イェリネッタ王国の王都到着
ベルとロザリーにイェリネッタ王国の王都に行くと伝えたところ、二つ返事で同行を願い出てきた。予想通りである。そして、オルト達も同じく付いてきてくれることになった。有難い限りである。
結果、ベルとロザリーは今回は渡りを付ける為だけに馬車一台と行商人二人を連れて付いてくることになり、パナメラ騎士団とセアト村騎士団、さらに冒険者たち二十人という人数での移動となった。
「イェリネッタ王国はヘセル連合国と同様に中央大陸と交易しているんで、貴重な香辛料や布類が手に入るんですよ。護衛依頼とかのついでに小遣い稼ぎする冒険者は多いんです」
「行商人は関税を考えて最低でも大型の馬車二台で行き来しますが、冒険者の方はどれくらい買っていかれるので?」
「え? 関税ってなんだ?」
「知らねぇ」
オルトやベル、他の冒険者たちの恐ろしい会話を横で聞きながら、顔を引きつらせたりもした。尋ねてみたら、林や森の入り口にそって移動する方が魔獣の素材や鉱石を得られる確率が上がる為、街道を移動することは少ないらしい。
いや、護衛任務中は絶対に街道を通るだろうが。これは確信犯に違いない。脱税冒険者たちめ。
ちなみに、本来は通常の移動ルートである海側の道を通ってイェリネッタ王国と交易をしていた為、この城塞都市ムルシアから城塞都市カイエンを経由して向かうのは初めてだという。そちらでは極稀に人魚も見られることもあるらしいとのことで、多少テンションが上がる。アプカルルの海バージョンかと思ったら、その容姿にも若干の違いがあるとのこと。
そんな会話をしつつ、一路イェリネッタ王国の王都を目指す。流石に城塞都市カイエンから王都までしっかりとした街道が整備されており、移動は快適そのものだった。いや、道の老朽化などで穴が空いていたりはするが、それでも山道より余程良い。ウルフスブルグ山脈の山道に道を敷いたものの、どうしても坂道が多くグネグネと曲がりくねったものとなってしまったのは仕方なかった。
対して、山地を抜けた後の街道は真っすぐ一直線の道が多かった。天気が良いことも幸いして、これまでにないほど楽しい馬車の旅である。何故か関所代わりとなっている大きめの町もパナメラさんが名乗ると顔パス状態で通過出来た。まぁ、町を通過する際に町民達が小さな声で「あれが炎の女帝……?」「逆らう者は全て灰にするらしいぞ……」と恐怖に慄いていたことは知っていたので、特段不思議には思っていない。
「イェリネッタ王国の国民はずいぶんとおとなしいのだな」
パナメラが不思議そうにそんなことを呟いていたが、それにも愛想笑いだけ返しておいた。事実を知るのは僕以外の口からでお願いしたい。
「おお、見えたぞ。あれが王都だ」
陰で恐怖の大王のように言われているとは知らないパナメラは意気揚々とそう発した。大王の言葉に我々は揃って顔を上げる。
真っすぐに続く灰色の石を敷いた街道の先に、横一直線に伸びた城壁があった。奥には塔らしき建物の影が幾つも見えたが王城そのものまでは確認できなかった。
遠目から見ても歴史のありそうな風情を感じるので、もしかしたらあまり大きな建物は無いのかもしれない。そう思っていたが、近づいていく内にその考えは否定された。
単純に、城壁がでかいのだ。近づいてみると高さ二十メートルはありそうな大きさだった。周りが平地なだけに更に存在感が増して見える。もちろん、ヴァン君が作ればもっと大きなものは作れるが、この年季の入った城壁は百年近く前に作られたに違いない。そう思うと、とんでもない財と労力、時間をかけて作られていると思われた。
「中々堅牢そうな城壁だ。しかし、これだけ左右に広く作ると防衛が難しいな。野戦をしつつ城壁の上から魔術師による攻撃が効率的か? かなり遠目からでも敵を視認出来るのは良いが、もう少し防衛する為の設備が欲しいところだな」
城壁を眺めてすぐにパナメラはそんな評価を口にした。すぐに戦いの場を想定する辺りがパナメラらしい。
「でも、とても大きくて立派ですね。これを作るのは大変だっただろうなぁ」
そう呟くと、パナメラは鼻を鳴らしてこちらを横目で見た。
「少年が言うと嫌味になりそうだな。だが、まぁ古い街にしては中々の城壁だ。戦場になることが少なかったのかもしれんが、あれを維持するだけでも相当金がかかるぞ」
「いや、僕の場合もエスパーダとか一流の土の魔術師の方が手伝ってくれているからですし」
「そんな次元じゃないだろうが」
パナメラとそんな会話をしている内に、城壁はどんどん大きくなっていく。ついに城壁の間近にまで接近すると、本当に見上げるような壁となった。
そして、そんな城壁に設置された城門も巨大である。巨人が背伸びをしても通れそうな大きな両開きの門だが、この様式も古そうだ。木製の門に鉄板を張り付けてあるのか、重々しい雰囲気である。
「そこの御一同! お名前をお聞かせ願いたい!」
城門の前に立つと同時に、城壁の上からそう言われた。これにパナメラの部下のマカンが答える。きちんとパナメラだけでなく僕まで紹介されてしまった。
すると、城壁の上では明らかに動揺する気配が広がっていく。
「か、灰燼の女帝だ……」
「もう王都は終わりなのか……」
なにやらパナメラの新しい二つ名が聞こえてきたぞ。噂に尾ひれがつくようにどんどん渾名が増えているのかもしれない。
「おい、何か変な名で呼ばれなかったか?」
パナメラが目を細めてマカンを見ると、マカンは律儀に頷いた。
「はい。恐らく、灰燼の女帝と呼んでいたかと」
恐怖の大王に真実を伝える役目はマカンが担ってくれたようだ。ありがとう、マカンさん。
そんな間の抜けたことを思いながら城壁のヒビの数を数えていると、パナメラは噴き出すように笑い出した。
「中々物々しい名を付けられたな。まぁ、以前小国と争っていた時に付けられた鮮血の魔王だか何だかよりマシだ」
と、パナメラは一笑に付している。パナメラは過去に参加した戦いでいったいどんなことをしてきたのだろうか。ちなみに、聞く勇気はない。




