【別視点】 ヴァン君のとんでも船造り その2
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【トラン】
この少年は何を言っているのか。船を海上で造るということがどれだけ非常識か知らないのだろうか。
そう思って一気に不信感が再燃し始めたのだが、その不信感も驚きと共に吹き飛ばされてしまった。
「材料、ありがとうございまーす! それじゃ、まずは船底から!」
そんな気の抜けた声で言われた台詞の次の瞬間、目の前で我が目を疑うようなことが起きた。変なブロックが運ばれてきたと思ったら、それをヴァンが妙な魔術を使って板に変えたのだ。いや、違う。浅いが船のような形状になっている。長さは三メートル超。幅は二メートルほどだろうか。小さいが、確かに船らしきものが突如として海の上に浮かんでいる。
「……今のは、いったい……」
目の前で起きたことが信じられずに一人呟く。周りでは部下達も驚きの声をあげていた。こちらに横顔で苦笑してみせ、ヴァンは次のブロックを手にする。
「本当はきちんと竜骨を造っていきたいところですが、まずは海の上に浮かべないといけないので……苦肉の策ですね」
笑いながら、ヴァンはどんどん新たな加工を施していく。気が付けば、小さな船のような物の上に弧を描いた見事な竜骨が出来ていた。我がフリートウードの船を支える竜骨よりも太く、角度が高い。横の波に弱い造りだ。
「大型の船ならば、もう少し、角度を緩やかにした方が良いかと……」
無意識にそんなことを口にしていた。それにヴァンは嬉しそうに笑い、成程と何度も頷く。
「重心を低くするためですか? なるほど、勉強になります!」
そう言って、ヴァンはまたブロックを使って不思議な魔術を行使した。変化に驚いている内に、海の上には大型船の船底とも言える部分が出来上がっていた。それに驚愕していると、ヴァンは皆を振り返って竜骨の飛び出た船底を指差す。
「それでは、中に入って造船を続けます。もう十分浮力はあると思うので見学したい人はどうぞー」
気軽な様子でそんなことを言いながら、ヴァンはディーという騎士を見た。十分とは言えない設備を使っていたのに、一人で巨大な錨を上げてしまったとんでもない怪力の持ち主だ。
「お任せあれ!」
そのディーが、妙な形の階段を両手に持って船底の壁面に立て掛けた。上部にはフックがあり、壁に固定できるようになっているのは分かるが、左右に縦の長さが揃っていない六角形が続いている。どうするのかと見ていると、ディーはその妙な階段の最下部を桟橋の床へと引っ張った。
結果、階段が伸び、ディーが下部を足で踏んで固定する形で落ち着く。どうやら、高さを変更できる昇降機のようだ。これは、出来ることなら我が国に持って帰りたい代物である。
「あれ? トランさん達は乗船しませんか?」
と、ヴァンの声が頭上から聞こえてハッとする。どうやら、ヴァンを含めてすでに主立った者たちは作りかけの船に乗っていたらしい。
「いや、我々も乗船しよう……!」
慌ててディーが支える階段を登っていき、乗船を果たした。後から部下達も恐る恐るといった様子で乗船してくる。その様子を横目に見つつ、船の底の部分を確認した。
「……錘も何もないのに、よく重心が取れている」
そもそも竜骨と船底部分だけの船を海に浮かべたところなど見たことも無い。しかし、それでも上部に竜骨が突き出たような状態の船底が、それなりとはいえ波のある海に浮かんでいることが信じられなかった。
「竜骨の中心部分はわざと少し重く造っています。それに、もう長さは三十メートル近くありますから」
ヴァンは小さく笑い声を上げながら再び信じられないことを言った。それに驚いて振り向くと、他の人からの質問に答えながらヴァンはどんどん船を組み上げていた。
「ふむ。この肋骨のようなものが船の柱か? 少年の場合、そのまま壁から造っても良いだろうに」
「そうですね。まだ手探りの状態なので、一気に柱と壁を作っちゃうと上手くできない気がして……」
「ヴァン卿。この壁面には窓などは付けられないのかね?」
「付けても良いですが、強度が落ちそうな気がします。それに、一階と二階は殆ど海の中に沈んだ状態になると思うので、三階に窓を設置した方が良いかな、と」
そんなやり取りをしながら、ヴァンは一気に船首から船尾までの柱を作り上げてしまう。驚きに声も出せずにいると、ヴァンが困ったように笑いながら近づいてきた。
「トランさん、どうでしょう? まだ骨だけですが、形は大丈夫そうですか?」
「え? あ、あぁ……そう、ですね……船首はもう少し細く、船尾は幅を広げてもっと角度を付けても……」
「こうですか?」
戸惑いながら助言をしていくと、ヴァンはその場でどんどん修正していく。気が付けば、船の一階と二階部分が完成し、三階の壁面を造っていた。そして、ついでとばかりに壁には窓が取り付けられる。桟橋から幾つも資材が運び込まれ、それを騎士達がヴァンの下へ届けていく。驚くべきことに、ヴァンはそれを受け取る度にあっという間に加工してみせた。
この頃にはヴァンが生産系の魔術適性であり、圧倒的な魔力量であることも理解出来ていた。
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