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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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やけくその人員不足対応

 経済的に豊かになり、イェリネッタ王国やシェルビア連合国との交易が優位に行えるようになったことで、多種多様な物資が流通するようになってきたセアト村。近くにはダンジョンもあり、冒険者達の半数は冒険者の町とダンジョン前拠点に居つき、貴重な資材や鉱石なども手に入れてくれる。


 セアト村ではベルランゴ商会が最大勢力だが、更に王国最大の商会であるメアリ商会も店舗を持っており、大型の行商隊が週に一回は来て様々な取引をしている。これに加えてイェリネッタ王国側に領地を手に入れたパナメラ伯爵のところとも定期的に取引をするようになったお陰で、ある意味でセアト村はなんでも手に入る最高の経済都市となったと言える。


 そんなセアト村において、もっとも重大な問題はたった一つだ。


「……どうして、こんなに忙しいんだろう」


 領主として処理しなくてはいけない大量の書類。それを見つめて、小さく呟いた。それにティルが苦笑しながら紅茶をカップに注いでくれる。


「暫くセアト村から離れていたからでしょうか?」


「そんな出張から帰ったら通常業務が溜まっていたみたいなノリなのか……」


 ティルの言葉に色々と既視感を覚えながら椅子の背もたれに体重を預ける。両手を上げてぐっと背伸びをしていると、カムシンが悔しそうに唸った。


「……僕に、エスパーダ様のような能力があれば、この書類もどうにか出来るのに……!」


「いやいや、カムシンは午前中ずっと訓練してたじゃないの。十分頑張ってるから午後は少し休んでたら良いよ」


 忠臣カムシンの悔しがる様子に苦笑しながらフォローの言葉を口にする。僕も少しだけディーの下で剣の訓練はしているが、カムシンは夜明けから昼食までみっちりである。みっちみちに訓練をしたはずなのに、軽く水を浴びて昼食を取ったら、すぐに僕の傍で護衛をしているのだ。とんでもない体力である。


 だんだんとディーに迫ってきているなぁ、などと思いながら笑っていると、カムシンは胸に手を当てて真剣な顔で首を左右に振った。


「これまでに何度も暗殺の危機がありました……本当なら隣にベッドを置いて、一日中お守りしたいくらいです!」


「重いよ!」


「え!? いえ、隣にベッドを置くので、重くはありません!」


「そういう意味じゃないよ!」


 勘違いするカムシンに律儀に突っ込みをしておく。そのやり取りを見て、執務机の正面にあるソファーに座っていたアルテが口元に指を当ててくすくすと笑った。


「……仲が良くて羨ましいです」


「え? アルテも隣にベッドを並べたいの?」


「や、そ、そういう意味では……っ」


 アルテの感想に軽く冗談を言ってみると、予想通りアルテは耳まで真っ赤になってしまった。これまでの経験上、アルテは恥ずかしがり屋だがムッツリな気がする。そういった話題には恥ずかしくて口を出せないのだが、実は興味津々なのではないだろうか。


 そんなことを思っていると、アルテに対面するようにソファーに腰かけていたエスパーダが持っていた書類をテーブルの上に置き、口を開いた。


「実際に、人手はまだまだ足りておりません。新たに数名教育中ですが、もう少し良い教育制度を確立せねば人材不足は解決しないでしょうな」


 と、エスパーダが断言する。それはマズい。僕の予定では毎日何して遊ぼうか等と考えて領地をうろつき、遊び人のヴァンさんなどと呼ばれる日々を過ごすつもりだったのだ。


 慌てた僕は、セアト村の現状を確かめることにした。


「そ、そういえば、一応学校代わりのものは作ったよね? そっちはどうかな?」


「希望者と子供達はよく学んでいるようですが、内政に関われるような人材を輩出するのは十年は先になるでしょうな。また、現在必要な人材は徴税に関する人材が二名。新たな住民を記録する者が一名、それに伴う衣食住の割り当てをする人材が五名。後は……」


「ぜ、全然足りないじゃないか……え? エスパーダの弟子たちは?」


「彼らがいるお陰で何とかなっている状態ですな。今、アルテ様にも書類の大まかな選別についてお教えしておりますが、領内の財政や人員、騎士団の運営に関するものについてももう少し人材を補充しなくてはなりません。今は私が半分ほどやっておりますが、信用できる者を五名ほどいただけたら教育いたします」


「……暗に、エスパーダ一人分の仕事をするには五人の内政担当者が必要という……」


 エスパーダの報告にげっそりしながらそう呟いた。いや、エスパーダの言葉は誇張でも自画自賛でもなく、淡々と事実を述べたまでである。実際に僕がエスパーダの仕事を全てこなせと言われたらストライキを起こす。いや、一揆を起こしているだろう。


 そう思うと、表情を変えずに日々の業務をこなしているエスパーダはやはりサイボーグかアンドロイドに違いない。僕が勉強をサボって遊んでいたら殺人ビームを撃たれる可能性すらある。ああ、恐ろしい。


 そんな冗談はさておき、今後も外出することはあるだろう。その時の為にも、早急に領地の運営に関わる人材を補充しなくてはならない。


「……確か、村の人口も三千人を超えた筈だよね。それだけいたら、そういうことに向いた人がいると思うし、募集をかけてみようか」


「……先日の報告書にも書いておりましたが、現在領内には四千名を超える住民がおり、冒険者まで含めると常時五千名ほどおります。報告書はきちんと目を通して……」


「そ、そうそう! 一部はまたムルシア兄さんのところに移住してもらう予定だから、その計算がね!?」


「……確かに、村の人口と仰いましたか。それでは、そういうことにしておきましょう」


 危なかった。どこでエスパーダチェックシステムが作動するか分からない。気を引き締めなければ。


 僕は気持ちを切り替えて一人頷いたのだった。

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