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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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ポルト・フィーノ・ロッソ侯爵

 城内に入ると、まるで歴史的建造物の見学ツアーのように衛兵が城を案内してくれた。


「こちらは来客者の方々が寛げるように整備されています。広間、食堂だけでなく、執務室や寝室なども準備させていただいております。また、少々小さくはなりますが海の見える浴室などもあり、来客者様には大変好評をいただいておりまして……」


 物凄く流暢に説明をしてくれる衛兵が気になり、思わず解説の途中で尋ねてしまう。


「あの、来客の人には毎回こんな感じで丁寧に説明しているのですか?」


 そう尋ねると、衛兵は慌ててこちらを振り向いた。


「あ、申し訳ありません! 長過ぎたでしょうか……?」


「いえ、そんなことはないです。ただ、すごく丁寧に説明してくれているので」


 恐縮する衛兵のおじさんを安心させようと笑顔でそうフォローした。それに、衛兵は咳払いをして軽く頷く。


「そ、それなら良かったです。本来、ご当主様はトリブートではなく国境沿いにある城塞都市ティーリンドに住まわれておりますが、平時はトリブートにあまりにも多くの来客がある為、対応がしやすいようにこちらで過ごすのが一般的になっております。我々衛兵も、毎日ご当主様に謁見を求める方々の相手をしておりますので」


「な、なるほど……」


 どこか誇らしげな様子の衛兵の説明を聞き、これは困ったと内心溜め息を吐く。


 今のところ、このトリブートに来て現地で行われている特別な産業を目にはしていない。普通なら港町と言えば船を使った物資の運搬や漁業など、多くの産業があって当たり前である。だが、この世界での大海には大型の魔獣が山ほど棲んでいるらしく、船を使った産業は全くといって良いほど発展していない。


 小さな川や湖ならば船もあるが、基本的に海で船を見ることは無いということだ。


 そんな領地の主な収入源は交易や行商人達への通行税などだろう。その推測が当たっていたのか、ロッソ侯爵本人も来客者への対応が多いらしい。


 これはまずい。こちらの懸念通りなら、ロッソ侯爵領はいずれ干上がってしまう。そうなれば、ロッソとの友好関係など築けないのではないだろうか。原因はスクデットから攻め入ってきたイェリネッタ王国のせいだが、過程はどうであれ結果としてトリブートを通るはずだった行商人たちがセアト村に流れるのだ。誰でも年収が半分になれば、自分に入る予定だった利益をもっていく者を恨みたくもなるだろう。


 それによって長い歴史を持つ侯爵家が破産でもしようものなら……。


「……よし、当たって砕けよう」


 真面目なことを考えて疲れた為、すっぱりと気持ちを切り替えた。ロッソの人となりを見て判断するとしよう。


 そう思えば気が楽である。衛兵からの城案内を楽しみつつ、謁見の間へと移動した。


「こちらです」


 衛兵はそう言って、謁見の間の扉をノックした。すると、鋼鉄製の物々しい両開き扉が内側から開かれる。すぐに広間が目の前に現れた。それほど広くはなく、中にいる人数も少なそうだ。背もたれの大きな椅子に座る男が奥におり、左右には豪華な鎧を着た騎士が二人。壁際には魔術師らしき者も数名いるようだ。


「入るが良い」


 低い男の声でそう言われて、パナメラと一緒に謁見の間へと足を踏み入れる。ちょっと緊張しながら広間の奥へ歩いて行くと、椅子に座った男が顔を上げた。


 暗い銀髪の男だ。年齢は四十代といったところか。切れ長の目が特徴的である。表情から感情は読み取れないが、もしかしたら怒っているかもしれないと気持ちを引き締めておく。


 男は椅子から立ち上がり、パナメラと僕を見た。


「ようこそ、パナメラ・カレラ・カイエン伯爵。そして、ヴァン・ネイ・フェルティオ子爵……私が、このロッソ侯爵領を治めるポルト・フィーノ・ロッソ侯爵だ」


 男は少ししゃがれた渋い声で挨拶をした。落ち着きのあるダンディーな感じがエスパーダに通じるものを感じる。


 大人な男の様子に憧れを持って見ていると、パナメラが軽く礼をして挨拶を返した。


「お初にお目にかかります、ロッソ侯爵閣下。パナメラとお呼びください」


「あ、ヴァン・ネイ・フェルティオです! ヴァンとお呼びください!」


 パナメラの挨拶を聞いて慌ててそちらに合わせた挨拶をしておく。口にした後でもっと畏まらなくて良かったのかと不安になったが、ロッソは僅かに口の端を上げて頷いていた。


「……なるほど。武力で成り上がった勢いを感じるな。頼もしい限りだ。それに、ヴァン子爵は想像していた以上に若々しい。是非、二人と話をしてみたいと思っていたよ」


 二人の挨拶を好意的に解釈してくれたのか、ロッソは微笑みをもってそう口にした。


「さぁ、そこに座ってくれ」


 どうやら、形式的な挨拶はもう良いということらしい。ロッソは気軽な調子でそう言うと、さっさと一人掛けのソファーに座ってこちらが座るのを待っていた。


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