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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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産業スパイしたい

 翌日、僕達はトリブートの海岸に集合した。朝から集まったのだが、早朝とは思えないくらい皆ピシッとしている。僕なんて二度寝、三度寝しても良いくらいなのに、皆元気だなぁ。


 そんなことを思いながら、桟橋に係留された大型船を眺める。船の大きさはトランと同様だが、若干デザインが違う気がした。あと、一番大きな違いは帆の色だろうか。真っ白な帆だったトランに対して、モンデオの船は朱色の帆だった。


「……眠そうだな、ヴァン卿」


「ふぁい」


 ロッソに声を掛けられて頑張って返事をしたが、笑われてしまった。あ、アルテとティルも笑ってる。しかし、眠いのだから仕方がない。だって、人間だもの。


 ぼんやりした頭で間の抜けたことを考えていると、僕が作った桟橋に係留されていた大型船からモンデオたちが降りてきた。


 人数は十人。中心にはモンデオがいた。


「おはようございます。ロッソ様、ヴァン様! ようこそ、おいでくださいました!」


 昨日同様、モンデオは人当たりの良さそうな態度で挨拶をしてくれた。目が糸のように細められ、遠目からでも分かるほど笑顔になっている。それにロッソは苦笑しつつ軽く頷いた。


「うむ、本日も頼む」


「こちらこそ、ありがとうございますー!」


 落ち着いたロッソに対して、天才少年ヴァン君は相手を油断させるべく明るく元気に挨拶を返す。それにモンデオは笑いながら歩いてきた。


「ははは。お元気そうで何よりです。それでは、我が船、エスカレードのご案内をいたしましょう。トランも船をお見せしたとのことだったので、あまり目新しいものはないかもしれませんが」


 苦笑しながらそう言うモンデオに、無邪気な笑顔を貼り付けてお願いをしてみる。


「いえ、楽しみです! あ、今日は僕の部下も見学して良いですか? 大きな船と聞いてすごく気になっているみたいで……」


 そう尋ねると、モンデオは一瞬考えるような素振りを見せたが、僕の顔をもう一度見て、すぐに笑顔になって頷いた。


「……そうですね。ヴァン様の為に、特別ですよ? 一応、我が国の大事な機密事項なので、人数は最大で五名とさせていただきたいのですが……」


 モンデオはそう言ってチラリとロッソを見た。それに深く頷き、ロッソが了承する。


「うむ、勿論だ」


 ロッソの返事を聞き、モンデオは軽く頷いてからこちらに顔を向けた。


「それでは、ヴァン様。ロッソ様とヴァン様、後はどなたでしょうか?」


 その質問に、僕は満面の笑みで返事をする。


「わぁ、ありがとうございます! モノづくりが好きな騎士のロウ、器用な冒険者のクサラさん! そしてハベルでお願いします!」


「へぇ、冒険者の方とはあまりお話をしたことがありませんでしたが……」


 ニコニコと笑顔を浮かべていたモンデオだったが、ロウとクサラの背後からハベルが現れたのを見て固まった。背は低いが、筋骨隆々のおじさんの姿。一方、モンデオたちに注目されるハベルは、集まる視線など気にもせずに船を凝視している。


「……そ、その方は、もしかしてドワーフと呼ばれる種族では?」


「はい! 僕の村に住んでるんです! 船を見てみたいと言っていて」


 モンデオが頬を引き攣らせていたが、気にせずにハベルの背中を叩いて紹介した。それに、ハベルは眉根を寄せてモンデオに視線を移す。


「ハベルだ。大きな船を見られると聞いて楽しみにしていた」


 そう言って腕を組むハベルに、モンデオは不器用な笑みを浮かべたまま口を開く。


「……え、えっと、すみません。ドワーフの方は……」


 言い難そうに否定的な言葉を発しそうになるモンデオ。それを聞き、すぐにハベルに声を掛けた。


「あ、ハベルさん! 贈り物があるんでしょ?」


「おお、そうだった」


 モンデオの台詞が聞こえないふりをしつつ、ハベルに合図を送る。まるで本気で忘れていたような素振りでハベルは頷き、腰に差していた短剣を取り出した。モンデオの前で鞘を外し、美しい装飾の施されたミスリルの剣を掲げる。


「お、おお……なんと見事な……」


 ハベルが掲げた剣の美しさに、モンデオは思わず目を奪われた。それを確認してから、笑顔を作ってモンデオに声を掛ける。


「モンデオさん! ハベルさんが最高級のミスリルの剣を贈りたいとのことです! 良いですね! 国宝になるくらいの価値ですよ?」


 短剣を横目に見ながらそう告げると、モンデオは唾を飲み込んで短剣を凝視した。本当に国宝になりそうな見事な出来栄えだ。ハベルに見た目が良い短剣を作ってほしいとお願いしたのだが、想像以上に凝った短剣が完成していた。流石はドワーフである。


 賄賂は一応準備しておこうと思っていたのだが、我ながら素晴らしい判断だった。


「こ、これほどの贈り物を受け取って良いのでしょうか?」


 モンデオも流石にたじたじである。


「大丈夫ですよ! 船を見学させてもらえる御礼だそうなので!」


 トドメの一言。これで、モンデオは完全に折れた。


「そ、そうですか……! それでは、どうぞこちらへ! 皆さんをご案内いたしましょう!」


 モンデオはそう言って短剣を受け取り、足取り軽く船の方へ向かって歩き出した。モンデオたちに見えないようにハベルと拳を突き合って喜んでいると、一番後ろから付いてきているロッソが声を殺して笑っている気配がした。

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