バーベキュー大会とアルテの悩み
「ヴァン様ー! バーベキュー大会の準備が出来ましたよー!」
ティルが遠くの方から準備完了の報告をしてくれた。一方、こちらはエスパーダ指揮の下、アルテや稽古終わりのカムシン、騎士団の面々によって木々が丸太状態で次々に持ち込まれている最中である。
「あ、アルテ様! 我々が運びますから!」
「だ、大丈夫、です……」
大して手伝えていないと思うが、アルテも懸命に丸太の端っこを持って運んでいる。というか、騎士の面々が気を使っている状態だ。
「……よし、とりあえず二棟完成したし、今日のところはバーベキュー大会でパーッとしようか!」
気持ちを切り替えるべく、僕は大きな声でそう言って建築の手を止めた。ぶっちゃけ疲れ果てているはずの騎士団の一部やカムシン、アルテはホッとしたように返事をしていた。セアト村で留守番していた面々はただ単純にバーベキューを喜び歓声を上げている。
会場へ移動すると、すでに通りの真ん中には等間隔にキャンプファイヤーが出来上がっていた。いや、焚火というにはデカすぎるのでキャンプファイヤーと呼んでいるのだが、セアト村の面々もたいがいパーティーピーポーばかりである。街のど真ん中であんなでかい火を起こすなど普通ではない。
そして、周囲には肉の塊が木の皿の上に大雑把に盛り付けられており、果物だの野菜らしきものもドカドカと皿の上に盛りつけられているが、皆の目が行くのはタルに入った酒精ばかりである。今回は若い女性にも人気の果実酒も多めに準備してもらったので、大人は皆お酒が気になって仕方がないといった様子だ。
「おぉ、もう準備はバッチリだね」
そんなことを言いながら会場入りすると、セアト村の皆から歓声が上がった。
「ヴァン様ー!」
おお、我を崇め奉る声が聞こえてくるぞ。まさか、超天才少年ヴァン君の熱烈なファンがここまでの人数になっているとは。よし、新しい宗教を設立しよう。
そんなことを思いながらファンサービスとして神々しい微笑みを向けながら歩いていると、さらなる歓声が鳴り響いてきた。
「わー! 早く始めろー!」
「肉だ、肉ー!」
「ヴァン様、十歳からお酒良いですかー!?」
と、熱烈を通り越して猛烈な歓声が四方八方から聞こえてくる。おお、ヴァン君を称える声ではなかったのか。この罰当たり共め。通常の半額以下だった税金を十倍にするぞ。
純真なヴァン君は傷心のあまり心の中で罵声をあげながら広場の真ん中まで移動する。
そして、将来税金が十倍になるとは知らずに野次を飛ばす住民たちを振り返った。まぁ、冗談だけど。
「はい! バーベキュー大会を始める前に言っておきますが、お酒はセアト村では二十歳になってからです! これが村の決まりね!」
第一声でそう告げると、ものすごいブーイングが起きる。
「えー!」
「なんでですか!?」
「あんまりだ!」
と、未成年どもが騒ぎ出す。最近は若い人の割合が増えてきたのか、ブーイングの勢いが物凄い。よし、税金を二十倍にしよう。ごめんなさいと言えた人は一年間税金免除。
若干頬を引き攣らせながら、改めて開会の挨拶に戻る。
「はいはーい! それでは、バーベキュー大会を始めます! まずは、乾杯の為にコップに飲み物を入れてくださーい! あ、お酒は二十歳から! 十九歳以下でお酒を口にした人がいたら罰としてディーの特別訓練に参加してもらいます!」
注意事項と違反者への罰を告げると、途端にブーイングは止み、辺りに静けさが戻った。
静かになったギャラリーを軽く見渡して、ティルから飲み物を受け取る。もちろん、僕もお酒ではなく果実水である。
「それじゃあ、セアト村の発展とスクーデリア王国の勝利を祈って、乾杯ー!」
「かんぱーい!」
皆で大きな声で乾杯を唱和し、飲み物を一斉に飲んでいく。大人は酒を呑んだ瞬間から上機嫌になり、若者たちは肉を食べて笑う。一気に大宴会の様相を呈していくバーベキュー会場。賑やかさ故か、どこかで歌を歌う声も聞こえてきた。
眺めているだけでとても楽しい気分になる。
「……久しぶりですね」
ティルがしんみりとした様子でそんなことを呟く。
「そう? そんなに久しぶりだったかな?」
なんとなく聞き返すと、ティルは首を左右に振って苦笑した。
「いえ、そう感じただけです。多分、色々あったからだと思います」
ティルにそう言われて、確かにと頷く。
「そうだね。今回は本当に大変だった。でも、センテナは強化できたし、父上は負傷してもストラダーレがいるから大丈夫だよね。あ、タルガさんは凄く良い騎士だったなぁ」
そんな感想を口にしつつ、隣を盗み見る。すると、表情が少し暗いアルテの横顔があった。やはり、バーベキューの楽しそうな雰囲気ぐらいでは感化されないらしい。
どうにか良い方法は無いか。ぐるぐると頭を悩ませた結果、一つの方法を思いついた。
「……アルテ。ちょっとだけ人形を操ってみてくれる?」
そう声を掛けると、アルテは驚いて振り向いた。
「え?」
生返事をするアルテに頷きつつ、一つのウッドブロックを手に持って頭の中でイメージをする。小さな子供ほどの大きさだが、細部までこだわって作ったドレス姿の女の子の人形だ。動きやすいように少しスカート部分が短いが、それでも品のある衣装になったと思う。
もちろん、関節部分は全て可動式である。
「この人形を、前みたいに踊らせてくれるかい?」
そう告げると、アルテは少し戸惑ったような表情をしつつ、頷いて魔術を行使し始めた。バーベキュー大会は既に最高潮であり、アルテが人形を動かし始めても殆どの人は気づいていない。
しかし、小さな子供が人形の踊る様子を見て声をあげ、その両親らしき男女も人形の踊りに感嘆の声をあげた。
「わぁー!」
「綺麗な踊り……」
そんな感想を聞き、少しアルテは照れたように俯く。人形は生きているかのように滑らかな動きで踊り続けている。その内、近くにいる人、子供の声を聞いた人が、徐々にアルテの人形の存在に気が付いていき、その踊りを見ながらまた盛り上がり始めた。
アルテの魔術で動く人形。それを中心に人々が集まり、楽しそうに笑い、驚いてみせる。その様子を見て、少しずつアルテも嬉しそうに笑うようになってきた。
「……大丈夫そうかな?」
アルテの様子を眺めながら、小さく呟く。
大事にしていた人形を傷つけてしまい、自信を持ちつつあったアルテは激しく後悔し、再び自信を失いつつあるように見えた。だから、少しでも自信を取り戻せないかと思っていたのだ。
本当なら、人形を操る傀儡の魔術だけでなく、他のことでも自信を持てるようにできたら一番だったのだが、そう簡単にはいかないだろう。少しずつ、アルテが前向きになれるように日々を過ごそう。自分に自信を持ち、自分のことを好きになれれば、アルテはもっと嬉しそうに笑ってくれると思う。
そんなことを思いながら、僕は果実水を口に含み、ティルが焼いてくれたお肉を食べる。
表面がカリカリとしており、少し力を入れて齧った。香ばしいお肉の香りが鼻孔をくすぐり、柔らかい肉の内部からは甘い肉汁が口の中に広がった。甘みのある肉は塩と黒コショウだけで食べても美味しいが、ヴァン君特製の焼き肉のタレで食べても大変美味である。
少し甘辛く味付けしたヴァン君特製の焼き肉のタレが加わると、肉自体の甘さも合わさって素晴らしい調和が感じられた。
「うわ、美味しいね。外はカリカリで中はジューシー! これはビールか赤ワインが美味しいかな?」
あまりの美味しさに、思わずそんな感想を口にする。
すると、ティルが目を丸くしてこちらを見た。
「……ヴァン様? お酒は二十歳からですよ?」
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【奇跡の聖女は身分を隠したまま新たな国を興す】
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