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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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パナメラの判断

「歯痒い」


「は?」


 新しいセンテナの要塞としての防衛力、設備の数々を見て回った後、パナメラが眉根を寄せて変なことを呟いた。


「虫歯ですか?」


 そう尋ねると、背中を音が鳴るほど叩かれた。


「私は虫歯になどなったことがない!」


「えぇ? それは嘘でしょう?」


 懐疑的な目を向けると、パナメラに睨まれてしまったので口を閉じる。僕が黙ったのを確認すると、パナメラがバリスタが並ぶ前で両手を広げて皆を振り返った。


「これだけすれば、確かにイェリネッタ王国やシェルビア連合国が攻めてきても防衛は出来るだろう。この場に全兵力を傾けることはできないのだから、防衛するだけなら十分過ぎる戦力だ。しかし、それで満足か? 大将に据えたフェルティオ侯爵は半死半生の重傷を負わされ、数多くの犠牲が出た。このセンテナを見れば、あのイェリネッタやシェルビア連合の意気地なし共は向かってこないかもしれない。それで良いのか?」


 パナメラが挑発するように、皆に向けて疑問を口にした。それに、一部の騎士は俯いて悔しそうな表情を浮かべる。ストラダーレも同様だ。そういった騎士達が少なからずいることを確認して、パナメラは笑みを浮かべた。


「私に策がある。乗るか? 必ず、敵に目にものを見せると約束するぞ?」


 パナメラがそう言葉を続けた時、騎士達の目に火が灯ったような気がした。


 こうして、パナメラはあっという間に自らの騎士団とセンテナの騎士団、フェルティオ侯爵家の騎士団をまとめて新たな部隊の編成を指示し、攻撃の為の作戦を共有した。作戦は無謀だとも思えたが、不思議とパナメラが口にすると妙な説得力があった。


「少年。父親の敵討ちだ。例の馬車と機械弓部隊を全員貸せ」


「死んでませんが!?」


 パナメラのとんでもない発言に思わず大声で突っ込んでしまった。すると、パナメラは肩を揺すって笑う。


「そういえばそうだったか。まぁ、私が傷を焼いて止血したから生き残ったんだ。許せ」


 パナメラにそう言われて溜め息を吐きつつ、自軍の状態を確認する。センテナの防衛のために要塞の改築をメインでやってきた為、装甲馬車は全部で十五台しかない。機械弓部隊も連れていけるとしたら五十人程度だ。


「一日時間をもらえたら馬車を五台くらいなら追加で作れますが……」


「ダメだ。相手はこの強化されたセンテナを見て何かしらの行動を実行するだろう。読めない行動に出られる前に、こちらが相手を翻弄する必要がある。最も面倒なのは、イェリネッタ王国の騎士団が王都まで戻ってしまうことだ。逆に今この場でイェリネッタ王国の騎士団を全て倒し、シェルビア連合国にも大打撃を与えることが出来たなら、場合によってはその瞬間戦争の勝利が決定づけられるだろう」


 と、パナメラは待ってもくれないようだった。まぁ、言いたいことは分かるが、もし攻勢に出た時に山間から奇襲を受けたら大変である。防衛のための戦力も残さなくてはならない。


「それでは、馬車を十台と機械弓部隊を二十名行かせましょう。ただし、機械弓部隊は最後尾です」


「……少ない。あまりにも少な過ぎるぞ」


「いやいや、うちはそもそも騎士団の総数が少ないんですから……」


 パナメラが不服そうに文句を言うので、眉間に皺を寄せて文句を言う。


「馬車は十台だけか? もう少し奮発しても良いだろう?」


「ダメです。そもそも、僕は反対なんですからね? この十台でも十分でしょう? 危ないと思ったらすぐに撤退ですよ?」


 口を尖らせて抗議するパナメラに、似たような表情を作って言い返す。すると、パナメラは深々と溜め息を吐いた。


「はぁ……少年、ケチな男にはなるなよ? 心の狭い男はつまらんぞ」


「無償提供ですからね。むしろ我ながら太っ腹だと思っています」


 パナメラの苦情をさらりと受け流す。パナメラは面白くなさそうに首を左右に振り、自身も準備を始めたのだった。





 僅か一、二時間程度だろうか。パナメラの号令の下、多くの騎士が招集された。その最前列でストラダーレやタルガとともに並んで立っていると、パナメラが奥の一際大きな馬車を見た。


「……少年が乗る馬車だけやたらと大きくないか?」


「それだけ色々積んでますからね。どうせ僕じゃないと使えないんだから、あげませんよ?」


「使える者を一人貸してくれれば私とともに最前線で戦えるものを……」


「ダメです」


「えぇい、頑固者め」


 頑なに断り続けると、パナメラは地面を片足でどすんと踏みしめながら怒った。そして、肩を怒らせながら城門の方へ向かい、自らの美しい白い馬に乗る。


 パナメラが馬に乗って馬の向きを変えると、大人数の騎士が一斉に背筋を伸ばす。パナメラはそれら精鋭の騎士団を見回し、口を開いた。


「ヴァン男爵が少々ケチであることが分かったところで、そろそろ我らも行動を起こすとしよう。これまで散々っぱら攻められて鬱憤が溜まっているな? その鬱憤を思いきりぶつけてやろうじゃないか。イェリネッタの火砲など恐れるに足りん! 飛竜であろうと私が焼き払ってくれる! さぁ、立ち塞がる敵を全て打倒してくれようぞ!」


 パナメラが慣れた様子で指示を飛ばすと、二千を超える騎士団が一斉に喊声のような雄叫びを上げた。特に、主君に重傷を負わせてしまったストラダーレの気合は半端ではない。いつもなら無表情に馬に乗っているだけなのに、剣を掲げて叫んでいた。誰がケチだ、誰が。


「……大丈夫でしょうか?」


 不安そうなアルテの疑問に、肩を竦めて小さく息を吐く。


「一応、付いていくけどね。まぁ、しっかり対策したから、前回みたいにはいかないはずだよ」


 そう答えつつ、内心はとても不安だった。


 出来たばかりの城門が開かれていき、外の光が差し込んでくる。当たり前だが、シェルビア連合国側の領土には誰もいなかった。斥候からは、撤退したまま一切動きが無いと報告があったのだから当然である。


「さぁ、予定通りに行くぞ。外で陣形を組め。タルガ殿は最上階から残った機械弓部隊を使って援護を頼むぞ」


「はっ! お任せください!」


 気づけばすっかりパナメラに従順になったタルガが敬礼をして返答した。本当なら僕もセンテナに残りたかったが、パナメラの作戦に僕が組み込まれてしまっている気がしてならず、断る勇気がなかったのが口惜しい。


 パナメラはこちらの思いなど一切気にせず、馬を操って一番にセンテナの外へと出ていく。悔しいことに、パナメラが馬に乗る姿は絵になる。金髪を揺らし、堂々とした姿で最前列を進むパナメラの姿を見て、一般の兵士たちは士気を上げるに違いない。


「前列! 迅速に隊列を組め! 後列は順次列に加われ! 別動隊はそれぞれ決められた距離を維持して進軍しろ!」


 パナメラは素早く指示を飛ばしていき、一人前に出ていく。騎士団は慌てた様子で隊列を組みながら付いていった。


「……仕方ない。ロウは機械弓部隊、装甲馬車と一緒に付いて行って。砲撃がきたらすぐに装甲馬車の後ろに隠れてね」


「はい!」


 緊張した面持ちでロウが返事をして、パナメラ達の騎士団の後に付いていく。こちらは人数が少ないこともあってきっちりと列を作って行軍を開始する。それを確認してから、僕は自分用の大型装甲馬車に乗り込むのだった。






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