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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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トラン・ブロンコ

 海の幸を堪能して、その日は町の宿を利用した。ロッソから使者があり領主の館で休むよう招待を受けたが、部屋数の関係で泊まれるのはパナメラと部下一名、そして僕とタルガとエスパーダだけになってしまうからだ。


 丁重にお断りしたところ、パナメラが目を瞬かせていた。


「少年は恐ろしいことをするな」


 上級貴族の誘いを断ったことを言っているのだろう。そう思って苦笑しつつ答える。


「船を作って航路による物資の運搬を提案したら許してくれますよ、多分」


「それは……まぁ、確かにな。しかし、船を運用する人間の育成が必要になるが」


「あ、そうですね……それに関しては、専門家の協力が不可欠です」


 そう答えて、船の操作について考えてみた。しかし、当たり前だが船の操舵についての知識など無い。帆を張れば進むというものでも無いだろうし、錨の使い方も何となく程度のレベルだ。とてもではないが、さぁ海に出ろ等と言えるわけもない。


 色々と課題があるなと思いながら、その日は宿でゆっくり休むことにした。





 翌日、朝一番にロッソからの使者が宿を訪ねてきた。起きたらで良いとでも言われていたのか、休暇のつもりでのんびりとした朝食を取って外に出ると、使者は立っていた。髭のおじさん衛兵である。


「ヴァン子爵、おはようございます」


 宿から出てすぐにそう挨拶をされて、恐縮しつつ挨拶を返す。


「おはようございます。もしかして、ずっと待ってました?」


「なんのなんの! ほんの二時間ほどですので!」


「二時間!? すみません!」


 驚いて謝ると、衛兵は不思議そうに僕の顔をまじまじと見た。


「……失礼ながら、ヴァン様は不思議な方ですな。いや、悪い意味ではなく、とてもお優しい貴族様だと思っております」


「いえいえ、そんなことは……」


 まっすぐ褒められてヴァン君は照れた。もっと言って欲しい。しかし、心の声が聞こえなかった衛兵は真面目な顔に戻って背筋を伸ばした。


「おっと、失礼しました。ロッソ様よりお越しいただくよう言付かっております。どうぞ、こちらへ」


 そう言われて、天才ヴァン君を褒める時間の終わりが告げられた。残念である。


 衛兵の案内で領主の館へと赴き、ロッソを訪ねた。すると、そこには既にパナメラが待っていた。


「ようやく起きてきたか」


 パナメラに呆れたように言われて、元気よく挨拶を返す。


「おはようございます!」


「うむ、よく来てくれた」


 勢いで誤魔化した成果か、ロッソは苦笑交じりに頷いた。そして、窓の外を指し示す。


「どうやら、午後にフリートウードの責任者であるトラン・ブロンコが訪ねて来るようだ。話をしたいだろうと思ってね」


「ありがとうございます。是非お願いします」


 ロッソの言葉を聞き、感謝を伝える。こんなに早く会うことが出来るとは思っていなかった。実はもう昼前なので、後少しで会えることだろう。


 ウキウキしていると、ロッソが笑いながら口を開いた。


「そうだな。今日はこの館で昼食を共にするとしよう。専属の料理人がいるのでね。期待していてほしい」


「ありがとうございます」


「わぁ、楽しみです! シラーもありますか?」


「おお、ヴァン殿は通だね。この町の名物も知っているとは」


 ロッソは気を遣ったのか、シラー三昧ともいうべき料理の数々が並んだ。専門的な飲食店よりも凝った料理が出る辺り、流石は歴史ある侯爵家の専属料理人というべきか。恐るべし、ロッソ侯爵家。


 丁度良いサイズのエビらしき甲殻類の尻尾にフォークを刺してもりもり食べていると、不意に食堂の扉がノックされた。外から扉が開けられて、メイドの女が顔を出す。


「ご当主様。トラン様がいらっしゃいました」


「おお、早かったな。来客用広間で待たせておきなさい」


「はい、承知いたしました」


 メイドとそんなやり取りをして、ロッソはこちらを見た。


「焦らずに食べなさい。予定の時間はまだもう少し後なのだ」


「あ、ありがとうございます」


 ロッソは何故か妙に優しい。少しだけ違和感を持ちながらも僕はエビらしき海産物をもう一つ食べたのだった。次はエビフライも食べたい。


 食事を終えて皆で広間へと行くと、そこには褐色肌の赤毛の男が立っていた。窓から外を眺めていた為背中しか見えないが、それでも明らかに鍛え上げられたマッチョであることが分かる。衣服の上からでも分かる筋肉の隆起。そして、浅黒い肌。ボディービルの選手のようだ。


 男はこちらが声を掛ける前に振り返り、ロッソを見つけて一礼した。


「ロッソ侯爵、お元気そうで何よりです」


「おお、トラン殿。よくぞ来てくれた」


 振り返ったトランは、豪快な雰囲気を持つ男らしいイケメンだった。ワイルドボディビルダーイケメンである。ディーとタルガも並べてコンテストを開きたいくらいだ。


「トラン殿、こちらはパナメラ・カレラ・カイエン伯爵とヴァン・ネイ・フェルティオ子爵。そして、タルガ・ブレシア男爵だ。貴殿の持つ船、フリートウードを見学したいと訪ねてきたのだ。話を聞く時間はあるかね?」


 ロッソがそう尋ねると、トランは片方の眉を上げてパナメラ、タルガ、そして僕を見た。


「……ふむ。我が国で言うところの議員と同等の方々ですかね。それは、こちらとしても是非話をしてみたいですな」


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