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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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束の間の休息

 人口も増え、更に冒険者達も多いセアト村。そんな環境なので、今は宿や飲食店が多く出来ていた。ベルランゴ商会は基本的に商店ばかりだが、メアリ商会は飲食店の経営も行っているようだった。人員にも余裕があるのか、毎週新しくメアリ商会の人員が増えているのである。


 ちなみにベルランゴ商会にそんな余裕はない。冒険者ギルドやメアリ商会との取引をしつつ、冒険者達が毎日持ち込む魔獣の素材や資源を売買し、更に城塞都市ムルシアと城塞都市カイエンにまで定期的に行商を行っている。かなりの数の新入社員を雇っているようだが、こちらも教育が間に合っていないようだ。


 しかし、この世界では安定した仕事というだけで十分魅力的なのか、超ブラック企業のベルランゴ商会を辞める者はいない。皆、過度に忙しくなると血走った眼で笑いながら走り回っているくらいだ。ああ、活気あるベルランゴ商会。この商人見習いたちが一人前になった時、ベルランゴ商会は更に大きくなるに違いない。


 まぁ、その時には更に忙しさが加速している可能性もあるが。


 セアト村の中を仕事を抜きにして眺めていると、忙しい組と忙しくない組に分かれる。基本的にマイペースに仕事が出来ているのは冒険者と冒険者ギルド。なにせ、ヴァン君特製の装備もあるし熟練のドワーフによる武具や防具も揃っている。それらを購入出来ればかなり安全に冒険出来るだろう。後は農業や畜産業も比較的ゆったりと出来ているらしい。


 対して、物凄く忙しいのは商会と宿屋、飲食店……そして、ヴァン君やエスパーダ、ムルシアといった領地を管理する者とその部下達。この辺の人たちはあまりにも過酷な労働時間に疲弊してしまっている。


 なお、僕が責任者となる学校と病院はそれなりである。こちらは経験者を採用することが出来たのが大きいだろう。病院は作ったばかりだが、冒険者達が物凄く多い為薬草なども余るほど採取してくれているので問題ないようだ。


 あ、一番平和な人々を思い出した。アプカルル達だ。アプカルル達は人数こそ一定でそこまで増えてはいないが、任せられる仕事も少ない。下水管理と川からお堀までのゴミ掃除や岩の除去、湖の清掃活動なども行ってくれているし、水棲の小型魔獣の討伐や漁業もしてくれている。だが、必要人数に対してアプカルル達の方が多いので余裕があるのだ。


 いずれは、アプカルルのように皆もゆったり働いて暮らせるようになってもらいたいものである。勿論、このヴァン君も同様だ!


「……ヴァン様、どうかされましたか?」


 色々考えながら飲み物の入ったコップを持って固まっていると、アルテに声を掛けられてしまった。


「あ、ああ、ごめん。またお仕事のこと考えちゃってたよ」


 そう言って、すぐに出された飲み物を口に運ぶ。酸味のある果実の味が口の中に広がり、爽やかな甘さに溜まっていた疲労が薄れていくのを感じた。


「美味しいね、これ」


 そんな感想を口にして笑っていると、アルテとティルが難しい顔をする。


「……やはり、ヴァン様は働き過ぎだと思います」


「そうですよ。いくら領主様とはいっても、ヴァン様はまだ十歳です。ずっと働き詰めで休めていないから身長も……」


「身長は関係無くないかな!?」


 ティルの嘆きに強めに反論しておく。身長が伸び悩んでいることを気にしているのに、あまり触れないでもらいたい。


 頬を膨らませて怒りを表現していると、今度はカムシンが優しげな微笑を浮かべて口を開いた。


「大丈夫ですよ、ヴァン様。すぐに伸びますから」


「カムシンはもう大きいから良いよね。というか、また伸びたよね? もしかして二メートルとか超えようとしてない? ちょっと千切って分けてほしいくらいだよ」


 持てる者と持たざる者の構図である。カムシンの余裕ある態度に思わずやっかみをしてしまった。すると、カムシンは苦笑と共に首を左右に振る。


「いえ、まだまだディー様には追い付けてませんから」


 カムシンはそう言って爽やかに笑った。恐らく、カムシンはこのまま成長を続けてディーを超え、更にはタルガも超えてしまうだろう。僕は永久にカムシンを斜め上に見上げつつ会話することになるのだ。可哀そうなヴァン君である。


 最近もっとも気にしている身長の話をされ、思わずネガティブになってしまった。これはいけない。ティル達も笑ってくれてはいるが、あまりナーバスにならないようにしよう。


 己を戒めつつ、顔を上げる。


 すると、前に座るエスパーダが優雅に赤い葡萄酒を口に運ぶ姿が目に入った。確かに休日だと決めたけど、まさか一杯目からアルコールに走るとは思わなかった。


「……ふむ。領内にも良い葡萄酒が入るようになりましたな。これは、イェリネッタ王国北部のものでしょう」


「……おお、ソムリエがいる」


 エスパーダの専門的なコメントに驚愕していると、ようやく注文した料理が運ばれてきた。


「ヴァン様、いらっしゃいませー!」


 そして、同時にメアリ商会のロザリーがコップを片手に現れる。何故か物凄く明るいが、何故だろう?

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