表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/363

セアト村へ帰宅

 なんだかんだあったが城塞都市ムルシアは完成となり、ようやく帰れることとなった。


「かなりの大仕事だったけど、これで陛下からの依頼は全て完了です。皆さま、本当にお疲れ様でした!」


「はっ!」


 スクーデリア側の城門前で集まり、挨拶をする。それに居並ぶ騎士団が野太い返事をした。


 最前列には代官のムルシアと臨時騎士団長のディー、アーブが並んで立っている。その後方にはセアト村騎士団二百名とムルシアの手勢百名。更に、城塞都市ムルシアに残る冒険者たち十名ほどが並んでいる。


 対して、こちらは超天才少年のヴァン君と超美少女婚約者アルテ、超美少女?メイドのティル、最強になる予定の剣士カムシン。ついでにロウと商人のランゴ。最強機械弓部隊のボーラたち。更に案内役兼護衛の冒険者たち十名が並んで立っている。


「ベルランゴ商会からすぐに物資の補給がある予定なので、調味料やお酒も気にせず消費しちゃってくださいね」


 笑いながらそう告げると、ムルシアが苦笑しながら頷く。


「ありがとう。食べ物は大事だからね。その言葉だけでも気が楽になるよ。ただ、申し訳ないけど出来るだけ早く騎士団の援軍を頼みたいんだ。情けないけど、いつイェリネッタ王国軍が攻めてくるかと不安で仕方ない」


 困ったような顔でムルシアが答える。それに頷きつつ、頭の中で今後の予定を考えて口を開いた。


「はい。やはり、この城塞都市ムルシアが最前線となりますから、セアト村には最低限の人数のみ残して援軍を送る予定にしています。エスパ騎士団もいるので大丈夫でしょう。人口の増加計画が上手くいけば更に増援を送る予定です」


 そう答えると、ムルシアはホッとしたように表情を緩める。


「それは助かるよ。私も四元素魔術師ではあるけれど、一人で戦況を変えるほどの腕前じゃなくてね」


 と、なんでもないことのようにムルシアが呟いた。その言葉に、頭の中で色々とムルシアの魔術の使い道が浮かぶ。


 空気銃なども思い浮かんだが、風による遠隔での罠の発動が最も効果的だろうか。見た目が石造りの頑丈そうな橋を作り、いざという時はムルシアの風の魔術で即座に崩壊出来るような罠を作れば、物凄い戦略的効果を発揮するに違いない。


 そういった箇所を幾つも準備しておけば、大国を相手にした戦争でも防衛出来る可能性が上がるだろう。


「……いや、ムルシア兄さんの魔術は、もっと良い使い道があると思います。それはもう少し考えてみますね」


「え? そ、そうかな?」


「はい。せっかく貴重な魔術が使えるなら、最大限に活かす方法を考えないと」


 そんなやりとりをして、話を終えた。


 残る人には労いの言葉と防衛の大切さを伝え、セアト村に帰る人には緊張感を保ってウルフスブルグ山脈を越えるぞと伝える。


 なにせ、以前は大型の魔獣が兎や狸のようにひょいひょい出ていた危険な道のりだ。いくら街道を整備したからといって、油断は出来ない。


 そう思って、緊張感を持っていたのだが、良い意味で肩透かしを食らった。


 前回同様、凄腕の冒険者とバリスタ、機械弓部隊がいれば、ウルフスブルグ山脈縦断ツアーも楽なものである。魔獣が現れる前に発見し、討伐ができるのだ。


 さらに、馬車を伴った行軍がすいすい進めば危険に見舞われる回数も減る。


 山中で夜を明かす必要はどうしても発生するが、途中の開けた場所に三箇所ほど大きな宿泊施設を作って凌いだ。簡易的な砦だが、それでも安心して寝泊まりは出来る。


 そのおかげで、思っていた以上に快適かつスピーディーな帰宅が可能となったのだった。






 しかし、セアト村に帰ってからが地獄の始まりだった。帰宅してその晩はゆっくりしたものの、次の日にはエスパーダに呼び出され、緊急会議を開くことに。


「……おはよう」


 眠い目を擦りながら挨拶をすると、ビシッとした格好のエスパーダが頷いて答えた。


「おはようございます、ヴァン様。お仕事の時間となりました。まずは、以前ヴァン様から仰せつかっていた用件から」


「僕が言ったこと?」


「はい。能力のある者を育てるように計画していたはずですが」


 と言って、エスパーダの眼が鈍く光る。まさか、お忘れですか、と目が語っている。


「お、おお、覚えてます! エスパーダに部下として付けた子もいたよね! その子のことかな?」


 慌てて記憶を辿りながら話を合わせた。エスパーダは僕の冷や汗の数を数えるように睥睨しながら、ゆっくりと口を開く。


「……はい、その者を含めて、五名の教育が一次段階まで完了しました」


「五人! すごいね!? 一年も掛からずに五人も一人前に……って、一次段階って何かな? 聞いたことない単語だけど」


 首を傾げながらエスパーダに聞き返す。すると、エスパーダは片手の掌をこちらに見せるように手を挙げた。


「それぞれの教育課程を五つに分けて、平時の状況のみまかせることが出来る状態です。基礎を覚え、多少の応用が出来るようになったら二次段階としています。突発的な問題に対応を任せることが出来るのは三次段階以上ですな」


「へ、へぇ……それだと、僕は三次段階くらいかな?」


 少し謙遜しつつそう答える。すると、エスパーダは目を細めた。


「ヴァン様は、戦争に関することは四次段階でしょう。勉学も同様です。しかし、内政は二次段階。外交や貴族との折衝も二次段階と判断しています。ああ、商売に関しては三次段階で良いでしょうな」


「あ、ありがとうございます」


 辛口な評価をいただき、僕は肩を落としてお礼を述べる。それをどう受け取ったのか、エスパーダは自らの髭を撫でながら大きく頷いた。


「ヴァン様は得意な科目では驚異的な知識と行動力をお持ちです。しかし、礼儀作法や貴族間の関係性、他国との外交状況などの学び方が消極的です。今後は、苦手なものを無くすために努力しましょう」


「……は、はい。分かりました……」


 一番嫌いな科目を重点的にやるぞ、と言われてしまった。なんと悲しいことだろう。どこの伯爵が晩餐会を開いただの、あの侯爵がどこぞの子爵を舞踏会に招待したぞなど、本当にどうでも良い。


 こっちは引き篭もりやすい辺境の地に永住するつもりである。王国の要職に就きたいなんて野心もない。どこぞの派閥に入れば月に何回も晩餐会だったり舞踏会だったりがあるのだから、派閥など入るものではない。


 たまに来て大浴場に入って酒を飲むパナメラくらいの関係がちょうど良いのだ。


 口には出さないが、頭の中では貴族らしからぬ思考がぐるぐると回っていた。


 それを見越してか、エスパーダは深く溜め息を吐いてから口を開く。


「……そんな面倒なことを嫌うヴァン様のために、代官が出来る者を二人育てました。一人は元貴族の子女であり、その境遇から疑り深い部分も持ち合わせた逸材です。もう一人は騎士爵の家の長女ですが、素養は十分であると判断しています。今後はその二人も貴族との折衝に加わるようにします。その役割のために、二人は奴隷契約の解除を行い、私の養子として迎え入れております」


「へぁ!? い、色々聞きたいことがあるんだけど!?」


 エスパーダの報告に耳を疑いながら返事をする。対して、エスパーダはポーカーフェイスを崩さずに浅く頷いた。


「やはり、貴族たる者は心に陰を持たねばなりません。明るく馬鹿正直な者は利用されるのが世の常でしょう。そういう意味では家や家族を失い、奴隷にまでなった元貴族の者は素晴らしい素質を持っていると……」


 まるでリクルーターのように真顔で良い人材の紹介をしてくれるエスパーダに、頭を抱えたくなりながら無理矢理頷く。


「わ、分かったよ。その人たちのことは任せるから、良い代官を育ててね」


「はい、もちろんです。また、他の三名についても同様に財政を管理出来る者、物資の管理が出来る者、街並みや設備の管理が出来る者といった形でそれなりに知識を持たせることが出来ました。一度ヴァン様に面談していただき、彼らにどこまで裁量を持たせるかの判断をお願いしたいと思っています」


「……もう全部エスパーダに任せたいくらいだけど」


「それはなりません。この領地の最高責任者はヴァン様ですから」


「……はい」


 エスパーダに返事をした僕は、領地が大きくなったことで生じる面倒ごとに頭を悩ませるのだった。





お気楽領主3巻!

コミカライズ版2巻!

絶賛発売中です!

https://over-lap.co.jp/お気楽領主の楽しい領地防衛 3 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~/product/0/9784824002723/?cat=NVL&swrd=

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ