日本の名城で一泊するのは?
バーベキュー大会も楽しみだったが、実は和風な建築物での一泊がとても楽しみだった。
畳は上手く再現できなかったのだが、時代劇で登場するような天守閣や櫓の上からの景色は中々良いと思う。なにより、時代劇の見せ場でよく登場する板張りの長廊下や、襖で区切られた連続する和室といった部屋の再現は満足できる出来である。
早速、兵士達の休憩用に作った和室もどきの襖を幾つも開けながら歩いてみた。襖を両手で開き、次の部屋に行く。正面の襖まで部屋を突っ切って再び襖を開ける。それを何度か繰り返すと、最後はフロアの周りを囲う長廊下に辿り着く。
「おお、良い感じ!」
この再現度を理解出来るのが元の景色を知っている僕だけなのが悔しい。そう言いたいくらい、素晴らしい日本のお城である。壮大かつ機能美と様式美を併せ持った美しい城。これこそが日本の名城だ。
「……本当に不思議なお城ですね」
「こんなお城、初めて見ました。個性的で見たこともない物がいっぱいあります。それなのに、とても調和が取れていて美しく感じます」
ティルは面白そうに、アルテは感動した様子で城の中を見て回っている。カムシンは階段の急さに驚きながら各階の様子を見ていた。
確かに、階段の角度まで再現しなくても良かっただろうか。
そんなことを思いながら各階の状態を確認していると、恐る恐るといった様子でピニン達が階段を登ってきた。まるで敵地に潜入した諜報員のような慎重さだ。先頭で登ってきたピニンが僕を発見して、ホッとしたように顔を上げる。
「お、おお! ヴァン卿! 数時間で城が建ったと思ったら、まさかこれほど……」
「うむ……最初は木の板を貼り合わせて作ったのかと思っていたが……」
と、貴族達がキョロキョロしながら襖などを興味深そうに触ったりしている。どうやら、あまりにもすぐに建物が出来上がったため、見せかけだけのハリボテを作ったと思われていたらしい。まぁ、イェリネッタ王国軍が来た時にブラフで相手の足止めを狙ってのことだとしたら、ハリボテで立派な砦があると見せる作戦もありだろう。筋は通っている。
「……こ、この城には我々も泊まって良いので?」
ご機嫌を窺うような態度でピニンが聞いてきた。上目遣いが若干気持ち悪いが、それでも低姿勢でお願いするような話し方をしてきているため、優しく対応してやろうという気になる。
僕は笑顔で貴族のおじさん達に頷いてみせた。
「もちろんですよ! せっかくですから、守りに強いお城を作ろうと思って色々工夫を凝らしてみました。是非泊まって感想をください!」
そう答えると、貴族達は笑顔になった。
「おお! それはありがたい!」
「確かに、とても面白い造りですな!」
「参考までに、どのような仕掛けがあるのでしょうか?」
ご機嫌さんになった貴族達からそんな声が聞こえてくる。どうやら日本の城の様式美を理解してくれたらしい。何故か妙に嬉しくなり、重要な機密もしっかり説明をしてしまうことにする。日本のお城を好きな人は良い人に違いないからだ。
「このお城は守りに特化しています。高い櫓には全て最新のバリスタを設置する予定ですし、城壁にはこの城の周りと同じように屋上部分に壁を付ける予定にしています。その壁には等間隔に穴を開けて機械弓や火炎瓶などを城壁下に落とせるようにするつもりです。また、もし城内に潜入されても階段を狭く、急勾配にしているため、城内にいる者が上の階から槍を下方に突き出すだけで簡単には上がってこられないと思います。更に、今後はイェリネッタ王国側の街道に向けて広範囲に影響を与える改良型投石機なども設置を検討しています。これだけあれば、大型の竜と戦っても防衛は可能ですから、イェリネッタ王国軍が再度攻めてきても必ず防ぐことが出来るでしょう!」
熱く熱く、防衛について語る。すると、ピニン達は目を丸くして動きを止めた。もしかして、斬新な城のデザインなのに、防衛に関しては普通だから肩透かしを食らってしまったのだろうか。
これはまずいと、フォローがてら補足説明を加えることにする。
「あ、もちろん長堀を作って四方を囲むつもりですよ。他にも、出来るだけ長い間籠城出来るようにウルフスブルグ山脈側に作った砦とも合体させる予定にしています。そうすれば、勝手に魔獣などが攻めてきて食料も手に入りますからね。坂道の途中にそれぞれ城壁と城門を作っておけば、難攻不落の要塞となります」
そう言ってガッツポーズを見せると、貴族達は目を瞬かせてから再度固まった。暫くして、ピニンが代表するように口を開く。
「……そ、それは素晴らしい案ですな。とはいえ、かなり大規模な建設計画となろうと思いますが、いつ頃までに完成の予定ですかな?」
苦笑いにも似た不格好な笑みを浮かべて、ピニンが問うてきた。さては、自分たちがいつ帰れるか不安になったな。
そう思った僕は、素直に頷いて答える。
「頑張っても、一週間はかかるかと思います。申し訳ありませんが、皆さんの協力が無ければ二週間はかかるでしょう。もう少し、協力していただけますか?」
困った時は低姿勢でお願いする。それが重要である。そう思って腰を低くして頼み込む。それにピニン達は顔を見合わせて口を開いた。
「い、一週間でやると言っておるぞ……」
「想像以上にイカれた力ではないか……」
「……わ、私はもうヴァン卿に恭順すると決めました。お先に……」
「狡いぞ!?」
誰かが大きな声で他者を糾弾するようなことを言うと、他の者たちも段々と声が大きくなってきた。ぎゃあぎゃあと騒ぐ貴族達を眺めつつ、アルテに顔を向ける。
「……何人くらい残ってくれるかな?」
そう尋ねると、アルテは苦笑しながら首を傾げる。
「恐らく、全員が喜んで協力してくださるかと……」
なんと! 次にくるライトノベル大賞2022!
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