採用活動の大変さ
そっとX(Twitter)復活しました(*⁰▿⁰*)
今後はアニメ情報を載せたい!
※今は猫と釣りばかりですが…
採用活動の大変さは理解しているつもりだった。求人に応募して頑張って就職した経験はあるのだ。色々準備している方も大変だろうくらいには考えていた。
だが、現実はそんなものではない苦労があったのだ。
「……という仕事内容だね。質問はあるかな?」
簡単に業務内容を説明してから応募者に質問が無いか尋ねてみる。すると、テーブルの奥に座るおじいちゃんが深く頷いた。
「大丈夫ですじゃ。一応、昔商人をしていた経験があるので、出来そうじゃと思うんじゃが……」
「おお! それは頼もしい!」
「まぁ、見習いを数年していただけなのじゃがな。ふぁっはっは」
「な、なるほど」
「おお、そうじゃ。ヴァン様、ちょっと聞いてくださらんか」
「はいはい。何かな?」
と、気が付けば雑談になり、おじいちゃんが息子と喧嘩して昨日から口を利いてないという悩みについて十五分くらい話をしてしまった。他の応募者の中でもヴァン様とお話し出来ると思って計算は出来ないけど応募しました、などという人の対応もした。いや、僕のファンは悪くないけどね。人気者は辛いよね。
「ヴァン様、お疲れ様です。次の方をお呼びしますか?」
「ご、五分だけ休憩させて……」
「はい、それでは皆さんにそう伝えて参ります」
ティルは苦笑しながらそう答えると、応接室から出ていった。扉の向こうで「ヴァン様が休憩に入りまーす! 紅茶を淹れますので、申し訳ありませんが少々お待ちくださいー!」というティルの声と複数人の笑い声が聞こえてきたが、疲労感で気にならない。
朝一から四十人の面接を行い、気が付けばもうお昼である。予定ではサクサクいって午前中に終わるつもりだったのに、このままでは夕方までかかってしまう。
「お疲れ様です」
エスパーダが余裕たっぷりといった表情で飲み物を持ってきてくれた。さらりと銀色のトレイにティーカップとティーポットを載せて歩いてくるエスパーダ。片手で銀のトレイを持つエスパーダはまるで熟練のウェイターみたいである。その見事な立ち居振る舞いは執事カフェで働いたら人気が出るに違いないほどである。
「ありがとう……次回から先に簡単な試験を用意しよう。短い文章を読んで感想を書いてもらって、足し引きくらいの計算問題を何問か解いてもらおう。それで合格した人だけ面接に進めるようにすれば、かなり手間が減るかな」
「ふむ、それは良いお考えです。むしろ、普通はそのようにするものですが、今回はヴァン様が住民から意見を直接お聞きになりたいと伺っていましたので」
「あ、そうだった……疲労でそれどころじゃなくなってたね」
エスパーダに当初の目的を失念していると指摘され、脱力とともに同意する。それにエスパーダは短く息を吐き、自分がまとめた書類を眺めた。
「とはいえ、雑談の中からかなりの情報を得ることが出来ました。人材の確保にも目途がつきそうですし、今回は大成功と言って良いでしょう」
「え、本当? それは良かった。確かに、意外と読み書きと計算が出来る人っていたよね。初期のセアト村の人にもいたのは意外だったなぁ」
外部の者と絡むことが少なかったセアト村の住民の中にも読み書きや計算が出来る人がいたのだ。それに驚いていると、エスパーダが首肯する。
「行商人しか来ないような領地の端に点在する集落は基本的に外部から情報が得られません。場所によっては騎士団が定期的に見回りにくる村もあるでしょうが、それすらなければ行商人との会話が情報源の殆どです。そういう状況を知って悪用する行商人も多くおります。村人を騙す行商人もいるでしょう。それを防ぐ為に、村の中には何人か行商人とやり取りをすることが出来る者がいます。主には村長やその跡取りが担う役目でしょう。セアト村では村長とその息子以外に、定期的に隣の村などに交流や買い出しに出ていた者が数人おり、そういった人物は最低限の読み書きと計算を学んでいたようですな」
「素晴らしい! 後で村長にご褒美のお酒を持っていってあげよう! そういえば、ロンダさんって今なにしてるんだったかな?」
「ロンダ殿はアプカルルの族長たちと仲良くなったようで、よく湖でお茶を飲んでおりますな」
「よし、学校の先生としてスカウトしよう。先生も足りてないからね」
エスパーダとそんな会話をしていると、再びティルが応接室の扉をノックして顔を出した。
「あのー……そろそろ再開しますか?」
「あ、ごめんね。それじゃ、面接を再開しようか」
「分かりました!」
ティルは僕の返事を聞いて笑顔でそう言い、顔を引っ込めた。そして、「皆さーん! お待たせしましたー! それでは、面接を再開します!」という声が聞こえてきた。ティルはいつも元気である。
ティルの明るい性格にこちらも元気をもらった気がした。
「よし、頑張ろうか」
「ええ、後七十人ほどですから」
「増えてない!?」
せっかく元気を出したのに、エスパーダに現実に戻されて驚愕した。もしかしたら、これは夜までかかるかもしれない。




