商談は大成功。次は村の拡張
夕食をともに食べ、ベルとランゴがアーマードリザードの肉に大喜びして舌鼓をうっていた。
夕食の中で今後の展望も聞かれる。
僕なりの村の次の形を伝えると、ものすごく興味を持っていた。好感触だ。
大型の商団で月に一回来るか、今の規模を少し拡大して月に二回来るかということを質問され、月に二回が良いと答えておいた。
調味料や酒はありがたいからね。食が充実するだけで村人達のテンションが上がり、活気に繋がる。
しかし、武器の宣伝も頼むと渋い顔をされた。どうやら、兄弟で独占販売を目論んでいたようだ。甘いぞ、二人とも。
同じルートでいつも行商してる二人が揃って剣の販売なんてすれば、すぐにこの村まで辿り着く。
ならば、最初から宣伝しておいて、売れれば売れるほど利益が出る仕組みを考えれば良い。
そう告げると、二人は目を見開いて食いついた。
「どうやって!?」
「この村に店を構えて販売する。店主か行商か、どちらかは人を雇って行えば可能だよね」
僕の答えに、二人は笑みを浮かべて顔を見合わせる。
結果、形になるまではベルがこの村に店を構えることになった。ご祝儀として、特別に金貨五枚で家を建ててやることにする。
これでこちらも色んな商人と何度も交渉せずに済むので有難い。
実は両者得になる取引なのだ。
なにせ、ベルとランゴにとっては安定した収入を得て、自分の店まで持てる。
こちらは僕の時間節約になり、更には村の中に初めての店が誕生する。これは大いなる進歩だ。
僕達は談笑とともに、商談を終えたのだった。
翌日、朝からランゴがエア達と共に村を出ると言って準備を始めた。倦怠期の夫婦の喧嘩みたいだが、内容は前向きであり商売的理由からだ。
利益を最大限に発揮するためには、速さが最も求められる。
故に、ランゴは商会を説得して人手と資材を得るために早々に動き出した。商会を説得する材料は僕の剣とアーマードリザードの皮と魔核。
上手くいけば、次にランゴが村に来る時は立派な隊商で現れるだろう。さらに、その二週間後には別の隊商も来るはずだ。
ランゴは特注の槍を買ってホクホク顔のエア達と共に、村を去った。
ちなみに、功績を全て譲るべく、ランゴにはムルシア宛の手紙を持たせている。まぁ、僕の封蝋付きだから大丈夫だろう。
ランゴには最後まで何故手柄を譲るのかと疑問を問われたが、曖昧に濁しておいた。
村を去るランゴ達を見送ってから、ベルに顔を向ける。
「よし。じゃあ、チャチャっとベルの店を建てようか」
「え? 今からですか?」
何故か驚くベルに、僕は手招きする。
「この大通りに面してた方が良いと思うけど、入り口近くで良い?」
正面の大通りを指し示しながらそう尋ねると、ベルは入り口すぐの空いた部分を指差す。
「……あそこが良いですね。入り口からすぐに見えますし、利便性も高そうです」
「じゃ、そこにしようか。次は間取りかな。こっちが入り口で、正面にカウンターとかどうだろう?」
「そ、そうですね。店の中が見える形の方が良いと思います。カウンターも良いですが、商品の陳列の仕方も工夫したいですね」
「スーパーよりは雑貨屋みたいな感じが良いかな。輸入雑貨のお店みたいなのも雰囲気が良いし。いっぱい並べるよりも少しずつ並べた方が高級感出るみたいだし、剣とかは壁掛けで一種類一本ずつ置いてみる?」
「え? あ、そ、そうですね。それも良いかもしれません。しかし、そうすると在庫を置く場所を考える必要が……」
「地下室作ろうか。二階を住居にすれば充分広く使えると思うけど」
トントン拍子に話は進み、驚くほどスピーディーに店舗の間取りが出来た。
まぁ、後で不満が出れば一部を作り変えれば良いのだ。一回のリフォームは無料でやってやろう。
地下室を作るということでエスパーダを招集したが、地下室のリフォームは難しいだろうな。
そんなことを思いながら、僕はカムシンとティルが運んできたウッドブロックを家を建てる場所に並べ、イメージを固める。
後ろでベルが首を傾げる気配を感じるが、放置だ。
いつものように魔力を集中し、ウッドブロックの形状を変えていく。
「え!? え!?」
奇声が上がるが、それも無視。
柱を立て、地面はエスパーダに土の魔術で掘ってもらう。多少の穴さえ出来ればこっちのものである。
床、壁、天井を作って地面を支えていき、最初に作った柱と連結させていく。そして、また地下室を作っていった。
気がつけばそこそこの広さの地下室が完成していた。気になったので太い柱を四本設置したが、それでもかなりの在庫を保管出来るだろう。
目を皿のようにして地下室を歩き回るベルを放置して、今度は一階部分と二階部分を作り上げる。
村人の為に相当数の家屋を建設してきたため、ベルの店もあっさり完成した。時間にすると、地下室に一時間、一階二階は合わせて十五分くらいである。
地下室を我を忘れて見て回っていたベルが驚いたのは言うまでもない。なにせ、地上に出たと思ったらもう店も住居も出来ていたのだから。
信じられないものを見るような目で見られたが、僕は一切気にせずに話を進めた。
商品は二週間後までに用意しておけば良いということなので、ベルの店関係は一先ず終了とする。
昼になり、アーマードリザードの肉を調味料たっぷりで舌鼓を打ちながら食べて、僕は村の外へ行くと告げた。
「エスパーダとディー達も連れて行こう。後は、村の外に詳しい人を」
そう言って人を集め聞いてみた。すると、ロンダが狩人のインカが良いと意見を述べる。
「インカは狩りをするためとても目が良いのです」
君たち皆異常に目が良いじゃないか。
そう思ったが、何も言わずに頷いておく。なにせ、呼ばれたインカは胸を張って片目を瞑ってみせている。
「……じゃあ、川まで案内してもらおうかな」
そう告げると、インカは頷いて前を歩き出した。
ディー達やオルトも森に素材集めに行くということで、一緒に村から出た。
仕事があるのでエスパーダも付いてきている。後はティルとカムシンだ。
村から出て街道を進むこと十分。そこから街道を外れ、一路北へ進路を変更する。
道無き道とまでは言わないが、中々の悪路だ。馬車でこなくて良かった。
「大丈夫ですか?」
心配そうにティルに聞かれるが、意地でも元気良く歩く。
「大丈夫。頑張る。ティルは大丈夫?」
周りへの気遣いも忘れない。僕は男の子だ。
「はい。ありがとうございます」
嬉しそうに礼を言うティルとホワホワしながら歩く。カムシンは僕達の前を歩きながら、雑草だったり邪魔な石だったりを排除している。
なんと紳士な男か。
暇な道中、何とかカムシンよりジェントルマンになろうと努力したが、寡黙にやるべきことをこなすカムシンは強敵だった。
勝手にライバル心を燃やして獣道を進んでいると、気がつけば目的の川に辿り着く。
思ったより綺麗で大きな川だった。
橋か舟を渡さないと向こう岸に行くのは大変そうなくらいだ。まぁ、見る限り水棲の魔獣も見当たらないが、流石に泳いで渡る気にはならない。
水面がキラキラと光を反射させている様子は美しく涼やかだが、問題はこの川が使えるかどうかである。
「さぁ、エスパーダ。この川からちょこっと水をいただこう。引き込み工事開始だ」
「畏まりました」
僕の指示に、エスパーダは恭しく頭を下げた。
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