ドラゴン討伐
本日2話目です!
村の防壁に向かって走る中、後方から地響きのような低い咆哮と、地面が揺れるような勢いで走り出すドラゴンの足音が響いてくる。
後ろでは少し離れたところにエスパーダとカムシンの姿がある。
エスパーダに魔術を使うように言おうかと思ったが、まず間に合わない。むしろ、ギリギリまでこちらに引きつけてバリスタを射った方がマシか。
だが、微妙な距離だ。城壁の時と同じように回避されてしまえば、こちらのバリスタは二発目に時間が掛かる。
足止めは出来るだろうが、その場合はパナメラの魔術一つに全てがかかってしまう。
ならば、予定通りパナメラの魔術で足止めしてバリスタか?
いや、それも難しい距離だ。距離が離れれば確実にラグが出来てしまう。
「なんとか、エスパーダ達がこっちまで逃げる時間が稼げたら……!」
そう口にした瞬間、僕の横をすごい速度でなにかが通り過ぎた。
「お任せくだされぃ!」
飛び出したのは、僕の作った大剣を手にしたディーだ。装備を整えてきたのか、鎧姿に大剣を両手持ちで担ぎ、僕の全力疾走より速い速度で駆けていく。
「お任せをー!」
「副団長、速いですよ!」
遅れて、アーブとロウも走っていった。二人とも大型の盾とロングソード装備だ。
「三人で大丈夫!?」
驚いて叫ぶが、既にディーはエスパーダの横を駆け抜けている。
「せぃやぁああっ!」
気合いと共に、上段からの振り下ろし。
ドラゴンは気にせず爪でディーを切り裂こうとする。速度は互角か。ドラゴンの爪に合わせるようにディーが剣を打ち下ろしたため、見事に爪と剣が交錯した。
ズドンという重低音を響かせ、ディーの剣が地面につく。
そして、遅れてドラゴンの爪が二本切断されて地面を転がった。
耳を劈くような絶叫をあげて、ドラゴンが顔を振る。そして、勢いをつけて身体を半回転させた。
「い、いやぁああっ!」
「どりゃあああっ!」
無防備になっている状態のディーの隣に、盾を構えながら突進するアーブとロウが現れ、ドラゴンの尾に吹き飛ばされた。
アーブとロウが盾で受けながら弾き飛ばされ、隣にいたディーも巻き込んで吹き飛ばされる。
ボールのように転がっていく三人を横目に、エスパーダが立ち止まり、魔術を発動させた。
土の壁がディー達を隠すように出現すると、ドラゴンは腕の一振りでそれを破壊する。
「走って! 皆!」
僕が叫ぶと、エスパーダとカムシンが先にこちらに走ってくる。あの二人はもう大丈夫だろう。
逆にピンチになったディー達だったが、元々が超人の為か、あれだけ吹き飛ばされたのにすぐに態勢を立て直した。
「退却!」
「はっ!」
ディーの掛け声と同時に、三人同時に村に向かって走ってくる。
一番年上の筈のディーが一番速い。一番後方のアーブとロウの後ろには怒りに燃えるドラゴンが迫っている。
「ひゃあああっ!」
アーブが半泣きで悲鳴を上げながら近づくのを横目に、ドラゴンはもう十分引きつけたと判断する。
「パナメラさん!」
「応!」
僕が名を呼ぶと、パナメラは待ってましたとばかりに返事をし、片手を前に突き出した。
「炎槍」
魔術は発動し、アーブを狙うドラゴンの顔面に炎の槍が迫る。
だが、ドラゴンはその場で速度を緩め、翼で自らを包み込むように身を固めた。そこに炎の槍は直撃し、炎の柱が巻き起こる。
「っ! バリスタ! 村の西側半分のみ一斉に発射!」
嫌な予感がして、僕は咄嗟にそんな指示を出した。
直後、ドラゴンは炎の柱の中で翼を一気に広げ、燃え盛っていた炎を一瞬でかき消した。
そこへ、村の防壁の上から発射された矢が降り注ぐ。
ドラゴンは身を捩り、大量の矢の大半を回避した。命中したのは肩と後ろ足、尾の先に命中した数本のみだ。
だが、矢は確かにドラゴンにダメージを与えた。斜めに倒れるようにして地面に崩れるドラゴン。
その姿を確認して、僕は再度指示を出す。
「バリスタ! 残り全部発射!」
そう言った次の瞬間、一斉にバリスタは発射された。
ドラゴンは倒れながらもまた身をよじったが、かろうじて頭部に当たらないようにするだけで精一杯だった。
ヴァン印の鉄の矢を胴体に幾つも受け、翼の付け根や足も貫通した。
明らかな致命傷だ。
断末魔の叫びを上げ、ドラゴンは横倒しに倒れた。
「バリスタ! 次の矢を準備して待機!」
一応戦闘継続の準備を指示しておく。それに合わせてか、パナメラも魔術の詠唱を開始した。
「ディー! 確認を頼めるかい!?」
ドラゴンにほど近い場所にいるディーにお願いすると、ディーは剣を掲げて応えた。
じりじりとドラゴンに接近するディーの姿に、皆が息を飲んで見守る。
すぐ近くまで行き、剣を構えるディー。
剣の先で血だらけのドラゴンの腕を突っ付く。
途端、ぐったりしていたドラゴンの首が動き、大きな口がディーを飲み込まんと迫った。
「ぬん!」
だが、油断無く、ディーは迫り来るドラゴンの首を避け、大剣を振り下ろした。
一刀両断。切断されたドラゴンの首が地面に転がる。
「か、勝った!」
ドラゴンの首が落ちたのを確認して、ロウが叫んだ。
うん。あれならもう大丈夫だろう。
自分の目でも確認し、防壁の上の村人達を見て思い切り声を発した。
「我が村の勝利だ! 勝鬨を上げろ!」
僕のその宣言に、村は大きな歓声に包まれたのだった。
「大丈夫ですか、ヴァン様!?」
「お怪我はありませんか!」
村に戻ると、ティルとアルテが走ってきた。
「大丈夫だよ。むしろ、長いこと走らされたエスパーダとドラゴンの一撃を食らったディー達の様子を見ておいて」
「わ、分かりました! でも、先ずはヴァン様です。さぁ、こちらに」
そう言って、近くの家から引っ張り出してきた椅子に座らせられた。
あ、でも疲れてたから座るとホッとする。
「良い指揮だったな、少年。そして、改めてドラゴン討伐おめでとう。中規模の街なら壊滅の恐れもある存在だ。この事実は間違いなく噂になるぞ」
と、ご機嫌な様子のパナメラがこちらに歩いてきた。
兵士達も今ばかりは嬉しそうに近くの兵同士で雑談をしながら歩いてくる。
村人達は現実感が無いのか、わいわい笑い合いながら喜んでいるが、アーマードリザードの時の方が盛り上がっていた気がする。
「ドラゴン討伐ですか。かなりギリギリでしたけどね。パナメラさんとエスパーダ、ディーがいなかったら……いや、パナメラさんの部下達がいなくてもダメだったでしょうね」
運が良かったと暗に伝えると、パナメラはフッと意味ありげに微笑んだ。
「……正直な話、伯爵のお膝元にあの緑森竜が襲来していたら、街は半壊していただろうな。最低でも城壁の一部は崩されて死傷者も数百人といわず出ていた筈だ」
「そうなんですか? 伯爵の居城がある街なら防備もきちんとしてそうですが」
「ふん。あのエスパーダという執事や、ディーというドラゴンの首を一撃で切り落とすような豪傑などそうはおらんさ。何よりあの馬鹿みたいな威力のバリスタだ。まさか、ドラゴンの鱗すら貫通するとはな」
若干呆れたような声音でそう言われ、笑いながら頷く。
「皆、自慢の部下ですからね。アーブやロウ、そしてカムシンもディーと同じくらい強くなる予定ですよ。後はバリスタも改良しないといけませんね。最低でも連続で十回は発射できるようにしましょう」
「……恐ろしい言葉を聞いた気がするが、まぁ良いだろう。一先ず、竜討伐の式典を開かねばな。第一は今回でドラゴンスレイヤーの肩書きを手にしたディー殿か。第二は指揮官であり領主のヴァン殿だ。エスパーダ殿も名を連ねてもらおうか」
と、そんな話をされた。
え、ディーって竜討伐士になるの?
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