城塞都市ムルシア
あけましておめでとうございます!(((o(*゜▽゜*)o)))
今年もお気楽領主を是非読んでくださいね\\\\٩( 'ω' )و ////
人手が足りない。それも、圧倒的なまでに。
そう思いながら、ディーが行う防衛訓練を眺める。
「左! 判断が遅いぞ! 敵の有効射程は正確に把握できておらん! こちらと同等の距離で攻撃できるとしたら、後は狙う精確さと速さで勝負するしかないのだ! 速さ、精確さが重要であると考えよ!」
「はっ!」
ムルシアを拠点の代官に任命してはみたが、流石に指揮したことの無いセアト村騎士団の面々をポンと預けて帰るわけにもいかない。
そういうことで、しばらくはディーとアーブが残って騎士団の維持を手伝うこととなった。ちなみに、今訓練している騎士たちの中にはムルシアの手勢である侯爵家の騎士たちが加わっている。人数は百人程度だ。なぜか護衛で付いてきた冒険者たちまでディーに鍛えられているのは不思議である。
その様子を横目に見つつ、天守閣に上がってきたランゴに振り向いた。ランゴは物珍しそうに周囲を見回しており、完全に観光客と化している。
「えーっと、物資の運び込みは完了かな?」
そう声をかけると、ランゴがハッとしたように振り向いた。
「あ、はい。言われた通り、保存食や調味料、酒を含めて馬車十台分の物資を納めさせていただきました。衣服もありますので、衣食住に問題はないかと思います。しかし、武器や鎧などはありませんが、大丈夫ですか?」
「待っている間に作っちゃったからね。バリスタ用の矢もいっぱいあるし、そのあたりは大丈夫そうだよ」
「流石ですね」
僕の回答に、ランゴは苦笑しながら頷く。
と、ランゴは思い出したように床を指さして口を開いた。
「ああ、そういえば……ヴァン様。この度は新たな領地獲得、おめでとうございます」
そう言われて、一番に口にするべき挨拶を忘れていたランゴに苦笑を返す。ベルが知ったらまた怒られるぞなどと思いながら、困っていますという表情を作った。
「それは良いことなんだけど、困ったことに人が足りないんだ。多分、セアト村も三千人以上が住んでると思うけど、こっちにも千人くらいは人が必要かなと思って……防衛の要だから騎士団だけでも千人から二千人は欲しいのに、今のままじゃ三百人くらいしか配置出来ないんだよね。かといって、セアト村の防衛力を下げるわけにもいかないし」
どうしたものかと頭を悩ませる。
すると、ランゴがなんでもないことのように答えた。
「確か、ヴァン様がお留守の間にまた五百人ほど増えたはずですが、それでも全く足りませんよね。急を要するなら、また奴隷を購入するのはいかがでしょうか? セアト村で働けるなら、どこに買われるよりも幸せですからね。奴隷たちも感謝すると思いますし」
「えー、そうかな? 奴隷大好きなヴァン君って噂が立たない? 奴隷をいっぱい買っている人ってあんまり良いイメージなさそう」
正直な感想を口にしてみる。それにランゴは曖昧に笑って片手を左右に振った。
「いえいえ、数年前などはよくありましたから。スクーデリア王国が領土を広げる度に大勢の戦争奴隷や孤児、借金奴隷が溢れ、それと同時に領土が拡がったことで働き手が足りない場所も多くありました。そういった場所では奴隷を買い求めて労働力にするなど普通のことでしたよ」
「まさに今の僕じゃないか。あれ? じゃあ、それこそイェリネッタ王国と戦っているから、奴隷が増えてるのかな? 戦争捕虜になっちゃった人とか」
昨今の奴隷事情はどうなっているのか。そう思って尋ねたのだが、ランゴは難しい顔で首を傾げる。
「……そうですね。今回はスクデットの奪還とフェルディナット伯爵領での防衛戦でそれなりに奴隷が増えたようですが、その戦争奴隷達は推奨しません。セアト村もこの拠点も、今後イェリネッタ王国と戦うための最前線になるでしょうし、裏切りなども考えると買わない方が良いでしょう。なので、借金奴隷や盗賊、山賊などに誘拐されてしまった者などを対象に検討をした方が良いかと」
「なるほど……それなら良い人そうな奴隷を選んでもらおうかな。あと、セアト村とこの城塞都市ムルシアまで行き来してくれる行商人の人とかがいたら声をかけてくれる?」
「分かりました……ところで、この拠点の名前は、城塞都市ムルシアで良いんですか? その、記憶違いでなければヴァン様のご家族にムルシア様という方が……」
「そうそう。ムルシア兄さんがここの代官だからね。ムルシア騎士団も作っている最中なんだよ」
質問にそう答えると、ランゴが微妙な顔で頷いた。同時に、背後から咳払いが聞こえる。
「え?」
振り返ると、そこには複雑な表情のムルシアが立っていた。
「……ムルシア騎士団はともかく、城塞都市ムルシアは聞いていなかったと思うけど」
不満そうな表情と声でムルシアがそう呟く。
これはまずい。怒られるかもしれない。
瞬時にそう判断した僕は、すぐに可愛い末の弟、ヴァン君として眉をハの字にする。
「え? ムルシア兄さん、嫌だったんですか……? ごめんなさい……これから、ムルシア兄さんの伝説が始まると思って、勝手に名前を決めたりして……で、でも、僕はムルシア兄さんに喜んでもらおうと……」
悲しげにそう言い訳を口にすると、ムルシアは少し慌てたような表情になり、両手を振った。
「あ、いや、そんな怒っているわけではないよ……少し恥ずかしかっただけで……」
「本当ですか? じゃあ、城塞都市ムルシアと、ムルシア騎士団を正式に認めてもらえるということですね?」
「え、えぇ? いや、でも、さすがに……」
「ありがとう、ムルシア兄さん!」
言い淀むムルシアに、有無を言わさぬ調子でお礼の言葉を述べる僕。心優しいムルシアは引きつった顔で笑うしかなかったのだった。
ちなみに、ティルから後で「流石に可哀そうです」とコメントをもらったりもした。
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