民衆が驚きの声を上げる。フェルティオ侯爵の名は民草でも有名であるため、名を口にするだけでヴァンがフェルティオ侯爵家の者と知られただろう。


「本日、商人ギルドにて商会設立の届け出をするが、名はなんとする?」


 新しい商会の設立を印象付けるためにわざと尋ねると、ランゴは何処か誇らしげに口を開いた。


「ランゴ商会です!」


 と、ランゴは言い切った。


「……おい。兄の名はいれなくて良いのか?」


 一応確認すると、ランゴは目を輝かせて頷く。


「愛する弟の名が目立って、兄も草葉の陰で喜んでいることでしょう」


 ランゴは曇りなき目でそう言ったが、後に禍根を残すことは間違いない。


「……ベルランゴ商会で登録するとしようか」


 そう答えると、ランゴは明らかに不服そうな顔で頷いたのだった。






 後日、予定通り新商会の名とヴァン・ネイ・フェルティオ新男爵の噂は、王都内で最も大きな話題となった。


 広まった噂の殆どはドラゴン討伐の話であり、英雄譚さながらの内容で広まった。登場人物はヴァン新男爵とその騎士団、そして私だ。


 何故かドラゴンを野戦で取り囲み、強大な剣士を従えた少年がドラゴンの首を切り落としたという結末に変わっていたが、噂というのは派手になっていくものだ。


 私の活躍もしっかりと派手に脚色されていたので良しとしようか。


「さぁ、少年。これで面白くなるぞ。感謝しろよ」


 私は小さく笑いながら、一人そう口にしたのだった。


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