人材の補充
領主としての通常業務、詰込み型のエスパーダの教育にディーの鬼訓練。そんな過密スケジュールの合間で、更に人材登用を進めている。
ちなみに、今は本当に人手が足りないのでアルテとティルにもお手伝いをしてもらっている状況だ。
「これで、エスパーダの下で領地経営に関することを学ぶ人が十人。各騎士団の運営補佐が五人。ムルシア兄さんの補佐として五人。冒険者の町の管理に二人……これは、けっこう人員補充になった気がするね」
報告書を確認してそう呟くと、重要事項以外の報告をまとめていたエスパーダが手を止めて振り向いた。
「そうですな。まだまだ人口が増えているので油断はできませんが、新しい人材が育てば一先ずは落ち着くことでしょう」
と、慎重なエスパーダも珍しく太鼓判を押す。なにせ、セアト村の予算、資材管理に三名。住民登録や変更の記録に五名。商会との折衝、取りまとめに二名。各施設管理に五名などなど……これまではエスパーダと弟子数名で行っていた業務が倍以上の人員で取り組めるようになるのだ。彼らが順調に業務を覚えてくれれば我が領地の運営は安定するに違いない。
その間に、次代を担う人材も育ってくれるだろう。
「ふぅ……これで、暫くはゆっくり出来るかな? フィエスタ王国からの返事はまだないだろうし」
「お疲れさまでした」
ティルがタイミングを見計らって紅茶を持ってきてくれる。目の前に置かれたティーカップを手に取り、温かい紅茶を一口飲む。飲みやすい温度にしてくれているようだ。香りはとても豊かだが、飲みやすくて美味しい。
「染みわたるねぇー」
「ふふ、ヴァン様がおじいさんみたいに……」
感想を述べているとアルテが口元に手を当てて笑った。可愛らしい。ほのぼのしながらアルテやティルを見ていると、エスパーダが軽く咳払いをして口を開いた。
「さて、新しい人材登用と再配置についてはこれで完了となります。後は、各担当者へその旨を伝え、早急に新しい内政の形を整えていくことが肝要でしょう。そして、ヴァン様がセアト村に居られる内に新しい住民の住居を建てていただかなくてはなりません」
「え!? それって、い、急ぎ……?」
今から大浴場で足を伸ばしてゆっくりしようかと思っていたところにエスパーダからのキラーパスである。思わず声が上ずってしまった。だが、そんな疲れ果てて可哀想なヴァン君に対して、エスパーダは淡々と必要事項を述べていく。
「現在、セアト村に家や城壁の建設、補修を行う大工は二十人を超えました。しかし、ヴァン様がお建てになる四階以上の住宅は建てることが出来ません。単純な建築技術もそうですが、人手も時間も足りないというのが現状です。その為、現在は二階建ての家を建てたり家具を作ってもらっています」
「……つまり、将来を見越した場合、もっと何世帯も住めるような大きな建物がもっと必要だってことかな? それは、確かに僕しか出来そうにないけど」
「その通りです」
エスパーダに確認してみると、あっさりと肯定されてしまった。だが、内容に関しては無視できないものである。これは仕方ないと諦めるべきなのか……。
「……ちなみに、どれくらいの大きさの建物を何棟くらい建てる必要があるのかな?」
一応確認をしてみる。すると、エスパーダはどこからか書類を取り出してぺらぺらとめくり出す。
「ふむ……現在の人口増加割合は年に五十倍ほどとなります。しかし、分母が違いますので次の一年で同様に五十倍とはならないでしょう。なので、単純に同数の移住者が来た場合を想定させていただきます。恐らく、一ヶ月から二ヶ月で現在の建物が全て埋まってしまう計算となり、三ヶ月後には住居の無い住民が出てしまうかもしれません。フィエスタ王国の対応次第ではヴァン様は半年以上領地へお戻りになれない可能性もありますので、以前にヴァン様がお建てになった四階建ての住居を五十棟ほどお願いいたします」
「ご、ごじゅ……」
さらりと口にされたエスパーダの言葉に、僕は窓から見える夕日に視線を移した。
「……良い夕暮れだね。そうだ。今日の夕食はオムライスにしよう。ティル、良いかな?」
「ヴァン様? 現実逃避は感心できませんな」
そっと話を逸らして逃げようと思ったが、エスパーダからは逃げられなかった。僅かに眉根を寄せたエスパーダから見下ろされて、自分が小さくなったような錯覚を受ける。
「期限は明日から三日間としましょう。例え明日フィエスタ王国からの連絡があったと報せが来たとしても、出発準備などで三日ほどなら問題ありません」
「は、はい……頑張ります」
理由もしっかりしており、十分過ぎるほどの説得力と迫力を持ってエスパーダに詰められてしまった。僕はとても逆らうことなど出来ず、ただ了承するしかなかったのだった。
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