【別視点】フィエスタ王国でのこと
【フィエスタ王国】
少し薄暗い屋内。石造りの建物だと一目で分かる白い石の壁に、照明代わりの火によって生じる影が揺らめいていた。
部屋は広く、無数にある照明でも全体を照らせてはいない。そんな室内で、重厚な石を切り出したような長テーブルがあり、その周りに十二名の男女の姿があった。椅子が無く、一人を除く全員が立ったままテーブルの上に置かれたものを見下ろしている。唯一椅子に座る者は、テーブルの中心が見えるように椅子に座っていた。
その十二人の内の一人、トランはテーブルに並ぶ物の一部を手に取り、口を開く。
「これを見てください。青いガラス細工だ。他にも多くの、この島国では作れない工芸品がありました。勿論、我々にとっても脅威となる武器や兵器についてもです。現在、西の大陸最大の国であるスクーデリア王国は強く、同等かそれに近い二つの国が力を合わせて挑んでも勝てなかったとのこと。これが西大陸の地図ですが、西大陸の覇者はスクーデリア王国で間違いないと思われます」
トランが簡単に今回の航海で得た情報を開示する。それに皆が成程と唸った。中心には大きな地図があり、そこには三つの大陸があった。白い髭を蓄えたスキンヘッドの男がトランの報告に頷き、地図の一点に黒い枝のような棒の先を押し当てた。海上にあるそこから、地図の左側へと線を引く。
トランはその線の先を指差し、口を開いた。
「ここがスクーデリア王国にあるロッソ侯爵領。ここから南に降りていくと王都があるそうです」
「……この町の名はトリブート、じゃったか」
「そうです。穏やかな港町ですが、大きな船は見当たりませんでした。話を聞く限り、スクーデリア王国はまだ航海に至るほど船の研究は進んでいないようです」
トランが答え、男はそれに相槌を打ちながら地図へと一部の情報を書き込む。すると、テーブルの対面に立つ女が顔を上げた。紫色の髪の四十代ほどの女性だ。肩幅が広く、少し大きめの衣装を身にまとっていても筋肉質な体型が見て取れた。
紫色の髪の女は眉根を寄せて地図上にあるスクーデリア王国とイェリネッタ王国、シェルビア連合国を順番に指差した。
「……実質、この三つの国の支配者にあたるということですね。スクーデリア王国との接触は危険では?」
女が少し低い声でそう尋ねると、トランは真剣な顔で頷く。
「危険でしょう。しかし、スクーデリア王国の侯爵や伯爵などの権力者に会って話をしたところ、私としては信用に足る相手であると感じました。それに、我々にとっても得られるものが多い相手です。特に、物作りに関しては想像以上に卓越しています。協力し合うことが出来れば、我がフィエスタ王国の艦隊をより強くすることも出来るでしょう」
「友好関係を築くべきだということですね」
「その通りです。味方にすればとても頼りになる同盟国になると思っています」
トランは自身の考えを述べると、皆の反応を待った。テーブルを囲む者達はそれぞれ情報を吟味し、感想を述べる。
「なるほど。興味深いな」
「その物作りに卓越しているという理由も気になるが」
「いや、先に他の国についても聞きたい。次は、四番艦隊か。モンデオ・オーカス。得られた情報を」
皆が思い思いに口を開く中、逞しい腕を露出させた隻眼の男が口を開いた。その言葉を受け、十二人の中で一番小柄な茶色髪の男が答えた。
「ええ、分かりました。私は東の大陸に向けて航海しました。上陸場所はここ、ソルスティス帝国の中央です。どうやら五番艦隊のスペクト殿もソルスティス帝国の南部に辿り着いたようですが、それだけ巨大な国でした。この地図もソルスティス帝国にて、商業ギルドという大きな組織より譲り受けたものです。これを見てもらえば分かるように、巨大な中央大陸と呼ばれる大陸の七割以上をソルスティス帝国が占めております。特筆すべきはその圧倒的な国力と最新の兵器でしょう」
モンデオと呼ばれた男は、まるで自分がソルスティス帝国の民であるかのように得意げにそう語った。それにトランは少し眉根を寄せながらも質問を口にする。
「最新の兵器? それはどのようなものですか?」
トランと同様のことを思っていたのか、皆の視線が一気にモンデオへと集中する。それに顎を引き、口を開いた。
「それは、火砲と呼ばれる遠距離攻撃用の兵器です。その火砲の素晴らしさを知れば、皆さんも必ずソルスティス帝国と同盟を結ぶべきだとお考えになるでしょう」
モンデオは笑顔でそう断言し、ソルスティス帝国が持つ最新兵器について饒舌に語り始めたのだった。




