【別視点】ロッソとトランの驚愕
【ロッソ】
船を造る。それはとても簡単なこととは思えなかった。近場の海で漁をするための小舟程度は我が領地にもある。だが、とてもではないが沖に数キロ程度出ることも出来ないような代物だ。もちろん、大きな船を設計、建造したこともある。しかし、どれも上手くはいかなかった。
だから、ヴァンの言ったことに関しても半信半疑だったのだ。
結果、翌日の昼間には完成して海の上に浮かんだ大型船を見て、度肝を抜かれてしまった。
「……まさか、本当に……」
口に出来たのはこれだけだ。それからは、唯々出来たばかりの巨大な船を見上げて唖然としているだけだった。
【トラン】
「船を見せてください!」
子供らしい、素直な興味、関心からくる言葉だった。そう思っていた。しかし、船員からの突然の報告を受けて、耳を疑った。そして、陸地の方を見て我が目を疑った。
「な、なんだ、あれは……!? どこの船だ!?」
僅か一、二か月。スクーデリア王国に大型船を造る技術が無いのは確認済みだ。それはイェリネッタ王国とやらも同様だろう。だが、確かにトリブートの港とも言えない町の前の海上に、その船は存在している。
「わ、分かりません! しかし、どう見てもこのフリートウードと……」
船員はそれ以上言わなかったが、突如現れた謎の大型船に思うことは、皆同じだったはずだ。
「……これは、すぐに帰るわけにもいかなくなったな。船を用意しろ。ロッソ侯爵に確認に向かう」
そう言って小舟を出し、謎の船のすぐ傍を通ってトリブートを目指した。我がフリートウードと違い、金属の板を使用しているわけではない。しかし、見たこともない素材で出来ている。
そして、いつの間にかトリブートの町から立派な桟橋が伸びていたのだ。明らかに大型船の着桟を想定して陸地から百メートル近く沖に迫り出した桟橋だ。驚くことに、係船する為の設備も備えているようである。
スクーデリア王国には大型船の造船技術は無い。つまり、運用知識もない筈だ。それは間違いないと思っていたのだが……。
混乱する頭では上手く考えがまとまらなかった。その状態のままトリブートに到着すると、幸運にもそこには目的の人物達が顔を並べているではないか。
「あ、トランさん」
こちらに気が付いた者から声を掛けられて、ヴァンが振り向くと同時にそう口にした。名を呼ばれ、素早く係船を済ませて桟橋の上を足早に移動する。
「ヴァン子爵! ロッソ侯爵殿! これは、この船はいったい……!?」
努めて冷静に尋ねたつもりだったが、ヴァンは一歩後退して苦笑いをしていた。代わりに、ロッソがゆっくりと振り向いて口を開いた。
「……う、うむ。これは、貴殿の船を見学したヴァン卿が試作として建造した船なのだが……」
「け、建造とは……船を見たのはつい先日のはず……」
ロッソの言葉を聞き、改めてヴァンに目を向ける。ヴァンは顔を引き攣らせて笑っていた。
「ヴァン子爵。お話を聞かせてもらえますか」
すぐにヴァンの方へ向かっていき、そう尋ねた。それにヴァンは乾いた笑い声を上げながら頷く。
「は、はい。その、トランさんの船、フリートウードに乗せていただいて、船を造ってみたいと思ってですね……」
「そんな、ちょっと造ってみようと思って出来るものではないと思いますが」
ヴァンの答えに違和感を覚え、反論する。船を造る。小舟であればともかく、大型船は一隻造るのに数か月を要する。それも百人を超える作業者が関わるのだ。特に、設計と外装には熟練の知識と腕が必要である。
そう思っての発言だったが、ヴァンは冷静に答えた。
「実は、普段から建物や砦などを建設していて……あ、僕の領地内ですけど小さな船も作ったことがあってですね」
「いえ、小型の船と大型船は全く違います。大きな船は長い年月の研究が必要となります。船底の形、吃水の深さ、面積に対する重量や重心、荒波を受けても安定する為の工夫……どれ一つとっても簡単なものではない」
そう告げると、ヴァンは大きく頷く。
「そうなんです! 船を海に浮かべる。それだけでも長い年月の研究が必要です。でも、幸運にも実際に長年研究されて造られた大型船に乗る機会がありました」
「……それは」
ヴァンの言葉に驚き、思わずフリートウードの方に視線を向ける。ヴァンは微笑んでこちらを見上げた。
「はい! トランさんのお陰です! 最初に簡単に教えてくれた船の形だけでは作ることは出来ませんでした。でも、実際に乗って曖昧だった部分をこの目で確認させてもらえたので……」
照れ笑いを浮かべて、ヴァンはそう言った。だが、その言葉に笑うことなど出来そうもない。ヴァンの説明を聞いたところで、疑惑は深まるばかりだ。
「……それでは、この桟橋は? この桟橋は複数箇所での係留を必要とする大型船に対応するべく、二つに分かれた形状です。そして、実際にロープで左右から係船されてあります。後は、船体を傷つけないように桟橋に防舷設備が付けられている……こんな知識、大型船を運用している国にしか存在しないはず……」
そう言いながら、ロッソやパナメラの表情の変化にも気を配る。
スクーデリア王国は、我が国の船の技術を盗むべく、自国の造船技術を隠していたのではないか。そんな疑惑が胸の内に強い影を作っていた。
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