準備と挨拶
さてさて、いろいろと準備をして快適な旅にしなくてはならない。フェルティオ侯爵領の領都まで大人数で移動となると三週間はかかる。さらに、そこからシェルビアとの国境まで移動となると三週間追加だ。片道一ヶ月から一ヶ月半の旅路となると中々しんどい。
なので、ヴァン君特製の豪華な馬車を作ることにした。モデルにしたのは前世の地球で流行った超高級観光列車『シチセイ』である。ちなみに乗ったことは無い。乗ってみたいなぁと思いながらインターネットで画像を見たりしていたくらいである。
そんな曖昧なイメージのもと、超高級馬車『カリナン』の製作にとりかかる。ウッドブロック製の骨格はこれまでの馬車と変わらないが、内装は褐色の木材で天井、壁、床の雰囲気を統一し、扉や窓枠には金の装飾を施す。ベッドに出来る座面の深い椅子のクッション部分は黒い魔獣の革を使って高級感を際立たせている。ちなみに窓には木製ブラインドを取り付け、美しい装飾のランプも設置した。
ぱっと見ただけでも王族が使うような豪華絢爛な内装だ。さらに、馬車の外も装飾にこだわっている。黒塗りの下地に金細工で装飾をして控えめながらも高級感はしっかり出せているはずだ。
その証拠に、出来たばかりの馬車を見てアポロが感嘆の声を上げたくらいだ。
「おお! 今から馬車を作ると聞いて内心焦っておりましたが、まさかこれほどの馬車を一日で作られるとは!」
アポロはそんな感想を口にしながら馬車の周りを踊るように歩き回った。
世界最大のギルドである商業ギルドの一員であり、各国を見て回っているであろうアポロが驚くならかなり出来が良いはずである。個人的にも良くできたと思っているのでご機嫌さんで返事をした。
「けっこう拘って時間が掛かっちゃいましたけどね。でも、乗り心地もすごく良いと思いますよ」
「いえ、驚くほど早い完成でしたが……」
アポロは若干呆れながらそう言って馬車の車輪や車体の造りを確認するように眺める。強固な車体や衝撃吸収用のバネ、内装などを食い入るように観察している。生粋の商人ということもあり、これがいくらで売れるのかと頭を働かせているのかもしれない。
そんなことを思っていると、いろいろと準備を進めていたロウが戻ってきた。
「ヴァン様! 御着替えと保存食、各種調味料の準備ができました!」
「うん、ありがとう!」
どうやら、長期間の旅路で最も重要なものが揃ったらしい。荷馬車を何台も引き連れたロウに感謝の言葉を告げた。カムシンやティルが素早く荷馬車に大量に積まれた荷の確認に向かい、その量に驚く。
「すごい量ですね」
「あ、調味料もたくさん! これなら普段通りの料理ができそうです!」
カムシンとティルが爪先立ちで荷馬車の荷台に上半身を乗せ、声を上げている。その後ろ姿にアルテが口元に片手を当てつつ、小さく笑い声をあげて口を開いた。
「本来なら大変な道のりでしょうが、ヴァン様のお陰で快適に過ごせそうです」
「そうだね。辺境とはいえ、スクーデリア王国内の街道に沿って移動するから、危険も少ないだろうしね」
アルテにそう答えつつ、実は内心では少し不安な部分もあった。なにせ、今回は少数での移動である。そもそも、ディーとアーブが長期間近くにいないことがなかった上に、エスパーダもセアト村に残さなければならない。セアト騎士団の大半の団員もセアト村防衛のために残すことになる。
つまり、ロウ、アルテ、カムシン、ティルと機械弓部隊の精鋭のみを連れて少数で移動するのだ。フェルディナット伯爵領が襲撃されたように、別の場所から侵攻してくる可能性が無いとは言い切れない。
いや、冷静に考えれば自らの懐に城塞都市を築かれ、いつ王都まで進軍してくるかという状況なのに下手な場所から攻めてくるとは思えないのだが、何となく少人数での移動は不安になってしまう。
まぁ、一番初めにセアト村に来た頃に比べれば遥かに良い境遇なのだが、すっかり普段の生活に慣れすぎてしまったのかもしれない。
「……さて、これで今日中に準備はできるだろうから、明日の朝にでも出発しようかな。皆、忘れ物はない?」
アルテやカムシン、ティルに向けてそう声をかけると、ハッとした顔でティルがこちらに振り返った。
「あ! そういえば、アプカルルの皆さんとドワーフの皆さんがヴァン様がしばらく不在だと聞いて面会を希望されていました!」
「え? もう三日くらい前から言ってたのに?」
「……確か、一昨日そんな話を小耳に……」
「挟んだんだね、小耳に」
どうやら報告を忘れていた様子のティルに苦笑しながら返事をすると、ティルは「えへへ」と笑って誤魔化したのだった。
夕方、ティルに報告を受けたので早速アプカルル達のもとへ向かった。
「ヴァンよ。戦に出ると聞いた」
「武運を祈り、この石を授ける」
アプカルルの族長であるラダヴェスタとアフトバースが厳めしい顔でそう言って、何かの鉱石を差し出してくる。いつもより大きく、色が濃い鉱石である。
「あれ? これって……」
これまでに二回似たような鉱石をもらったが、色と質感からすると例の伝説とまで謳われたあの希少金属ではなかろうか。そう思って二人を見ると、深い首肯が返ってきた。
「これは我らでも中々見ることができない石である」
「最近は我らも人間にならってオリハルコンと呼ぶようにした」
そう言われて、内心で小躍りしながらも恭しく受け取る。
「ありがとう。大切に使うよ」
答えながらオリハルコンの原石を受け取った。ずしりと重い、大きな塊だ。
これで、あの計画が一歩前進する。
そう。勇者の装備一式の作成である。つい最近、オルト達がミスリルの装備一式をついにコンプリートしたのだが、統一感があるせいか、王家の近衛兵と並んでも全く見劣りしないほどだった。
これは、ディーやカムシンの装備をオリハルコンで揃えたら、すごいのでは?
そんな安易な発想のもと、オリハルコンが手に入らないか画策していたのである。
一先ず、オリハルコンを領主の館に保管しようとウキウキしながら移動していると、次に会いに行こうと思っていたドワーフ達に偶然遭遇した。
先頭に立つハベルがこちらに気が付くと上機嫌な様子で片手を上げて口を開き、そのまま固まった。
「おっと……なんだ、なんだ!」
「ハベル! 何を立ち止まっておる!」
ハベルが立ち止まると、後ろに並んでいたドワーフの仲間たちが大声で怒鳴る。そして、僕がいることに気が付き、笑顔で片手を上げて口を開き、そのまま固まった。
皆揃って似たような恰好で固まったのを見て、ティルが噴き出す。
「ハベルさん達、石像みたいになってます」
その声に反応したのか、ハベル達は再起動した。そして、鬼のような形相でカムシンが持つオリハルコンの鉱石を凝視する。
「お、おお、おおぉい!?」
「そ、そりゃあ、お、オリハルコン鉱石じゃねぇか!?」
「しかも見たこともねぇデカさだ……!」
一気に騒がしくなるハベル達。これはマズい。
「カムシン、隠して!」
「は、はいっ!」
「いや、もう遅過ぎるわい!」
皆さまのお陰で次にくるライトノベル大賞2022にて、単行本部門3位の快挙☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
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